「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

間瀬

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23 王太子殿下の卒業

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 時というのは、常に進み続け、何があろうともこの世界の人間には止められないものですわ。
 もしかしたら次元を超えた向こうでは止められるのかもしれませんが、概念として時計にねじ込むことしかできないわたくしたちには不可能ですわ。
 つまりは、なんの進展もないまま、こうして漫然としている間にも時間は過ぎてゆくわけで――

「二年後はわたくしたちの番ですね、アリアンヌ様」
「……えぇ、そうですわねぇ……」

 本日は、ヴェルサイユ中等学園卒業生の方々の門出を見送る日ですわ。
 あの、結局何の意味もなさなかった話し合いの後、形の上では普段通りに接するようになりましたわ。
 学園では毎週月曜日と木曜日にお昼ごはんデジュネを共にし、土曜日の午後はデートに出かける。
 これだけ聞けば一般的な婚約者としてのお付き合いのように感じますでしょう。
 けれども、お昼ごはんデジュネの際はシャロウン男爵令嬢が同席しておりました。
 デートのときもそうですわ。
 何かと理由をつけたり偶然を装ったりといったようにして、必ずと言ってもよいほどシャロウン男爵令嬢が同行するようになっておりました。
 それが、もう、一ヶ月以上続いておりますわ。
 これを異常と呼ばずして、何を異常と呼ぶのでしょう?

「ラファエル王太子殿下は、フォンテーヌブロー高等学園に進学なさるんですよね?」
「ええ、そうですわ」

 そして、シャロウン男爵令嬢も。
 このヴェルサイユ中等学園は貴族のための学園であったため身分が重視されておりましたけれども、フォンテーヌブロー高等学園は平民も貴族も在学している、完全平等の教育機関ですわ。
 入学基準は、ただ一つ。
 学力。
 これだけですわ。
 そして、そういう経緯があるからこそ、学園にいる間は外界の身分関係なく接する、つまりは家格で呼んでも、区別してもなりませんの。
 ……あぁ……シャロウン男爵令嬢が、更にラファエル王太子殿下と親密になる図しか見えませんわねぇ……。

「マティルド様」
「はい、なんですか?」

 今日のようなパーティーでも、ファーストダンスこそ踊るものの、それ以降おそばに付いていてくださるわけではございません。
 わたくしとラファエル王太子殿下の関係――この、既に形骸化している関係のことを「冷え切った仲」と呼ぶ、ということは存じ上げております。
 そして、わたくしは、人形としてただただ耐え忍んで微笑んでいるというのは、性に合いませんの。
 ――たとえ、どんなに愛おしいお方の隣であっても。

「わたくしは、フォンテーヌブロー高等学園に進学してから、ご迷惑をおかけするかもしれませんの」
「それは……」

 わたくしの親友としてそばにいらっしゃったので、わたくしの言いたいことが通じたのでしょう。
 眉を下げ、心配そうな表情になられましたわ。

「大丈夫です、心配なさらないでください。わたくしはアリアンヌ様の親友ですから。いざというときには、わたくしもともに暴れまわりますよ!」
「……まぁ」

 なんて頼もしい友人を持ったのでしょう。
 わたくしは、正真正銘の果報者ですわね。
 知らず知らず、心の底からの笑みがこぼれておりました。

「これからもよろしくお願いいたしますわね、マティルド様」

 以前は気になっていた、ラファエル王太子殿下の意味深な視線も――もう、気にしないことにいたしましたわ。
 わたくしはおそらく、一生に一度しか恋をできない人間ですわ。
 ですからきっと、ラファエル王太子殿下への想いは、永遠に背負ってゆくことでしょう。
 けれど、もう、その気持ちを利用され、ていよく振り回されるのは止めることにいたしましたの。

 一歩一歩、こうして人間というものは成長し、強くなってゆくのかもしれませんわね。
 そんな、妙に感慨深い思いで、ホールの中心で踊るラファエル王太子殿下とシャロウン男爵令嬢のお姿を眺めておりました。
 シャロウン男爵令嬢の肩越しに飛んでくる、美しいヴェールの光は、今宵もまばゆく輝いておりますわ……。
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