クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル

諏訪錦

文字の大きさ
76 / 132
モロビトコゾリテ

4裏

しおりを挟む
隣に座っていた間久辺が席を立つと、途端にこのテーブルは沈黙に包まれた。まあ、当然と言えば当然だ。俺たち四人は間久辺を通して知り合いではあるが、単体ではほとんど接点がない。ましてや、協調性のねえ連中だ。自分から空気を読んで、場を盛り上げようとはしない。
それにしても、改めて見てもおかしな面子だ。
元最強の喧嘩屋に、街を仕切っていた蛇、そして地元が誇る高校野球のスーパーエース。まさか、あのオタクの間久辺がこの集まりの接点だとは、誰も思うまい。
このまま間久辺が戻って来るのを黙って待っていてもいいのだが、このメンバーが全員集まることなど、そうそうないことだろう(まあ、そう頻繁にあってもらっても困る)。
だから俺は、良い機会だと考え、甲津侭、アカサビ、江津の三人をそれぞれ眺めてから、ゆっくりと口を開いた。
「あんたら全員、知ってるんだよな? あいつの秘密を」
具体的に線引屋の名前を出さなかったのは、もしもこの三人が知らなかった場合に、予期せず正体が間久辺だと知られて、無用なトラブルに発展することを避けるためだ。こいつらには悪いが、俺はこの三人を手放しで信用できるほど理解してはいないし、それ以上に、間久辺の身の安全を最優先にしたい。
アカサビは小さく顎を引くような頷くと、それに続くように、甲津侭も「ああ」と答えて、首肯した。
江津は、人差し指を立てて、それを小さく折り曲げる仕草をしながら、「それって、これのことですよね?」と言ってくる。それはスプレーのノズルを押し込む動作だ。
やはり、この三人は間久辺が線引屋であることを知っている。
こいつらがそれぞれが抱えた問題の解決に、線引屋が少なからず尽力したことを、俺だけではなく、当人たちも理解しているはすだ。
「ーーーなら、話が早え。あんたらに折り入って相談したいことがあるんだ」
そう切り出した俺は、再び三人の顔を見比べるように眺め、言葉を継いだ。
「間久辺は、これからきっと大きなトラブルに巻き込まれることになる。これまでは、あいつの方からトラブルに向かって行った節があるが、これからは違う。この街で起きるトラブルの中心に、あいつが立たされることになるだろう」
「それは、なにか確信がある話なのか?」
甲津侭の言葉に、俺はかぶりを振って否定した。
「具体的な話ではないんだ。ただ、あいつがやっていることと、その影響力を考えたら簡単に想像できる。そもそも甲津侭。あんただって、元々は線引屋を狙っていた一人じゃないか」
「俺、その場に居合わせました」と、江津が話に混ざる。
「俺はあいつにとって、ただのクラスメイトです。だから、あんまり深く関わるつもりはないし、そもそも間久辺だってそんなこと望んではいないはずです。だけど、最近のあいつを見ていると、どうも危なっかしい。喧嘩なんかできないくせに危ないことに首突っ込んでるみたいだし、そのせいで怪我も絶えない」
「意外だな。お前が間久辺を心配するなんて」
「茶化さないで下さいよ、御堂さん。俺もあんたたちと同じ。間久辺にデカイ借りがあるんです。それに、クラスであいつを心配しているのは俺だけじゃない。俺は石神がーーー彼女が悲しむ姿を見たくないんです」
江津のやつ、前にクラブ『モスキート』で会ったときとは印象がかなり変わったな。きっと、こいつも間久辺と関わって、価値観を大きく変えられた一人なのだろう。
「オレは、そもそもこんな話をしていること自体、無意味だと思うぜ」
それまで黙っていたアカサビが、いきなりそう口火を切った。
俺はその言葉にカチンときて、思わず噛み付く。
「間久辺のことを話し合うのが、無意味だって言いたいのかよ?」
「そうじゃねえ。テメエらがどう考えているのかは知らねえし、興味もないって言ってんだ。オレはただ、優しいヤツが理不尽に傷つけられるのが耐えられない。間久辺は良いヤツだ。優しすぎるくらいに。だから、これ以上傷付いてほしくはねえんだよ」
「アカサビの言っていることはつまり、俺を含めた全員の総意だろう?」
そう言って、あらためて江津と甲津侭を見ると、二人は頷いた。
だが、アカサビだけは首を左右に振る。
「御堂。オレはお前が信用できねえんだよ。お前は間久辺の側にいながら、何度、あいつを危険な場面に送り出した? オレだったら、二度と不良に関わらせたりしない。あいつを危険な目にあわせたくないって言うなら、そもそもアンダーグラウンドな世界に関わらせないようにするべきだろう」

ーーーだってあいつは、まっとうな一般人じゃねえか。オレとは違って。

アカサビは、吐き捨てるようにそう言った。その瞳は、どこか寂しく陰って見えた。こいつの過去になにがあって、間久辺をどうしてここまで気遣うのか、詳しいことまではわからない。アカサビを取り巻く環境は、きっと俺が思っている以上に苛烈なのだろう。
実際のところ、アカサビの言いたいことはわかる。俺だって考えなかったわけじゃない。間久辺にとって、線引屋として行動し続けることが本当に良いことなのか。あいつに線引屋って名前を背負わせることは、俺のエゴではないのか、と。
だが、最終的に選んだのは間久辺だ。そのことを、この場の全員に伝える。
「俺があいつと出会ったばかりの頃、間久辺はただのコミュ障オタクだったんだぜ?そんなあいつが、いまでは自分の意思で他人と関わることを決意したんだ。だから俺は、そんな想いを尊重したいと思うし、力になりたいとも思う。だって俺には、あいつに返しきれないくらいの恩があるんからな」
きっと、こんなこと本人を目の前にして話したら、恐縮して遠慮するに決まってる。『別に、恩返しなんて望んでない』とか言って。
だけど、間久辺が自分の意思で行動を起こしたように、俺にも意思をもって行動する権利がある。
深く頷いた江津は、「学校でのことなら俺に任せて下さい。きっとあいつの力になれます」と言った。
甲津侭もそれに続くように、「俺もやるぜ」と答えた。
「こう見えて顔は広い方だからな。昔馴染みの連中で、いまだに俺の頼みを聞いてくれるやつらがどれだけいるかわからねえけど、いざとなったら拝み倒してでも動いてもらう」
流石は、かつて街を仕切っていた男だ。彼が言うとやはり言葉の重みが違う。
俺は頷き、答える。
「力強いぜ、二人とも。もちろん俺も、持てる力全部使ってでも、あいつを助けていくつもりだ」
そして最後に、赤い髪の男を指差し、「あんたはどうなんだ?」と問う。
するとアカサビは、「はっ」と鼻で笑うと、俺の目を睨み付ける。
「公園で震えていたヤンキーが、オレを挑発するなんてな」
再び笑ったアカサビは、前のめりになりながら言葉を継いだ。
「オレは最初から言ってるぜ。誰にも、あいつを傷つけさせたりしないって。だから、お前の口車に乗るのは癪だが、一番あいつに近いお前の意見を聞き入れるのが良さそうだな」
その言葉を受け、俺は手を打って「決まりだな」と告げる。
スマホを取り出すと、連絡先の交換をする。
アカサビが小さく舌打ちしながら、「仲良しごっこは御免だ」と言ってきたことに、俺も同意する。
「そうだ。俺たちは別にダチじゃない。それぞれは遺恨があったり、気に入らないやつもいるだろうさ。だけど、この件に関してーーー間久辺に身の危険が迫ったときに限って、俺たちは協力し合う。それでどうだ?」
アカサビは、鼻白むように視線を逸らした。だが、すぐに小さく「わかった」と答え、ケータイを取り出す。連絡先の交換を終えた俺たちは、そろそろ戻ってくる間久辺を待ちながら、話を終える。
その間、俺は協力を得られたことに感謝しながら、これほど心強い協力者はそういないだろうとあらためて思った。
江津は運動神経がかなり良いらしいから、いざとなったら俺よりも荒事に強いかもしれないし、なにより俺たちの入り込めない学校での間久辺の様子を、近くで見ることができる。これはかなり大きい利点だ。
甲津侭に関しては、本人も言っていたように、かつて街を仕切っていた実績とその交流の広さがある。現在街を仕切っている鍛島との関わりも深いため、なりふり構わず動いたら、かなりの人員が動きそうだ。
アカサビについてはもはや言うまでもないかもしれないが、元最強の喧嘩屋の実力はいまだ劣化を知らない。
なあ、間久辺。お前はこれだけの男たちを動かしたんだぜ。お前は、ホント強くなったよ。
だけど俺は、あの日、公園でアカサビにビビっていた頃からなにも成長しちゃいない。俺は、他人の力を借りないとなにもできないんだ。悔しいけどな。
それでも俺は、お前の力になりたいと思うんだ。
考えてみると、おかしくて笑えてくるよな。
アカサビ、甲津侭、江津の三人のやり取りを見て、間久辺に「モテモテだな」って言ったけど、俺もこいつらとなんも変わらねえ。
お前の隣にいるために、必死なんだよ。まあ、絶対に直接は言ってやらねえけどさ。
しおりを挟む
感想 211

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。