王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

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第15話 ショートケーキ

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「とうとう完成だ……」

「やりましたね。これがジークフリート様が言っていたショートケーキの完成形ですね」

 厨房で俺とアンジェは出来上がったイチゴのショートケーキを前に喜びの声を上げた。

 本当に長かった。思いの他ショートケーキのスポンジを再現するのに手間取ってしまっていたのだ。材料は小麦粉と砂糖、卵に牛乳とバターが必要であるというのは何となく知っていたのだが、それをしっとり、ふっくらさせる方法がさっぱり分からなかった。

 そこで料理人であるアンジェの協力の元、試行錯誤して、ようやく理想のスポンジに辿り着くことができた。やはり完成形のイメージがはっきりしていたので、イメージと違う箇所をその都度アンジェに伝える事ができたのは大きかったような気がする。

 あと忘れてはならないのはお兄様の力である。お兄様は学園の授業の一つである農業の授業で、サトウキビを取り寄せ、その大規模農園化を成功させたとの事であった。
 そのため、ここ一年で砂糖の収穫量に劇的な変化が起こったのである。王都圏内ではまだ高級品ではあるものの、品不足に陥るという状況ではなくなったのだ。そして、お兄様は優先的に家に砂糖を送ってくれるようになったために、こうして俺達は気兼ねなく砂糖を大量に使い続けることができるのである。
 
 一年目にして生徒という立場にありながら、サトウキビ農園の大規模化に成功させてしまうとは流石はお兄様といったところである。

 俺は早速出来上がったショートケーキを持って、ソフィーの家に訪ねることにした。ソフィーが食べる様はリスみたいで可愛いらしいし、本当に喜んでくれるので持って行ってあげたくなってしまうのだ。

「今日はこれが完成したから持って来たんだ」

「何ですか? それは」
 庭に設置されたテーブルに俺とソフィーは向かいあって座る。
 俺は手に持っていた箱をテーブルの上に置いて、中から切り取ったショートケーキを取り出した。

「ショートケーキというスイーツだよ。是非食べて感想を聞かせてほしい」

「はわわ~、何ですかこの白いものは?!」

「ホイップクリームだよ。甘くて美味しいんだけど、下のスポンジとストロベリーと一緒に食べるとちょうどいい甘さになって美味しいよ」
 ソフィーには、まだホイップクリームは秘密にしていたのだ。それも全てはショートケーキで驚く顔が見たいからである。

「はわわ~、軽くてふわふわして凄く甘いです~」
 まずはクリームだけを少し口に入れたようである。その後、俺のアドバイスに従って、スポンジとストロベリーと一緒に口の中に入れた。
 ショートケーキを口に含んだ瞬間、ソフィーの顔は蕩ける顔を見せた。

「甘さがスポンジと一緒に食べる事により丁度良くなりました。それにストロベリーの酸味がアクセントになって、果実の甘味とクリームの甘味が口の中でハーモニーを奏でます~。こんなものを思いつくなんてジークお兄様は凄すぎです」

 期待以上の反応を見せてくれて、俺は満足した。そして、ソフィーが夢中で少しずつスプーンにとって食べる様を微笑ましく見ていると、庭を囲った柵の向こうに来客があった。

 その人物は、第二王妃の長女である縦ドリルことエリザベートであった。

 その来訪に気付いたメイドが門を開けエリザベートを迎え入れる。そして、俺達の方へと近づいてくるのが見えた。

「何でここにエリザベートが?」

 俺は小声でソフィーに尋ねる。

「ん、んぐぐ、はいっ? あっと、何でもレオンハルトお兄様が学園の寮に入って、暇になったとかで最近よくここに来られるようになったんです………」

 なるほど、エリザベートと年子の兄であるレオンハルトは今年が入学だったのか。ヨハンお兄様と1年違いで入学という事か。
 俺がソフィーに会いに来ている時に出会ってしまうのも時間の問題だったか……
 そんな事を考えていると、エリザベートが羽のついた扇で口元を隠しながら、俺に話しかけてきた。

「あら、ヨハネス様の弟でしたっけ? 少し見ぬ間にまた一段と子狸化に拍車がかかってますわね。オーホホホホホ」

 う~、それは見ないふりをしていたというのに……

「アワワワ、ジークお兄様は素敵ですよ」

 俺が凹んでいるのを見てソフィーが慰めてくれる。本当にええ子や。

「それで、エリザベートさんは今日はどのようなご用事で来られたんですか? お邪魔なら自分はお暇しますけど」

 初対面の時にも思ったのだが、エリザベートは俺に対してあまり良い感情を持っていないようなのだ。今もいい顔をしてはいない。俺がここにいない方がいいかもしれない。

「ジークお兄様、帰っちゃうんですか? まだ来たばかりですよ」

「近いからいつでも来れるしね。また明日にでも来るよ」

「その必要はないですわ。特に用事があって来たわけではないんですわ。3人でお話でもしましょう」

「えっ?」

 俺の事を嫌っていると思っていたので、その提案を聞いて驚いた。
 立ち上がろうとした俺を手で制して、エリザベートは空いてる席に座る。
 そしてちらちらと俺とソフィーの方を見る。

「何ですか?」

「何でもありませんわ」

 正確には視線は俺の少し手前、つまりショートケーキに注がれていた。

 ははーん。これに興味があるわけだな。

「良かったら食べますか?」

 俺は目の前のショートケーキの載った皿をエリザベートの方へ差し出す。

「あら、そんな気を使っていただかなくても大丈夫でしたのに」

 エリザベートが遠慮すると、ソフィーが食べる事を勧める。

「エリィお姉様、そのスウィーツはすごい美味しいですよ。是非食べた方がいいです」

「あら、ソフィーがそこまで言うんなら一口だけ食べてみようかしら」
 
「ぜひっ、白いクリームとストロベリーを一緒に食べるといいですよ」
 ソフィーのアドバイスに従ってスプーンに乗せて口に運ぶ。

「ッッッ!!!!」

 エリザベートの顔が驚いた顔を示し、もう一度スプーンで切り取り、口に入れた。その瞬間、エリザベートの顔は破顔し、満面の笑みを浮かべた。
 俺がそれを見ると、見られた事が恥ずかしかったのか、扇で顔を隠した。

「それはジークお兄様が考えられたんですよ。この前お出したプリンも、ジークお兄様が考案されたものなんです」
 ソフィーが俺の事を持ち上げる。

 扇を下げて出た顔は、いつものエリザベートの顔に戻っており少し怒っているような顔である。俺とショートケーキを交互に見やる。

「どうでしたか? エリザベートさん。お口に会いましたか?」
 俺は感想を求める。

「………大変美味しかったですわ。プリンというスウィーツにも驚かされましたが、このショートケーキにはもっと驚かされましたわ。ヨハネス様が砂糖の生産に力を入れるのも頷けますわ。分かりましたわ。あなた。私の事はこれからソフィーと同じようにエリィと呼びなさい。親しい者は皆そう呼んでますわ」

 これは俺の事を気に入ってくれたという事だろうか。それにしては相変わらず睨んでいるような顔つきである。
「……エリィ…姉さん」

 エリィ姉さんは、満足そうに頷いた。そして、一口だけと言っていたショートケーキの残りも綺麗に平らげてしまった。

 その後は3人でヨハン兄様やエリィ姉さんのお兄さんであるレオンハルトの事や日常の他愛ない会話を楽しんで、ソフィーの家を後にした。

「やはり甘いものに目がないのはどこの世界の女性でも一緒だな。あんなに気に入ってくれるなんてな……」
 
 エリィ姉さんの表情を融解させしめたスウィーツの力を振り返りながら帰路についていると、後ろから声が聞こえてくる。

『ちょっと、しょーとけーきが完成したなら、私にも寄越しなさいよ!!』

 後ろを振り返ると、リンネが宙に浮いていた。
 いたね。最近、魔法を使っていなかったからすっかり忘れていたよ。王族だから、あんまり不自由な事もないし、誰かに襲われるわけでもないから魔法の存在を忘れるところだったよ。

「いや、最近見なかったから、もうどっかいっちゃったのかと思って」

『そんなわけないじゃない。あなたと私はもう一心同体といっても過言ではないわ。あなたが魔法を全然使わないから、私も現れにくいのよ。プリンを貰ってばかりだったからね。もっと光魔法を使いなさいよ。ひとまず光極大魔法【サニーアンプレラ】を撃つって事でいいわね。それで今までのプリンの分はチャラって事で!!』

「ちょっ、待って、待って。何、その魔法?」

『光極大魔法【サニーアンプレラ】よ。知らないの? 一週間はこの辺りを照らし続け、一週間は闇を払いのけるわ。つまり、一週間ずっと昼間になるの。素晴らしいでしょ』

 いや何だ、その生態系を狂わせるようなとんでもない魔法は……

「いや、そんな魔法は撃たなくていいから」

『じゃあ、私にショートケーキを食べる資格はないって言いたいわけ?』

「いや、だから、そんな魔法を撃たなくても、ショートケーキは食べていいから」

『えっ!! でも、でも、世の中はギブ&テイクなのよ。そういう契約なの。私最近テイクしかしてないわ。こんな事じゃあ、皆に示しがつかないわ。高位精霊である私が理を破るわけにはいかないのよ』

「いや……じゃあ、いつか俺が困った時に手を貸してくれるって事でいいよ。契約者の俺がそう言ってるんだから大丈夫だって。リンネは遠慮せずにどんどん美味しいものを食べていいよ」

「……いいの? なんて、なんて素晴らしい契約者なの。アンタのこと凄く気に入ったわ。何か困ったことがあったら私に頼りなさいよ。じゃあ、しょーとけーきを食べさせてちょーだい」

 たしかまだ、家に残っていたはずである。

「今は持ってないけど、家にあるはずだから、取りにいこう」

「そうね」
 リンネは意気揚々と家に向かって飛んで行く。

 帰ってみると、切り分けたショートケーキは残り一つになっていた。お母様や屋敷の皆が食べていたようである。危なかった。ラスト一つをリンネに上げるとリンネは満足して消えていった。

「あれっ? ここにあったショートケーキ知りませんか?」
 メイドのマーレが俺に尋ねた。
「いや、知らないけど……」

「あれっ。あれっ。休憩中の楽しみに取っておいたのにっ。どこですかっ。私のショートケーキは!!」

 マーレは必死にショートケーキを探す。

 俺は心の中で謝罪しながら、自分の部屋に戻った………
 


 


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