王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

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第43話 違いが判る女

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 季節は廻り、木々の葉が徐々に変わり始めた頃、庭で育てていた植物も順調に実をつけ始めていた。

「見事に成長したのぅ。今日は育てたものを少し収穫するとしようかのぅ」

 俺とラズエルデ先生はサツマイモの植えられた畝の前に立っていた。

「今日はサツマイモを少し味見してみるかのぅ。この列は私が育てたやつじゃ。お主が育てたものと食べ比べてみるかのぅ。まぁ、私が育てたものの方が美味しかったとしても落ち込むことはないぞ。何せ私はエルフの村一番の芋の作り手【キングオブイモ】の称号をもっておるからのぅ。はっはっはっは」

 何だその嬉しくない称号は。芋の王だと。どこの田舎もんだ。先生はエルフの里でいじめられていたのを疑ってしまうレベルの称号じゃあないか。

「そうなんですね。あはは」

「うむ。サツマイモの美味しさ、それすなわち土魔法の潜在能力の高さを表すのじゃ。じゃから、この称号を持つ私の土魔法はエルフ一といっても過言ではないのじゃ」

「となると、土魔法があまり上手くいかない俺の芋はあまり美味しくないってことですかね」

 あまりどころか、土魔法はいまだに使えたことがない。他の魔法で、だましだましやってきているが限界が近いのかもしれない。

「そんなことはないぞ。潜在能力の高さじゃからな。今は下手でも、ヨハンが信じるように、お主が本当に土魔法の才能があるなら、それなりに食べることができる味であろう。まぁ、私のサツマイモには敵わないじゃろうがな。ひとまず、素材の味が確かめられる焼き芋でもするかのぅ」

 俺のところから2つ、先生のところから2つ収穫する。

「あとは落ち葉ですね」

 俺は庭を見回すとちょうど庭の落ち葉の掃除をしているメイドのマーレを見つける。

「マーレ、その集めた落ち葉を少しもらうよ」

「どうしたんですか?」

「これを焼いて食べようと思ってね」

「そ、それはお芋さんじゃないですか。ラズエルデさんとずっと育ててたやつですよね。わ、私も頂いてもいいですか?」

「ま、まぁ、いいけど、掃除の続きをしておいてよ。焼けたら呼ぶから」
 なんだか、凄いプレッシャーを感じた。サツマイモは人気が高い食べ物なのだろうか。

「ほ、本当ですか!! ありがとうございます!!」

「それにしても、マーレがそんなにサツマイモ好きだったなんて知らなかったよ」

「何を言ってるんですか。エルフ族が育てたサツマイモというのは流通量が少なく凄く貴重なんですよ。その幻の芋の味と言ったら筆舌に尽くしがたいって聞いたことがあります。まさか、こんなところで食べられるとは、ここにメイドとして働けて本当に良かったですよ。それじゃあ、パパッと掃除を終わらせて来ますね」

「それじゃあ、もう一つずつ取って来ますね」

「うむ」
 マーレに褒められて、すごいドヤ顔のラズエルデ先生がそこに立っていた。エルフ族のサツマイモはそんなに美味しいのか。なんだか期待が膨らむな。

「それじゃあ私のサツマイモはこちらが側に入れて、ジークのサツマイモはこちらで焼くとしよう。食べ比べないといかんからのぅ。あの娘にはどちらが作ったことは伝えないでおこう。忌憚のない意見が聞きたいからのぅ」

 負けるとは微塵も感じさせないこの自信に満ち溢れた顔、それはまさしく【キングオブイモ】の称号にふさわしい貫禄がある。ムフーという鼻息をかき鳴らし、ない胸を反り返らせている。
 俺達はサツマイモが焼けるのを待った。

 【キングオブイモ】の称号を持つ先生が良い頃合いを見計らい。火の中からサツマイモを取り出していく。いつの間にか、その出来上がりを察知して、マーレも俺の横に並んでいる。

「まずはこちらを食べてみようかのぅ」

「こちらは何ですか。こっちのやつと違うんですか」

「まぁ、食べてからのお楽しみじゃ」

 先生は早くマーレに驚いて欲しいのか、先に先生が手掛けたサツマイモを食べるように指示を出した。

「お、美味しいですぅ。甘くて、ホクホクしています。これは天然のスイーツといっても過言ではありませんね」
 マーレは先生の作ったサツマイモを絶賛する。

「うーむ、まだまだ美味しく作れたな………」
 納得できていないという先生の台詞の割にその顔はどことなく満足そうである。
 俺も2人に続いて先生のサツマイモを食べてみる。
 こ、これは………確かに美味い。この世界のメロンにがっかりしていたので、期待はあまりしていなかったが、前世の記憶にあるブランドのサツマイモと同じくらい美味しい気がする。甘くとろける触感は確かにマーレの言う通り、天然のスイーツといっても過言ではない。
 これがエルフの中の【キングオブイモ】の称号をもつ作り手の作るサツマイモということか。
 俺の食べる様を見て、ラズエルデ先生はニヤニヤと笑っている。

「じゃあ、次はこちらを食するとしよう」

「こちらはさっきとは違うんですよね」

「同じ品種じゃが、味は違うかもしれんのぅ」

「そうなんですか? 頂いてみます………むぐぅっ、はわわわわわあ、な、何ですか、コレ、何ですか?」
「どうじゃ、味に違いはあるかのぅ?」

「は、はい。全然違います。これは、これは………」

「そうじゃろう。そうじゃろう。全然違うじゃろう。作り手が違えば、こんなにも変わるんじゃ………」

「こ、これが幻のサツマイモ………さっきのも美味しかったですけど、これに比べたら、ゴブリンとドラゴンくらいに違いますぅ。この溢れ出す極蜜の黄金をも連想させる色合い、滑らかな食感、食べた後に鼻腔をくすぐる芳醇な香り、そのすべてを調和させるかのような芋本来の強い味わい。凄いですぅ。凄すぎますぅ。こちらがエルフ様が作った幻のサツマイモだったんですね。私は違いが判る女なんで、ピンときましたよ。さっきのはジークフリート様が作ったサツマイモで、こちらがラズエルデ様が作ったサツマイモじゃないんですか?食べる手が全然止まりません!!」

「はっ?!!」

 マーレが泣きながら食べ続ける様子をラズエルデ先生は放心状態で見続ける。
 フリーズしていたラズエルデ先生は、手に持った俺のサツマイモをゆっくりと口に運ぶ。
 サツマイモが口に入った瞬間、先生の目は大きく見開かれた。

「な、な、なんなんじゃ………」

 わなわなと震えて、地面に膝をつき、両手で自分の体を支える。
 そんな様子にマーレは気づかずに夢中でサツマイモをむさぼり食う。まさにカオスな状況である。
 俺はその元凶となった、俺が作ったサツマイモを食べてみる。

「こ、これは………」

 美味い。いや、美味すぎる。ただ焼いただけだというのに、この濃厚な蜜は何層にも甘味のグラデーションを重ねたかのように、数種類の甘味が次々と俺の味覚を襲ってくる。こんなサツマイモは前世でも食べたことがない。

「な、なんてことじゃ………こ、これは、ヨハンの言ったとおり、とんでもない潜在能力を秘めておるのかもしれん………こんなものを作られちゃあ仕方ないのじゃ。ジーク、お主に【キングオブイモ】の称号を譲ってやろう。こんなサツマイモを作ってしまうとはエルフ族だとか人族など、関係ないわい」

「いや、すいません。その称号はいらないです」

「なんじゃと!! 【キングオブイモ】の称号をいらんじゃと!! エルフ族ではこれ以上にない栄誉ある称号なんじゃぞ!! はっ、そういうことか!! これだけのものを作れるのじゃ。確かに【キングオブイモ】の称号では満足できんというわけか!! 分かったのじゃ!! このラズエルデの名において【ゴッドオブイモ】の称号を名乗ることを許すのじゃ!!」

 芋の神だと、なんてダサすぎる称号なんだ。何としても、そんな称号は受け取りたくない。

「いや、その称号もいらないです。まだまだ、土魔法も未熟なんで、そんな称号をもらってしまってはプレッシャーが大きいですし」

「むぅ、たしかに!!【ゴッドオブイモ】などという称号を得てしまっては、お主が潰れてしまうかもしれんからのぅ。分かったわ。お主が土魔法を極めたと思ったなら、その時改めて【ゴッドオブイモ】の称号を名乗るといいぞ」

「…………はい」

 ここは了承しておこう。土魔法は未だに使えるようになっていないので、【ゴッドオブイモ】の称号を貰うことは当分はないだろう。時間が経てば、そんな称号は有耶無耶になるに違いない。

「えっ、えっ、この至高のサツマイモはジークフリート様が作ったものだったんですか………もしかして、ラズエルデ様のサツマイモをゴブリンに例えてしまったんでしょうか………す、すいませんでした」

 我に返ったマーレがとどめの一撃をラズエルデ先生に与え、試食前はあんなにウキウキだったラズエルデ先生を再起不能へと追い込んでいた。
 
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