王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

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第51話 蠢動

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 名前などを聞きながら、俺たちは姉弟の後についていって、釣りスポットへと到着した。

「この岩の近くから釣るとよく釣れるぞ」
「この辺の石をどければ餌になるミミズとかも取れますよ」

 サンボ少年の姉のアナトスカさんがミミズを躊躇なく取って、俺達の方に差し出す。

「ワワッ」
「ヒィッ」

 クインさんとリーズさんはミミズを差し出されて嫌悪感を示す。赤髪のクインさんの方がびっくりして、後ずさっている。

「クインさん。ミミズなんかが怖いんですか?」

 俺がクインさんを煽る。

「ち、ちがうぞ!! びびってるわけではない! うねうね動いているのが生理的に気持ち悪いというだけだ。こんなもの私の剣技にかかれば瞬時に一刀両断にして息の音を止めてやるわ」

 クインさんは剣の柄に手をかける。
 ミミズ如きにびびってしまっていては、このファンタジー世界で触手持ちの魔物なんかが現れたらどうなってしまうのだろうか。やはりクインさん達はなんだかんだで貴族ということか。気持ち悪いものに耐性がないのであろう。

「そ、そんなことしなくても、こうすれば……えいっ!! ほら、2つになりましたよ。これを釣り針につければ大丈夫です」

 庶民のアナストカさんは慣れたもので、手に持ったミミズを真ん中から2つにちぎって、クインさんとリーズさんに渡そうとする。

「ふ、二つに分かれたのにまだ動いてるぞ。き、気持ち悪いな」
「む、無念です。わ、私たちはどうやら、釣りはできないみたいです。私達に構わず、ジークフリート様は釣りを楽しんでください」

 俺達に構わず先に行けみたいな、行ってみたい台詞ランキング10位に入る台詞をリーズさんが口にしているが、ただミミズに触りたくないだけだろう。

「そ、そうだな、考えてみれば私達は護衛をしなくてはならないからな。熊も出るかもしれないというしな」

 クインさんもミミズに触るのが嫌のようである。

「熊なんか出てくることは滅多にないぞ。森に入って迷子にならないように大人たちが言ってるだけだからな」
「そうですね。森の外に出てきたってのは聞いたことないですね。万一出たとしても、かなり森まで距離があるので、全然余裕で逃げれますよ。森の外で見たってのは聞いたことないですし。森のずっと奥の山のふもと付近まで行かないと出ないんじゃないですかね」

 姉弟の説明を聞いて、森の方を見ると、確かにかなりの距離がある。そもそも、この湖はかなり大きい湖である。琵琶湖の半分くらいあるんじゃないだろうか。正面に見える山々はうっすらとしか見えないので、向こう側まで泳いで行くのは不可能であろう。

「姉ちゃんたちが餌をつけれないなら俺がつけてやろうか? 1日で銭貨4枚でどうだ?」

 サンボ少年が提案する。しかし、お金を請求するあたり相変わらず逞しい少年である。

「あっ、じゃあお兄ちゃん達の分を私がつけますよ。1人銭貨2枚でいいですよ」

 アナストカさんは俺とエドガエル君の方を向いて提案する。

「マネしやがったな。姉ちゃん!!」
「お兄ちゃん達には提案していなかったじゃない。だから真似じゃないわ」
「ぬぐぐぐっ」

 サンボ少年は先刻のことから勉強したのかむやみに値引きをすることはなかった。餌を探してもらってつけるという事をやってもらうのであれば銭貨2枚は破格の安さと言えるだろう。しかし、俺は試してみたいことがあったので鞄の中に手をいれて、【収納闇魔法ブラックホール】を発動させて木の端材を取り出した。チェス盤なんかを作るときに入れていたものである。

「ど、どうしたんですか?」
「何で木の破片を鞄に入れているんだ?」

 リーズさんとクインさんは俺の手に持っている木材を見て不思議がる。

「これで餌を作ろうと思って」
「おいおい、あんちゃん、魚は木なんか食わないんだぜ」
「そうですよ。木は餌になりませんよ」

 姉弟の口ぶりからすると俺の作ろうとするものの概念はこの世界にはまだないみたいである。

「まぁ、そうだね。このままじゃあ駄目なんだけど。ちょっと離れてて」

 完成品をイメージして風魔法【3Dプリンター】を発動させる。
 左手の指先から出る風魔法は右回転!

 右手の指先から出る風魔法は左回転!

 両手にちぎられたミミズを持っている少女アナストカも、その指先から出る風魔法が一瞬巨大に見えるほどの回転圧力にはビビってミミズを地面に落とす!
 そのふたつの風魔法によって生じる真空状態の圧倒的破壊空間は、まさに歯車的風魔法の小宇宙!

 がりがりと削られた木材は俺の描いたイメージを忠実に再現すし、完成品がボトリと地面に落ちる。この世界にルアーが誕生した瞬間である。

「何ですか、これは? 蠅? こっちは、小魚?」
「すげー! 今のが魔法ってやつか? 初めて見たぞ!! 流石貴族様だな!!」
「ほぉ、なかなか精巧にできているな」

 姉弟とクインさんは俺の作ったものを手に取って、いろいろな角度から見ている。

「な、何ですか? い、今の魔法は? 詠唱もしてなかったみたいですし………」

 リーズさんは驚愕の表情を浮かべている。

「風魔法ですね。思い浮かべたものに加工する魔法って感じです。詠唱は慣れればしなくても大丈夫なんじゃあないんですか?」
「そ、そんな事はないはずです。無詠唱は熟練した魔法使いしか到達できない極地のはず。それに、そんなものを思い通りに加工する風魔法は聞いたことがありませんよ。もしかしてジークフリート様のオリジナルなんじゃあないですか?」
「どうですかね? 2つ目に覚えた魔法だから、他の風魔法使いできるんじゃないですかね」
「2つ目………」
「風魔法使いって、こんなことができるんですね。これじゃあうちの父ちゃんの仕事は王都とか魔法使いの多いところでは全然意味ないですね………」

 リーズさんと、アナストカさんはどこか遠い方を見ている目をしている。

「なるほど、やはり腐ってもヨハネス様の弟ということか」

 なにやらクインさんは失礼な発言をしている。俺のどこが腐っているというのだろうか。

「それで、これをどうするんだ?」

 俺は再度鞄の中に手を入れて絵具を取り出す。蠅は黒く塗って、小魚は赤と青に塗る。小魚の方は胴体の部分に穴が空いており、そこに小石を入れて栓をする。
 木は水に浮くので、小魚の方は沈むように細工をしなければならない。蠅の方は遠くに投げて、水面をひくのを繰り返せばいいだろう。
 最後に針をつけて釣り糸につなげる。

「これなら、餌を取り換えることなく魚を捕まえることができますよ」
「な、なに! ほ、本当か?」

 クインさんは目を丸くする。

「いや、あんちゃん、これは確かによくできてるけど、木で魚を釣るのは馬鹿げてるぜ」
「たしかに……そんな方法聞いたことがありません」
「まぁ、一度試してみよう。少しやって釣れなければ、ミミズを使うよ。その時は餌を取りつけるのを頼むよ」
「わかりました。それじゃあ、ミミズを集めておきますね」
「あっ!! おいらもミミズを集めておくぞ」

 姉弟は早速座り込んで、石をひっくり返して、ミミズ集めを開始した。
 俺たち4人は湖に近づく。

「2人は小魚の付いた方を使ってください。青い方がリーズさんで、赤い方がクインさんで」

 俺は2人に釣り竿を渡した。

「これで釣れるんですか?」
「あの姉弟が言ってるように、木で魚はつれないんじゃないのか?」
「まぁ、一度やってみてください。無理そうならミミズを使えばいいだけですし」
「いや、これで釣れる気がするぞ。これだけ精巧な造りなら魚も騙されるような気がするしな」
「そ、そうですね。ジークフリート様が作ってくれましたし。私たちはこれで頑張ります」

 ミミズはどうしても使いたくないみたいだな。
 エドガエル君には俺と同じ黒い蠅のルアーの付いた釣り竿を渡す。
 俺は遠くへルアーを飛ばすと、それを水面に沿って自分の方へ手繰り寄せる。それを見てエドガエル君も同じように俺の動作を模倣する。

「2人のルアーは湖に沈むので、遠くに投げて、そのまま待っておけばいいですよ」

 しばらくすると、エドガエル君の釣り竿がしなる。そのタイミングで、エドガエル君が竿を引っ張ると一瞬で魚がエドガエル君の目の前まで移動する。そのあまりの勢いにエドガエル君にぶつかりそうになるが、瞬時に横へとステップしてそれを華麗に躱す。そして、再び戻ってきた魚を見事にキャッチする。

「やったね。エドガエル君」

 エドガエル君は嬉しそうである。針から魚を外し水で満たされた桶の中へと入れる。

「ほ、本当に木で釣れるんですね」

 リーズさんはやはり信じてなかったようである。
 その次に、俺の竿にも手ごたえがあった。俺は慎重に手繰り寄せて、無事に魚を釣り上げる。
 俺が釣り上げると、エドガエル君は自分が釣れた時のように喜んだ。

「くそ、そちらの蠅型の方が釣れるんじゃあないのか?」
「こちらの竿と交換しますか?」
「………うむ」

 クインさんと釣り竿を交換する。

「おお、これは釣れる気がするぞ」

 そう言って、俺がやってた時のようにルアーを投げ入れては自分の方へと手繰り寄せる。すこし荒々しい気がするが、釣りなんてものは楽しければ自己流だろうがなんでもいいだろう。

「あ、私の竿がすこし重くなった気がします」
「僕のも、ひいてる気がする」

 リーズさんと俺の竿が同時ヒットする。そして慎重に手繰り寄せて2人同時に魚を釣り上げる。

「ほ、本当に釣れちゃいました。すごい大きいです」

 小魚型のルアーの方が大きい魚が釣れている。
 それを横目で見ているクインさんは「ぬぐぐ」という声を漏らしながら悔しそうにしている。

「く、やっぱり、そっちの釣り竿の方が釣れる気がする」

 俺はクインさんに言われるままに再び釣り竿を交換する。
 俺達がその後何匹か釣り上げるも、クインさんには一匹もかかる様子がない。
 釣れなさ過ぎて大分イライラしている様子である。もはやどちらが多く釣れるかとか言い出せるような状況ではなくなってしまった。当初の計画では全員一匹ずつ釣り終わった後に「それじゃあ、これから競争しましょう」なんてことを考えていたというのに、クインさんだけ一向に魚がかかる気配がない。魚に向けて殺気でも送ってるんじゃあないだろうか。
 俺達3人はクインさんが釣れることを横目で祈っていた。そして、3人の願いが神に通じたのだろう。

「フィシュオーーーーン!!!」

 謎の掛け声と共にクインさんは釣り竿を引き始める。かなり釣り竿がしなっているところを見るとかなりの大物がかかったに違いない。俺達3人は自分の釣りをやめて、クインさんを見た。
 クインさんは最後だとばかりに、一気に引き上げる。

「よっし!!」

 魚影をみる限りかなりの大物である。水しぶきと共にそれが水面からあがり、クインさんの目の前に引っ張られる。

「…………」

 釣り上げたものは、魚ではなく、木の枝であった。クインさんは呆然としている。

「………見事な流木ですね。どこかの川から流れて来たのかもしれませんね」
「ほ、本当です。それなら家に飾るインテリアになりますよ、クイン」

 俺が機転を利かすとリーズさんも乗ってきた。

「くぅ、ふ、2人して馬鹿にしてるんだろう」

 クインさんは少し涙目になっている

「この世に無駄なんてものはないですよ。全て何か意味があるんですよ」

 俺はそれっぽい良さそうな事を言った。

「そ、そうですよ。それに、その流木なら銀貨1枚くらいにはなりますよ」

 銀貨1枚は言いすぎだが、ここで訂正するわけにはいかない。

「そ、そうか………」

 値段を聞いて意外と満更でもなさそうな表情をするクインさん。あまりにもチョロい。魚よりも価値が高いと思って満足したのだろうか。

「あっ、めっちゃ釣れてる~」
「えっ!! 本当だ! あれ、本当に木の餌で魚を釣る事ができるんですか?」

 姉弟たちが桶を覗き込んで驚いている。
 若干一名釣る事ができなかったが、まぁ、木のルアーでも十分釣りを楽しむことはできた。

「そうですね。意外と上手くいきましたよ」

 俺が伝えると、兄弟は地団太を踏む。

「ちくしょー。無駄骨かよ」
「そんな~。全部無駄ってことですか?」
「どうした? 何が無駄なんだ? この世に無駄になるなんてものはないんだぞ」

 クインさんはさっき俺が言った台詞を、いかにも自分が考えたかのように姉弟に言った。

「せっかくこんなに集めたのに~」

 姉弟が両手をクインさんに見せた。

「ギャーーーーーーーー!!」

 クインさんは絶叫をあげて後ろに倒れた。

「あわわわっ」

 リーズさんも顔を手で覆っている。
 みると姉弟の両手で作られたお椀の中には大量のミミズが蠢いていた。たしかに、この量のミミズはミミズが大丈夫な俺でも気持ちが悪い。
 しかし、この程度のことで倒れるとは王族の護衛として一抹の不安を覚える俺であった。
 

 





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