王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

文字の大きさ
61 / 71

第61話 ラフ画

しおりを挟む
「まずは私からね。私はフローリア、得意なのは人物画よ」
「……私の名前はオスカー、風景画をよく描いていますが、人物画もそれなりですね」

 眼鏡の青年は、中指で眼鏡を上にあげながら自己紹介をした。

「ぼ、僕はミルランです。石像作りがしたくて、このダリオ工房の試験を受けに来ました。絵も練習はしてきたので、精一杯頑張ります」
「……グリフィスです。この工房に受かればいいなぁと思って試験を受けに来ました。得意なことはないので、雑用係として使ってください」

 グループ試験なので、他の人の迷惑になるようなことをしないでおくために、雑用係として徹しようと決めた。そうすれば空いてる時間に他のグループの実力も見ることができるだろう。

「そんなことでいいの? 雑用係なんかしてても受からないわよ」

 フローリアがそんな俺に待ったをかけた。

「これも何かの試験ということですかねぇ……」

 眼鏡の青年オスカーは、その眼鏡の奥から疑惑の目をこちらに向ける。こいつはまだ俺を疑ってるのか。全然その予想は外れてるんだ。そんな俺は分かってるみたいな顔をされても困ってしまう。

「いいんですよ。今回が駄目でも来年、再来年とチャンスはありますし」
「気楽に試験を受けれるなんて、あなたいいところの子供なの?」
「まぁ、銀貨5枚くらいはなんともありませんね。ですから、僕のことは気にしないでください」
「怪しいですね………」

 オスカーさんの疑惑の目は一層厳しくなる。

「ひとまず、どんな絵を描き上げるか話し合いましょう。テーマは『天使と悪魔』、この抽象的なお題に対して、どのような構図で絵を描くか。いい案はある?」

 フローリアは皆に意見を聞いた。

「各々で持ってるイメージが違うので、この下書き用の紙にそれぞれが思い描いた『天使と悪魔』をラフに描いてみるのはどうですか。そして、それぞれのいいところを合わせて一枚の絵にするというのはどうでしょう? ……それにしてもこの紙、羊皮紙とは違いますね。何でしょうか?」

 ミルランが材質を確かめるように、紙をなでる。

「それは、今王立学園で開発されている木材から作られた紙らしいですよ。サンプルとしていろいろなところに配られているそうです」
 
 眼鏡をかけたオスカーさんは情報通であることをアピールする。それにしても、もうこんなところまで紙がきているのか。仕事が早いな。

「それは私も聞いたことがあります。なんでも第一王子であるヨハネス様が完成させたとか。本当に凄い方だわ。それに絶世の美青年とも噂されているのよねぇ。いずれは一目でいいからお目にかかりたいものだわ」
「貴方のような一庶民と王族が会う機会が訪れるとはおもいませんけどね」
「あら、私が画家として名が売れれば、宮廷画家にでもなって、ヨハネス様の絵を描く機会がくるかもしれないわ」
「なれればですけどね。女性で画家になるのは非常に難しいと思いますよ」
「あら、最近話題のマーガレット画伯を知らないの。彼女の絵は1枚で家が建つと言われている人気画家よ」
「彼女は特別でしょう。現にこのダリオ工房で女性の方は一人もいないわけですから」
「私がその一人目になればいいだけの話ですわ」

「まぁまぁ、それでみんなで描いてみるというのはどうしますか?」

 オスカーさんとフローリアさんの言い合いをミルラン君が制した。

「そうね、ひとまず描いてみましょうか」
「合わせなくても、一番いい絵を描くというのでもいいと思いますけどね。まぁ、ひとまず描いてみましょう」

 ミルランの提案にフローリアが乗った。オスカーは自分の絵に自信があるのだろう。3人は紙と鉛筆を手に取り下描きを描き始める。

「どうしたの? 描かないの?」フローリアが俺に尋ねる。雑用に徹しようと思っていたが、下描きくらいは描くか。「……いや、描きます」

 俺が描いても、それが採用されなければいいだけの話である。そうすれば他の3人には迷惑はかからないだろう。さて、何を描くか。『天使と悪魔』か……悪魔の方は7つの大罪をモチーフに「 暴食 」、「 色欲 」、「 強欲 」、「 憂鬱 」、「 憤怒 」、「 怠惰 」、「 虚飾 」、「 傲慢 」の悪魔を描いて、天使の方は4大天使である、「ミカエル」、「ガブリエル」、「ラファエル」、「ウリエル」を描いてみるのはどうだろうか。4大天使は、4大元素をも示していると読んだことがあるので、それをイメージして漫画チックに表現すればいいだろう。確か、ミカエルが火、ガブリエルが水、ラファエルが風、ウリエルが地だったはず。いろいろなゲームや漫画を極めていた俺にとってはこういう雑学は割と覚えているのだ。

 描くことが決まれば、俺は集中して描き始める。漫画が好きで、ノートに描いたりしたこともあるので、まるで描けないというわけではない。俺は自分の絵に没頭する。

「………ちょっと、ちょっと、まだなの? イメージ図だから、しっかり描く必要はないのよ」

 あまりに集中していたせいで、肩をゆすられるまで全く気付かなかった。手を止めて、顔をあげると、俺以外の3人はもう描き上げているようだった。集中していたから正確な時間は分からないけど、30分くらいしか経ってないはずである。

「描いてない部分は口頭で説明してくれればいいわ。じゃあ、私から見せるわね」

 そう言って、フローリアは完成した絵を皆に見せる。その絵は30分で描いたとは思えないくらい上手く描けていた。子供に白い羽が生えた金髪の天使と子供に黒い羽の生えた黒髪の悪魔を描いていた。

「大天使マリベルと大悪魔サタノスをこのように表現してみました」
「わー」
「ふん、子供っぽすぎて、大天使マリベルには威厳が、そして大悪魔サタノスには畏怖が感じられないですね。では、次は私のを見てください」

 ミルランは感嘆の声をあげたが、オスカーには不評だったようである。俺には短時間で描き上げたというのにかなり上手いようにしかみえない。
 オスカーが描いた絵には際どい鎧を身に纏った女性と、その3倍の体躯をもった筋肉粒々のお爺ちゃんが描かれていた。それぞれの鎧は細部までこだわって描かれており、こちらも短時間で描いたとはおもえないクオリティーである。あれかラフに描き上げるっていったのは、ここでドヤるための伏線だったというのか……すっかり騙されてしまったぜ。これじゃあ、俺はまるっきりピエロじゃあないか。「殺しますよ」が口癖の戦闘力53万のアニメキャラとか書いてしまってるぞ。どうすんだ、これ。

「ちょっと、それじゃあ大天使マリベル様があまりにも卑猥に描かれすぎじゃないかしら?」
「これくらいの方がうけがいいんですよ。ピルモント聖堂の壁画を見たことはないですか? あそこに描かれた『民衆の夜明け』という作品はこれなんかよりもっと情熱的な表現をしていますが、高い評価を受けています。この程度で卑猥というのはあまりにも子供すぎるんじゃあないですかね」
「ぬぐぐ」
「あっ、つ、次は僕の作品です」

 空気が悪くなる前にミルランは自分の作品を掲げる。その絵を見て俺は驚いた。石像造り志望って言ってたから、そんなに上手くないと思っていたが、そんなことはなかった。すごく上手い。なんてこった。ミルラン、お前もか。お前もラフな絵とかいいながら、そんな上手い絵を完成させていたのか。

「こちらの禍々しい椅子に座っているのが大悪魔サタノスで、その周りを飛び回っている妖精が大天使マリベルを現しています」

 それにしても、皆マリベルとサタノスとかいう大天使と大悪魔を描いているな。なんだ。この世界の天使と悪魔ってマリベルとサタノスのことだったのか。どこかで聞いたことあると思ったら、メリッサの授業で出てきたような気がするぞ。もしかして、俺の絵は根本から間違っていたというのか。

「……彫像志望の割に上手いわね」
「……新しい解釈をして奇を狙ったつもりですか」
「いえ、創世記≪序≫という物語が好きで、シリーズを全て読んでるんですよ。そこに書かれた描写や性格を読み取ったら、こんな感じなのかなって。でも挿絵とかないから、やっぱり皆さんが描いたものもマリベルとサタノスだといえると思います。じゃあ最後はグリフィス君、君の番です」

 うう、この3人の後に俺の絵を出したくはない。クオリティーが違いすぎる。前世で見たことある漫画のキャラとか描いちゃってるし、絵のタッチが3人のそれと全然違う。びりびりに破りたい衝動に駆られてしまうが、そうもいってられない。

「ちょっと待ってください。全部描いていないので、サッと描き上げます」
「完成してない部分はイメージを説明するだけでいいわよ」
「天使がまだ描けていないので、イメージだけ描きます。すぐに終わるんで」

 俺は、火、水、風、地のイメージ図だけ書いて皆に見せた。

「えっ?!」
「これは!!」
「うん?!」
 ミルラン君、フローリアさん、オスカーさんの三人は驚きの声をあげた。











しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞! 2024/02/21(水)1巻発売! 2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!) 2024/12/16(月)3巻発売! 2025/04/14(月)4巻発売! 応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!! 刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました! 旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』 ===== 車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。 そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。 女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。 それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。 ※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...