王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

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第63話 発掘

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 リンネがこんな絵を残すことはできないという事で、俺の絵の下書きを元に、ミルラン君に頼んで痩せているように修正をしてもらった。
 修正された絵を見て、リンネは満足したのか、『まぁ、この子を殺すのはやめてあげようかしらね』と怒りを鎮めて去って行った。
 そして、それぞれが出来上がった下書きを持ち寄って、配置を話し合い絵を描き上げていくことになった。
 紙の大きさ的に同時に描けるのは2人なので、フローリアさんとオスカーさんが、まず初めに同時に描くことになった。
 俺はこの間に他の班の人達の絵を見るべく、3人の元を離れようとする。

 「どこへ行くの?」
 「他の班の様子を見てみようかと」
 
 ミルラン君に聞かれたので、そのように答えると、オスカーさんが反応した。

 「なるほど、では、私も一緒に様子を見に行きましょう」
 「ちょっと、午前中に完成させたいのよ、あなたが抜けてどうするのよ」
 「最初は私ではなくて、あなたとミルラン君が描いてください。私もグリフィス君と一緒に他の班の様子を見てきます」

 何がなるほどなのかは分からないが、オスカーさんも俺についてこようとする。特に断る理由もないので、一緒に様子を見ることにした。
 まずは赤髪の青年がいた班の様子を見に行ってみる。
 4人の下描きの絵が机にあったので見てみると、誰が描いたものかは分からないが、全員上手いのが一目で分かった。この工房を受けに来ようとしている時点で、そこそこ皆上手いのだろう。
 そして自分たちの班と同じように本番の紙に絵を描き始めていた。自分のところとは違って赤髪の青年が一人で描いている。

 「あのまま赤髪の青年が一人で描きあげるようであれば、協調性がないのでさらに減点でしょうかねぇ」
 
 オスカーさんが小さい声で俺に耳打ちをする。

 「だけど、それでは他のメンバーも落ちてしまいますよ」
 「下書きの絵を見ればだいたい実力は分かるじゃないですか、後は協調性などの他の要素を見ているんでしょう?」
 「そうなんですか?」
 「またまた、先ほどの下絵を見ましたよ。明らかにレベルが違っていました。今思えば、7つの大罪という発想。普通の発想ではありえません。実は他国の宗教にも、それなりに詳しい私が聞いたこともないものですし。グリフィス君、ずばり、あなたはここの工房の方でしょう。いやいや、何も言わなくてもいいですよ。私は確信してしまいましたから。そして、自分たちの絵だけで完結させるのではなく、他の絵を見て自分たちの作品を微調整していかなければならないということを教えるために、こうして場を離れたのでしょう。しっかりとその行動の意味を読み取ることができました」

 ………オスカーさん、あなた全然意味を読み取ることができてませんよ。このままでは落選してしまいます。

 「いや、そういう意味はないですよ。帰って絵を完成させてください。僕もすぐ戻りますので」
 「はっ、すいません。そういうしかないですよね。まだ、試験が終わっていないというのに。私としたことが失礼いたしました。終わるまで、あなたが試験官であるということは黙っています。ですので、是非、お供させてください」

 ………もう何を言っても無駄か。オスカーさんが減点にならないように祈るしかない。

 次はイノセントさんがいる班を見に行く。

 こちらの下絵は2枚が突出して上手く、残り2枚は今まで見た絵より劣る感じがした。
 本番の絵を、自分たちの班と同じように、イノセントさんともう一人の2人で描いている。2人が、競うように天使と悪魔のそれぞれを描いている。どんどんと紙に描かれていくのは見てて引き込まれるものがある。

「あの天使と悪魔には新しさというものが感じられませんねぇ。そう思いませんか?」

 オスカーさんがネガティブキャンペーンを始めている。そんなことをしても試験結果に影響は与えない。

「いや、十分に上手いと思いますよ」
「そうですかねぇ。あれでは、ピネ教会の『創世の饗宴』にどことなく雰囲気が似ている気もしますけど」

 全員の絵を見ることができたので、俺は最後の班を見にいくことにした。

 最後の班も2人で本番の紙に描き始めており、顔の部分は楕円が描かれて、顔以外の部分から描いている。顔は担当を変えて最後に描こうとしているのだろうか。
 下絵を見ると、1つだけ気になる絵が俺の目に留まる。

 「パーツの比率が『ペドロの黄金比』を無視して描かれていますね。どうやら勉強不足が否めないんじゃあないでしょうか」
  
 「聞こえたぞ。試験中に他の絵を批評するなんて随分余裕があるじゃねぇか」

 うっ、オスカーさんの声が聞こえてしまったらしい。受験生の一人が怒りだした。争うつもりはないというのにオスカーさん、トラブルメーカーかよ。

 「どうしますか? 彼を落選にしますか?」

 オスカーさん、俺にふってこないでよ。そもそも俺に落選させる権限など持っていない。俺の右腕ポジションを確立するのはやめてください。
 
 「この野郎!! お前にそんな権限あるのかよ!!」

 いや、ないです。オスカーさんも鼻で笑うのやめてください。その煽っていくスタイルはやめないと、いつか痛い目にあわされるぞ。

 「すいません。そういうつもりではないんです」
 「たしかに、試験の途中でしたね。私の配慮が足りませんでした」

 試験の後もそんな権限ねーよ。配慮どころか、ここまでくると脳みそが足りてないんじゃあないだろうか。

 「オスカーさんやめてください。僕は批評するつもりは全くないんです。この下絵に興味があったので、誰が描いたのか気になっていたんです」

 「ふざけるな!! それが一番下手な作品だろうがよ!!」
 「そうだ、そうだ」
 「その絵ではこの工房に受かるには絶望的だろう」

 俺が一枚の下絵を褒めると、班員の3人が反論し、1人が謝りだした。

 「すいません。すいません」

 「あの、あなたがこの絵を描いたんですか?」

 「そうです。皆さんの絵のタッチと全然違ってしまって………まだまだ、試験を受けるには早すぎたようです。皆さんにご迷惑をかけてしまって本当に申し訳ない」
 「………お名前を伺ってもいいですか?」
 「?? 私はアリトマですけど……」
 「そうですか。邪魔をしてすいませんでした。本当に争うつもりはないんですよ。オスカーさんも謝ってください」
 「………申し訳ない」

  オスカーさんが渋々謝ってくれたので、それ以上ことは大きくなることはなかった。
 俺たちはもめ事が大きくなる前にその場を離れた。
 それにしてもあの天使と悪魔は、かなりデフォルメされていて、漫画の絵として考えれば、素晴らしいの一言である。ぜひともアリトマさんを雇い入れたい。しかし、それにはこの試験に落選してもらわないといけない。あの反応を見る限りだと受かりそうにはなさそうなので、希望はありそうである。

 俺とオスカーさんは自分たちの班に戻ると、短時間だというのに、絵はかなり仕上がってきている。

「交替しましょうか?」
「では、私のところを描いていきましょう」

 ミルラン君がオスカーさんと交替する。オスカーさんは俺に見せつけるかのように、ペンを軽快に走らせていく。
 その時俺のお腹がぐるるる~という音を発してしまう。
 ミルラン君が俺の方を見る。
 フローリアさんとオスカーさんも手をとめて、こちらを見る。

「僕じゃないですよ」

 俺は咄嗟に嘘をついた。

「そろそろお昼時ですしね。お昼を買いに行かないといけませんね」

 誰も犯人を追及しようとはしていない。というより、俺が犯人であることを3人は確信しているようである。実際俺が犯人であるので、これ以上は何も言えぬ。
 お昼ご飯は自分たちで用意しておかねばならないと募集事項に書いていたが、外に買いに行くこともできるようである。

「僕が皆の分を買ってきますよ。ここで会えたのも何かの縁ですし。奢りますよ」
「それは悪いわ。年下に奢らせるわけにはいかないわ」
「いえいえ、迷惑をかけてますし、奢らせてください。こう見えてお金には余裕があるんですよ」
 
 後にこの中で落選した人を雇うかもしれないのだ。お金に余裕があるのは見せておいた方がいいだろう。

「そうですか。では、ここは御馳走になることにしましょう。私たちは絵を完成させてしまいましょう」
「えっ、でも………」

 オスカーさんが俺の提案にのった。また何か勘違いしているのかもしれないが、まあ、もういいだろう。彼はきっと落ちるだろう。何かそんな気がする。そうしたら、俺が雇ってあげよう。

「それじゃあ、荷物持ちとして僕も一緒にいきますよ」

 ミルラン君が一緒に来ようとする。しかし、俺には収納魔法があるので、逆に来てもらった方が半分俺が持つことになってしんどいのだ。

「いや、大丈夫ですよ。こう見えて力は結構ありますので。ミルラン君は背景とか色の配分の案を練っていてください」
「………いいんですか?」
「はい、あんまり僕は役に立ちそうにないですし」
「先ほどの絵を見る限り、そんなことはないと思うけど」

 あれは空間を切り取って自分の見たものを描いているだけなので、創作にはむいていない。

「いえいえ。適材適所っていうやつですよ。では行ってきます」

 俺は買い出しをしに、工房を出て行った。
 
 
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