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第四話
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つつつ、とライラの背中を撫でたレンブラントは満足そうに笑った。
(アイギスのやつ、うまく切り落とせたみたいだな)
ライラの背中には鋭利なもので抉られたような傷跡が縦に大きく二本、刻まれていた。
ほのかに魔法を感じるので、恐らく羽根を切り落とす際でもライラが痛みを感じることはなかっただろう。
ちゅ、とキスをしてやると「んんっ」とライラから甘い声が漏れ出た。
「あ、え、レンく…あぁっ、あっ」
「ほらライラ、こっちに集中しろ」
アイギスの性器を受け入れているライラの体を支えてやりながら、レンブラントは髪の毛にキスを落としてやった。
これでライラは二度と飛べないーー。
ぽふん、とベッドに寝転んだライラは「ふう」と息を吐いた。
すると両隣で髪の毛をブラシで梳かしてくれているレンブラントとアイギスが声を揃えて「どうした」と尋ねる。
「柄にもなくため息なんかつきやがって」
「どうしたんだ、ライラ」
「僕はいつ外に出られますか?」
「またその話か」
「だって、毎日その…えっちなことしてるのになかなか外に出られません」
「お前は外に出なくていいんだよ」
そう言ってレンブラントが紛らわせるように唇にキスをするも「む…」と納得のいかない顔をしている。
アイギスが口を開いた。
「いいか、ライラ。外には怖い魔物がたくさんいるんだ。魔法が使えるかもわかんねえお前が外に出るのは危険だ」
「魔法なら僕も使えるもん」
そう言って、むう、と頬を膨らませるライラが寝転んだまま天井に向かって手を伸ばした。ふわりと、三人がいるベッドが浮かぶ。
二人の悪魔は目を丸くしたものの、ふふ、と笑うライラに我に返った。
「ね? 僕も魔法使え…」
「いつから使えるようになった」
「へ?」
「いつから使えるようになったんだと聞いている」
浮かんだベッドが音もなく沈む。魔法の途切れ方が柔軟で、この天使の魔力は相当なものかもしれないと悪魔二人は推測した。
「いつから…えっと、いつからかはわかんないけど、教えてくれた人がいて…」
二人がライラの腕を掴む。
「どういう意味だ」
「誰かをこの家に上げた覚えはないぞ」
ライラが首を傾いだ。
「え? この声聞こえませんか? よく僕に話しかけてくる声」
悪魔二人が顔を見合わせ「どういう意味だ」と眉間に皺を寄せると、
「もしかすると僕しか聞こえないのかな…。今二人にも聞こえるようにしますね」
ライラが両指を軽く絡め祈るようなポーズを取ると、その小さな手のひらからキラキラと光る星屑のようなものが部屋いっぱいに広がった。
レンブラントとアイギスはその星屑に見惚れかけるも、チッ、と舌打ちをする。
ーーライラの魔力は強い。魔法が使えなかったわけじゃない、使えることを知らなかっただけだ。
『ライラ、聞いているのか、ライラ』
部屋に男の声が広がった。
「ほら、この声です。最近よく僕に話しかけてくるのですが、誰でしょう…?」
『だからどこにいるのか聞いているのだ、いい加減答えろ』
「そう言われましても…どこと言われましても家の中です」
『だから家の中とはどこだと聞いている』
「家の中は家の中です」
『だから…』
声の主が若干困惑している。二人は推測した、ライラにしか聞こえない声ということは恐らく天使だろうと。
レンブラントとアイギスは目線を合わせ、自分たちの存在を知らせない方がいいから喋るなと訴えた。
『その家の中というのはどこだと聞いている。天界ではないのか?』
「テンカイ? テンカイってなんですか?」
『あー…お前まだ知識が全て入っていないんだな? それだったら納得もできるが…しかしあまりにも知識量が少ないな。ライラ、お前はもしかして人間界にいるのか?』
「はい、そうです」
『なるほどな…そりゃあ情報が行き渡らないわけだ。なぜ人間界に?』
「なぜ…?」
ライラは首を傾ぐ。どう答えていいのかわからないのだろう、二人に不安そうな目線を送ってきたので、喋るな、と悪魔二人は口を押さえるポーズを取った。
『まあいい。ライラ、お前は神官候補として生まれたはずだ、今すぐ天界へ戻れ』
「ですからテンカイとは…」
『天使が住む世界だ。お前がどうやって人間界に行ったのかは知らないが、お前にはやるべきことがある。戻れ』
「戻るって…外に出るのですか? 人間界の外には怖い魔物がたくさんいるのですよ?」
『いるわけがないだろ』
「?? でも槍が降る天気の日があって…」
『槍なんか降るわけがないだろ』
「…?? でも、僕はまだ体が慣れてないから外には出られないって…」
『半年もそこにいるのだったらとっくに…待てライラ。外には出られないって誰が言ったんだ?』
しまったーー悪魔二人が顔を見合わせた。
『人間…いや違う、この気配は悪魔か!? お前悪魔といるのか!?』
咄嗟にレンブラントがライラの体を引き寄せ、その隙にアイギスが三人まとめて結界を貼った。
バチンッ、と高く弾ける音がして、声の主からの魔法を回避。
アイギスの額からたらりと汗が流れる。
「あっぶねー…今ライラを無理矢理連れ去ろうとしただろ」
『結界とは小賢しい悪魔だな…!』
「声だけで連れ去り可能っつーことは、大天使以上だなお前」
『…ライラを返せ、悪魔共』
ビリビリと震える空気に悪魔二人が息を飲む。大天使どころじゃない、神官レベルの気配だ。
それでも悪魔二人は唇の端をニイッと引き上げた。
「悪いがコイツはもう天使じゃねえよ」
「コイツはなあ、羽根がないんだ」
『っ』
声の主が詰まる。それはそうだろう、天使にとっても悪魔にとっても羽根は命よりも重い存在だ。
『貴様ら…ライラの羽根をどうした』
「さあ?」
「俺らが何かしたっつー証拠でもあんのかよ。なーライラ」
そう言いながらレンブラントが腕の中のライラにちゅっと音を立てるキスをする。
ライラが首を傾いだ。
「僕の羽根ってやっぱりないのですか?」
「出てこねえってことはないんだろ」
「安心しろ、俺らが一生面倒見てやるからな」
『貴様ら…!』
焚き付けていることは十分承知している。むしろそれが目的だ。
こちらがいくら上級悪魔だと言っても魔王に仕えるほどの身分ではない、自分たちではこの声の主には勝てないだろう。
だから焚き付ける相手はーー。
『目を覚ませライラ! お前はその悪魔たちに弄ばれているんだぞ!』
「もて…?」
『ああもうお前は…! いいからそこを離れろ! 今すぐだ!』
「僕はレンくんとアイくんに助けてもらったのですが…。その上外に出られるように手を尽くしてもらってて…」
『お前を懐柔しようとしてるだけだ! 天使の羽根は人間相手に高く売れる! 天使自体も売られることがあるんだ!』
「二人はそんなことしませんよ?」
レンブラントとアイギスの二人は笑う。この半年間ですっかりライラはこちら側に堕ちている。全て嘘だということなんて露知らず。
誰が嘘をつき本来は誰を信じるべきかの指標が、この声の主とは全く違うのだ。
首を傾ぐライラの耳元で悪魔が囁いた。
「コイツはなあ、ライラ。俺たちの仲を引き裂こうとしてんだ」
「お前が天界へ戻ると俺らとは一生会えんぞ?」
「俺らは確かにお前を助けた。でもなあ、この声の男にはそう見えてねえんだ」
「俺らがお前を連れ去ったと勘違いしてんだ」
「それにこの一件がバレたら俺らは悪魔だからなあ、神に消されるかもしれねえ」
「消されるって…」
「そのままの意味だ」
ライラの顔が、見る見る間に青くなっていく。
右からレンブラントが、左からアイギスがライラを抱きしめた。
バサリと大きく黒い羽根を出し、純真無垢な存在を包み込む。まるで誰にも見せないようにーー。
「だからわかるだろう? 何をすればいいのか」
「なあ、ライラ。俺らはライラとずっとずっと一緒にいたい」
「あの声の男さえいなければ、俺らはずっとずっと一緒にいられるのになあ」
「さあライラ。ーーできるよな?」
包み込んだ天使の顔が熱い。魔法が発動し始めたと二人の悪魔が笑う。
ライラの目が見開き、瞳がキラキラと輝き始めた。長い髪の毛がゆらりと揺れる。
柔らかい風が、部屋の中を吹き抜けた。
「レンくんもアイくんも僕を助けてくれました。そんな二人を消すなんて、僕は絶対に許しません。レンくんとアイくんの敵は、僕の敵です!」
『ライラ! 話を聞けっ! ライーー』
「あなたが誰か知らないけど、僕はあなたが嫌いです!」
ライラが叫んだ瞬間に小さな爆発音が聞こえ男の声が途切れた。
風が止み、部屋の中に静寂が訪れる。
気を失ったらしくライラの体から力が抜けくったりと二人にもたれかかり、額から滲み出る汗をレンブラントが拭い取ってやった。
その額に、ちゅ、とキスをしてやる。
「ご苦労さん、ライラ。やっぱ神官候補だけあってすげー力だわ」
「お前なら追い返せると思ったよ。ありがとう」
小さく真っ白な手を取り、アイギスが口付けた。
「もうここにはいられねえな。場所が割れた」
「ああそうだな。下手したら神がライラを取り返しに来る可能性がある」
「これだけの能力がある天使だからな。…こんなかわいい顔して神官候補とは笑えるな」
そう言って、ぎゅむ、と鼻を摘んでやると眠るライラが小さく眉間に皺を寄せた。
二人は笑う。
「安心しろ、ライラ」
「天使の手も神の手も届かねえ場所に連れてってやるよ」
「ーー喜べ、お前が望んだ外だ」
「ここはどこですか?」
ライラがきょろきょろと辺りを見回す。ヤケに薄暗くてどんよりとした空気感に不思議そうにしている。
「地界だ」
「チカイ…?」
「今日からお前は地界に住むんだよ」
ライラはぱあっと顔を輝かせ「外ですね!」と頬をピンク色にさせた。
悪魔の住む地界ならば天使は勝手に入って来ることができず、しかも神すら簡単には干渉ができない。
そもそも魔王は悪魔に対して興味がなく、天使一人連れてきたってわかりはしないはずだ。
というわけで、と二人の悪魔が笑う。
「ようこそ、『外』へ」
ライラが思いっきりジャンプして二人に抱きつき「嬉しいです!」と大はしゃぎ。
その頭を二人は愛おしく撫でてやった。
「ハッ! もしかして、けるる…? とかなんとかという魔物がいるのでは…!」
「ケルベロスか? 俺らが追い返してやるよ」
「雨に姿を変えた槍は降ってきますか?」
「俺たちが傘になってやるよ」
「お前を狙う全てのものから守ってやるよ」
そう言って左右からキスをするとライラが嬉しそうに笑うのを見て、レンブラントとアイギスの二人も笑みを浮かべる。
ーーこの天使は本当にかわいい。
何も知らない状態で生まれた純真無垢な存在。
まさかこんなにも心奪われる存在になるとは思いもしなかった。
羽根を切り落とされ天使としてのアイデンティティさえも奪われたというのにまだ笑顔を浮かべるとは。
「ライラ」
「三人でいような」
ーーお前は一生、この『外』という檻から出られねえよ。
嬉しそうに「うんっ」と返事をする天使に、二人の悪魔は満足そうに笑った。
(アイギスのやつ、うまく切り落とせたみたいだな)
ライラの背中には鋭利なもので抉られたような傷跡が縦に大きく二本、刻まれていた。
ほのかに魔法を感じるので、恐らく羽根を切り落とす際でもライラが痛みを感じることはなかっただろう。
ちゅ、とキスをしてやると「んんっ」とライラから甘い声が漏れ出た。
「あ、え、レンく…あぁっ、あっ」
「ほらライラ、こっちに集中しろ」
アイギスの性器を受け入れているライラの体を支えてやりながら、レンブラントは髪の毛にキスを落としてやった。
これでライラは二度と飛べないーー。
ぽふん、とベッドに寝転んだライラは「ふう」と息を吐いた。
すると両隣で髪の毛をブラシで梳かしてくれているレンブラントとアイギスが声を揃えて「どうした」と尋ねる。
「柄にもなくため息なんかつきやがって」
「どうしたんだ、ライラ」
「僕はいつ外に出られますか?」
「またその話か」
「だって、毎日その…えっちなことしてるのになかなか外に出られません」
「お前は外に出なくていいんだよ」
そう言ってレンブラントが紛らわせるように唇にキスをするも「む…」と納得のいかない顔をしている。
アイギスが口を開いた。
「いいか、ライラ。外には怖い魔物がたくさんいるんだ。魔法が使えるかもわかんねえお前が外に出るのは危険だ」
「魔法なら僕も使えるもん」
そう言って、むう、と頬を膨らませるライラが寝転んだまま天井に向かって手を伸ばした。ふわりと、三人がいるベッドが浮かぶ。
二人の悪魔は目を丸くしたものの、ふふ、と笑うライラに我に返った。
「ね? 僕も魔法使え…」
「いつから使えるようになった」
「へ?」
「いつから使えるようになったんだと聞いている」
浮かんだベッドが音もなく沈む。魔法の途切れ方が柔軟で、この天使の魔力は相当なものかもしれないと悪魔二人は推測した。
「いつから…えっと、いつからかはわかんないけど、教えてくれた人がいて…」
二人がライラの腕を掴む。
「どういう意味だ」
「誰かをこの家に上げた覚えはないぞ」
ライラが首を傾いだ。
「え? この声聞こえませんか? よく僕に話しかけてくる声」
悪魔二人が顔を見合わせ「どういう意味だ」と眉間に皺を寄せると、
「もしかすると僕しか聞こえないのかな…。今二人にも聞こえるようにしますね」
ライラが両指を軽く絡め祈るようなポーズを取ると、その小さな手のひらからキラキラと光る星屑のようなものが部屋いっぱいに広がった。
レンブラントとアイギスはその星屑に見惚れかけるも、チッ、と舌打ちをする。
ーーライラの魔力は強い。魔法が使えなかったわけじゃない、使えることを知らなかっただけだ。
『ライラ、聞いているのか、ライラ』
部屋に男の声が広がった。
「ほら、この声です。最近よく僕に話しかけてくるのですが、誰でしょう…?」
『だからどこにいるのか聞いているのだ、いい加減答えろ』
「そう言われましても…どこと言われましても家の中です」
『だから家の中とはどこだと聞いている』
「家の中は家の中です」
『だから…』
声の主が若干困惑している。二人は推測した、ライラにしか聞こえない声ということは恐らく天使だろうと。
レンブラントとアイギスは目線を合わせ、自分たちの存在を知らせない方がいいから喋るなと訴えた。
『その家の中というのはどこだと聞いている。天界ではないのか?』
「テンカイ? テンカイってなんですか?」
『あー…お前まだ知識が全て入っていないんだな? それだったら納得もできるが…しかしあまりにも知識量が少ないな。ライラ、お前はもしかして人間界にいるのか?』
「はい、そうです」
『なるほどな…そりゃあ情報が行き渡らないわけだ。なぜ人間界に?』
「なぜ…?」
ライラは首を傾ぐ。どう答えていいのかわからないのだろう、二人に不安そうな目線を送ってきたので、喋るな、と悪魔二人は口を押さえるポーズを取った。
『まあいい。ライラ、お前は神官候補として生まれたはずだ、今すぐ天界へ戻れ』
「ですからテンカイとは…」
『天使が住む世界だ。お前がどうやって人間界に行ったのかは知らないが、お前にはやるべきことがある。戻れ』
「戻るって…外に出るのですか? 人間界の外には怖い魔物がたくさんいるのですよ?」
『いるわけがないだろ』
「?? でも槍が降る天気の日があって…」
『槍なんか降るわけがないだろ』
「…?? でも、僕はまだ体が慣れてないから外には出られないって…」
『半年もそこにいるのだったらとっくに…待てライラ。外には出られないって誰が言ったんだ?』
しまったーー悪魔二人が顔を見合わせた。
『人間…いや違う、この気配は悪魔か!? お前悪魔といるのか!?』
咄嗟にレンブラントがライラの体を引き寄せ、その隙にアイギスが三人まとめて結界を貼った。
バチンッ、と高く弾ける音がして、声の主からの魔法を回避。
アイギスの額からたらりと汗が流れる。
「あっぶねー…今ライラを無理矢理連れ去ろうとしただろ」
『結界とは小賢しい悪魔だな…!』
「声だけで連れ去り可能っつーことは、大天使以上だなお前」
『…ライラを返せ、悪魔共』
ビリビリと震える空気に悪魔二人が息を飲む。大天使どころじゃない、神官レベルの気配だ。
それでも悪魔二人は唇の端をニイッと引き上げた。
「悪いがコイツはもう天使じゃねえよ」
「コイツはなあ、羽根がないんだ」
『っ』
声の主が詰まる。それはそうだろう、天使にとっても悪魔にとっても羽根は命よりも重い存在だ。
『貴様ら…ライラの羽根をどうした』
「さあ?」
「俺らが何かしたっつー証拠でもあんのかよ。なーライラ」
そう言いながらレンブラントが腕の中のライラにちゅっと音を立てるキスをする。
ライラが首を傾いだ。
「僕の羽根ってやっぱりないのですか?」
「出てこねえってことはないんだろ」
「安心しろ、俺らが一生面倒見てやるからな」
『貴様ら…!』
焚き付けていることは十分承知している。むしろそれが目的だ。
こちらがいくら上級悪魔だと言っても魔王に仕えるほどの身分ではない、自分たちではこの声の主には勝てないだろう。
だから焚き付ける相手はーー。
『目を覚ませライラ! お前はその悪魔たちに弄ばれているんだぞ!』
「もて…?」
『ああもうお前は…! いいからそこを離れろ! 今すぐだ!』
「僕はレンくんとアイくんに助けてもらったのですが…。その上外に出られるように手を尽くしてもらってて…」
『お前を懐柔しようとしてるだけだ! 天使の羽根は人間相手に高く売れる! 天使自体も売られることがあるんだ!』
「二人はそんなことしませんよ?」
レンブラントとアイギスの二人は笑う。この半年間ですっかりライラはこちら側に堕ちている。全て嘘だということなんて露知らず。
誰が嘘をつき本来は誰を信じるべきかの指標が、この声の主とは全く違うのだ。
首を傾ぐライラの耳元で悪魔が囁いた。
「コイツはなあ、ライラ。俺たちの仲を引き裂こうとしてんだ」
「お前が天界へ戻ると俺らとは一生会えんぞ?」
「俺らは確かにお前を助けた。でもなあ、この声の男にはそう見えてねえんだ」
「俺らがお前を連れ去ったと勘違いしてんだ」
「それにこの一件がバレたら俺らは悪魔だからなあ、神に消されるかもしれねえ」
「消されるって…」
「そのままの意味だ」
ライラの顔が、見る見る間に青くなっていく。
右からレンブラントが、左からアイギスがライラを抱きしめた。
バサリと大きく黒い羽根を出し、純真無垢な存在を包み込む。まるで誰にも見せないようにーー。
「だからわかるだろう? 何をすればいいのか」
「なあ、ライラ。俺らはライラとずっとずっと一緒にいたい」
「あの声の男さえいなければ、俺らはずっとずっと一緒にいられるのになあ」
「さあライラ。ーーできるよな?」
包み込んだ天使の顔が熱い。魔法が発動し始めたと二人の悪魔が笑う。
ライラの目が見開き、瞳がキラキラと輝き始めた。長い髪の毛がゆらりと揺れる。
柔らかい風が、部屋の中を吹き抜けた。
「レンくんもアイくんも僕を助けてくれました。そんな二人を消すなんて、僕は絶対に許しません。レンくんとアイくんの敵は、僕の敵です!」
『ライラ! 話を聞けっ! ライーー』
「あなたが誰か知らないけど、僕はあなたが嫌いです!」
ライラが叫んだ瞬間に小さな爆発音が聞こえ男の声が途切れた。
風が止み、部屋の中に静寂が訪れる。
気を失ったらしくライラの体から力が抜けくったりと二人にもたれかかり、額から滲み出る汗をレンブラントが拭い取ってやった。
その額に、ちゅ、とキスをしてやる。
「ご苦労さん、ライラ。やっぱ神官候補だけあってすげー力だわ」
「お前なら追い返せると思ったよ。ありがとう」
小さく真っ白な手を取り、アイギスが口付けた。
「もうここにはいられねえな。場所が割れた」
「ああそうだな。下手したら神がライラを取り返しに来る可能性がある」
「これだけの能力がある天使だからな。…こんなかわいい顔して神官候補とは笑えるな」
そう言って、ぎゅむ、と鼻を摘んでやると眠るライラが小さく眉間に皺を寄せた。
二人は笑う。
「安心しろ、ライラ」
「天使の手も神の手も届かねえ場所に連れてってやるよ」
「ーー喜べ、お前が望んだ外だ」
「ここはどこですか?」
ライラがきょろきょろと辺りを見回す。ヤケに薄暗くてどんよりとした空気感に不思議そうにしている。
「地界だ」
「チカイ…?」
「今日からお前は地界に住むんだよ」
ライラはぱあっと顔を輝かせ「外ですね!」と頬をピンク色にさせた。
悪魔の住む地界ならば天使は勝手に入って来ることができず、しかも神すら簡単には干渉ができない。
そもそも魔王は悪魔に対して興味がなく、天使一人連れてきたってわかりはしないはずだ。
というわけで、と二人の悪魔が笑う。
「ようこそ、『外』へ」
ライラが思いっきりジャンプして二人に抱きつき「嬉しいです!」と大はしゃぎ。
その頭を二人は愛おしく撫でてやった。
「ハッ! もしかして、けるる…? とかなんとかという魔物がいるのでは…!」
「ケルベロスか? 俺らが追い返してやるよ」
「雨に姿を変えた槍は降ってきますか?」
「俺たちが傘になってやるよ」
「お前を狙う全てのものから守ってやるよ」
そう言って左右からキスをするとライラが嬉しそうに笑うのを見て、レンブラントとアイギスの二人も笑みを浮かべる。
ーーこの天使は本当にかわいい。
何も知らない状態で生まれた純真無垢な存在。
まさかこんなにも心奪われる存在になるとは思いもしなかった。
羽根を切り落とされ天使としてのアイデンティティさえも奪われたというのにまだ笑顔を浮かべるとは。
「ライラ」
「三人でいような」
ーーお前は一生、この『外』という檻から出られねえよ。
嬉しそうに「うんっ」と返事をする天使に、二人の悪魔は満足そうに笑った。
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この作品は感想を受け付けておりません。
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