魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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3 それって楽しいの?

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 毎日毎日乙女ゲーをやりこむ王子。最初にやっていた物はとっくにクリアしたので次々と別タイトルに手を出している。

「なるほど……言葉を選びつつ、こうやって複数人をキープしてたのか」

 ところどころ身につまされるモノがあるのか、ヒロイン視線で楽しむ傍ら、やはり自らの経験を振り返っているようだ。うんうんと頷きながら勉強になるなあ、と時折メモをとったりしている。

 日々厚くなるメモ帳。
 それを見て。


「ねえ、ちゃんとゲームとして楽しめている? なんか、少しでも自らの為になるようにと無理矢理『学習』しようとしてない?」

「…………!!!」


 何となく気になったことを口にしたらコントローラーを持ったまま固まってしまった。

 軽くショックを受けているようなのでお茶に誘ってみることにした。ちなみに、今日のおやつはケーキです。




「僕としたことが……また、つい学習意欲に支配されてしまった」

「まあ、やってることはゲームだけどね」


 言いながら用意したのはシンプルな紅茶。ティーバッグの物だから若干不安ではあったが、王子は美味しそうに飲んでいる。変にこだわりが無くて良かった。まあ、炭酸飲料とポテチが大好きなようなので、食への理解は深そうだ。

 画面はお茶会イベントの選択肢で止まっている。それを見て、ふう、とため息をつく王子。遊んでいるつもりで過去のテストの見直し作業的なことをしていたのがショックなのだろう。

 せっかくのゲームを楽しみ切れてないのはもったいない。このゲームなんか、結構戦闘も深くて面白いのに。


「そういえば鈴木さんちでやっていたギャルゲーはちゃんと楽しめてたの?」

「ああ。立場を考えることなく自由な発言や選択ができる楽しみ方は新鮮だった。あと、家柄を気にせず好みの女の子を選べるのが夢のようだった」


 本来の楽しみ方ではあるけれど、なんかうっすらと闇の様なものが見えてくる。


「それにしても……なんか、今日のケーキは美味しいな……?」

「あー、さっきまでゲームでお茶会イベントをやっていたからじゃないかな」

「……!! そうか! 正直、ケーキなんか食い飽きたと思っていたが、あんまりにも美味しそうに描かれているから……!」


 感動したようにケーキを凝視し、チマチマと食べ進める王子。やらかして幽閉されているとはいえ、そこは元王太子。いざというときの『保険』でもあるため食べ物はそこそこいいものを与えられているらしい。

 まあ、気持ちは分かる。ゲームに出てきたモノってなんか食べたくなるもんね。ここ連日、目の前で王子の乙女ゲープレイ実況見ていたせいで、スイーツ出現率が高くて私の方が我慢できなくなってしまったのだ。

 親の仕送り+扶養内バイトの一人暮らし貧乏学生の身。用意できるのはせいぜいスーパーの安物ケーキだけど、しかも二個入りを一個ずつだけど、こういうのは値段じゃないのかもしれない。食べたいときに、食べたいものを食べられる幸せってあるもんね。


「それに、人と何かを食べるのも楽しい。いつもは、食事もお茶も、塔で一人きりだから」

「あー、なるほど。そういうのもあるか。私も一人暮らしだから分かるわ、それ」


 大学進学と共に始めた一人暮らし。親兄弟と離れて少し孤独を感じていたのも事実。この、訳の分からない状況を受け入れているのも、そのせいなのかもしれない。

 変に居つかれるのも困るけど、王子は兵士の見回りがあるからと夕ご飯前には必ず帰って行く。

 おやつを食べてゲームしてご飯前に帰る。まるで小学生のような行動パターンだが、一人暮らしの孤独を癒すにはちょうどいいのかもしれない。



 とりあえずまだ、この王子に乙女ゲームは精神的に無理なのか、と思った私は別のゲームを勧めてみた。その中で、王子が選んだのは農業もできるスローライフもの。

 どうやら、王子として農民の暮らしという物にも興味があるそうだ。

 楽し気に野菜を育てていたので、翌日のおやつは人参と大根の野菜スティックにしたのだが、これはないと泣かれてしまった。

 昨日ケーキ食べちゃったしカロリー的にもバランス取れていいと思ったんだけど。仕方ないのでポテチを追加したらようやく泣き止んだ。

 どうやら王子は、このおやつタイムを思いのほか楽しみにしているようだ。

 ……期待を裏切ってしまったようで申し訳ないです。




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