魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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34 鈴木さん(前の召喚主視点)

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『王子の件について
From:スポーツドリンクの女神

 鈴木さんお久しぶりです。夜分に申し訳ありません。
 王子の件ですが、今日、無事に召喚が再開できました! やはり魔力の枯渇が原因だったみたいです。王子も思っていたより元気そうでした。これで一安心です。
 先日は相談にのっていただきありがとうございました』


 そのメールに気が付いたのは早朝だった。会社の仮眠室。

 残業になりタクシー代が勿体ないからとそのまま泊ったのだが。忙しい日が続いていたため、メールチェックをする余裕がなかった。昨夜、仕事中に届いたようだ。

 返事を送ろうと思うが、この時間ではまだ寝ているかもしれない……と考えたところで思い出した。確か、彼女はまだ大学生。早朝のコンビニで働いていたはずだ。

 そうなると起きているかもしれないが、仕事中かもしれない。仕事中のメールは迷惑だろう。彼女もそう思ったからこそ夜に送ってくれたのだろうから。まあ、残業だったけど。
 基本、仕事中は個人の携帯は電源を切っているので問題はない。

 昨夜中に仕事は何とか終わり、仮眠をとって始発が動いたら帰ろうと思っていたところだ。今日は代休を取っている。

 少し歩くが会社からコンビニは近い。

 コンビニで朝食でも買って、もし彼女がいるようなら一声かけていけばいいか――そう思って俺は会社を後にした。




 あのミニカーペットを手に入れたのは偶然だった。

 当時。俺は大学の3年生。少し中途半端な時期だったが、事情があり実家を出て一人暮らしを始めることになったのだ――が。

 まだ学生だった俺は金がなかった。そこで、地元で就職が決まって実家に帰るという大学の先輩から引越しをするときに、いらなくなった家具やら電化製品やらをもらったのだ。

 悪いから流石にお礼をしようとしたが、返品しないのを条件に先輩はただで譲ってくれた。

 そのときについてきたのがあの魔法陣模様のミニカーペットだった。


 思えば、少しおかしかった。先輩は何故だかホッとした顔をしていたし、その後連絡は取れなくなるし。

 まあ、その原因はすぐに判明したけれど。


 引っ越しも終わり、バイトや大学生活も落ち着き、さあ、のんびり大好きなゲームでもやるか、とおやつを用意したところでソレが現れた。


「あれ? また召喚主が変わったのか。ええと……僕は何に見える?」


 不法侵入者のソレは明らかに人ではなかった。何に見えるかと言えば……。


「悪魔……かな?」


 そんな感じ。人っぽくはあるが禍々しい。何より魔法陣から出てきた。

 でも、不思議と怖くない。チラチラと、俺が食べようと思っていたポテトチップスを気にしているからかもしれない。


「あ、じゃあそれで! えーと、それでなのだが」


 何でも数日に一回、今日みたいにお菓子を供えて召喚してほしいという。コーラとポテトチップスがいいとリクエストまでしてきたのには少しムカついた。


「ええと……悪魔って言えばいいのか? お前いくつなんだ?」

「21……。22かな? あっ、いや。322歳だ!」

「いい加減すぎるだろ……しかも悪魔だからって、とってつけたように」

 設定ガバガバ過ぎないか?

「それと、悪魔的な何かだが僕のことは王子と呼ぶように」

 あと、なんだか偉そうだ。

「とりあえず同年代か年上みたいだが、人に何かを頼むときにはちゃんと『お願いします』と言うべきだ」

「ふむ……一理あるな。ポテトチップスとコーラが大好きなので、数日に一回お供えして僕を召喚してください。あと、娯楽をください。お願いします。これでいいだろうか?」


 まったくよくはなかったが、とりあえず俺が自分から言い出したことは守ってくれたので希望は叶えてやった。


 しばらくするとソレは安定するようになった。禍々しさがキラキラしさに変わり、本人が自称するように王子っぽさだけが残った。そのお陰か最初に召喚したときより少し若く見える。

 相変わらず偉そうだし迷惑をかけられ続けるし、俺にとっては悪魔そのものだが。


 そのうちに、実は自分は異世界の元王太子で平民出身の女に『魅了』にかけられて婚約破棄したとか、それが原因で塔に幽閉されているとか、事情を色々話された。

 境遇に同情はするが、それがどうしてこの行動につながったのかは正直理解できない。あと、本人に悪気はないようだが、もう、本当に色々とやらかされて思い出したくもない。二度目があったら全力で拒否したい。

 でも、ゲームをやっている姿は楽しそうではあるし、碌なことはしないが叱れば反省はするし、何となくほだされて、大学を卒業して就職してからもだらだらと面倒を見てしまった。色々あって、結局は人に押し付ける道を選んでしまったけれど。


 そうして押し付けたのが彼女――スポーツドリンクの女神だった。



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