魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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52 魅了堕ち幽閉王子専用眼鏡を作ろう

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 そうして気が付けば私は王子に似合う眼鏡探しを始めていた。まさにリアルお着替えモード。対象者は王子だ。


 先ほどまでやっていたゲームで、攻略対象(眼鏡装着済み)が新たに出てくるたびにかけ替えられていた眼鏡。王子はあの数々の眼鏡をどこにしまっていたのか。


 疑問に思ってそれを聞いてみれば、なんとこの王子、こちらでやったゲームを参考に、空間魔法とかいうのを習得したそうだ。いわゆる、インベントリ。

 大量には無理だけど、眼鏡程度なら仕舞えるそう。最大容量は今のところ眼鏡ケース20個分。いや、何なのその単位……。

 とりあえずこんなこともあろうかと、過去の王族のお忍び用メガネコレクションの中からデザイン別に数種類を収納してきたのだそう。

 いや、想定に入れないでよ、こんなこと。そうは思うが非常に都合がいいのでとりあえず全て出してもらう。

 丸眼鏡、四角い眼鏡、シンプルな眼鏡、大きめ眼鏡――基本を押さえて色々あるようだ。どうやら、これらをもとに魔法でフレームの色を変えて、私がキャラ別にそれぞれ合わせた眼鏡を再現していたらしい。王子、素晴らしいお仕事です。

 ゲーム内で攻略対象に対してやっていたように、この眼鏡コレクションを使い、今度は王子に似合う眼鏡を見極めていく。

 顔が整っているので基本的に何を選んでも似合いはするのだが、『これぞ』っていうのがあるはずだ。シンプルな眼鏡が良く似合うが、それでは凡庸すぎる気がする。ここは、王子のシュッとした感じ(あくまでも見た目のみ)に合わせて、すこし冷静な出来る男風の四角いレンズベースの細身の眼鏡を選んでみた。

 そして、色。さっきまではキャラクターに合わせた濃い青の眼鏡を着用していたが、王子の目は透明感のある濃い青。眼鏡のフレームまで合わせては少しうるさい気がする。

 とはいえ、青みがかった薄い金髪の王子にはイメージカラーの青は外せない。なので、フレームの色を少し抑えることにする。青というよりは水色に近く――とはいえ周囲から浮かないように少し灰色を加えて、深みを出すために少し緑っぽさも入れて――これだ!! という色味を探し出す。

 ちなみに私は口でリクエストするだけで再現しているのは王子です。長く続く微調整にちょっと待って、休ませて、と少し疲れてきているようだけど、コレ始めたのは王子だからね。それにまだ言葉が通じているしダイジョーブ、ダイジョーブ。あと少しだから頑張って!

 眼鏡好きのプライドにかけて、王子に似合う最高の一品を選んで見せるわ。眼鏡に関しては妥協は許さない!!

 そして――。


「似合う……! これよ!! これだわ!!! 王子専用眼鏡……っ」

「そ……そうか……??」


 青みがかった薄い金髪に透明感のある濃い青い目。それを彩る、まるで流氷に海の色が反射したかのような淡い、灰色がかった水色……というか薄めの緑……? みたいな神秘的な色合いの眼鏡。元の性格は置いておいて見た目だけは冷たく見える王子の顔を引き締めつつも柔和に見せる見事なチョイス。文句のつけようがないと思う出来だった。


「眼鏡をかける際にはこんな感じの物を選ぶといいと思うわ! ところで王子の視力は?」

「2.0だ。両目ともに」


 どうやら眼鏡の出番はないようだ。

 とはいえ、色は変えちゃったけど元々は過去の王族のお忍び用の度なし眼鏡なのだから、そんな感じで使えばいいと思う。

 そう言ったら「あ、いや幽閉中だから……」と、申し訳なさそうにモゴモゴしていた。そうでした。あまりに自由に行動しているからつい忘れてしまうけど。


「ま……、まあ、あれよ。いつかは必要になるかもしれないし。あっ、そうだ。老眼鏡が必要になる年齢になったら使えばいいわ」

「……」

「……王子?」


 私の言葉に何やら微妙な顔を返す王子。何だろう。おかしなことを言っただろうか。


「……あ、いや。何でもない。まー、あれだ。その、そんな年齢になるまでどのくらい塔に幽閉されるのかなー……とか、……ちょっと……」


 そ・う・で・し・た!!!!


「ご、ごめんっ。えーと、あれだ。こっちでかければいいよ。ほら、コレだってお忍びみたいなものじゃない?」

「……そうだな。うん。ここぞというときにこっちで思う存分活用させてもらうことにする」


 そしてこれ以降。

 私が乙女ゲームをやるときには、何故か必ず眼鏡王子が後ろで見守ることになる。非常にお似合いの王子専用眼鏡を身に付けて。


 しゅ……集中できない……!!!!





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