魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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57 お昼寝王子の腕の中

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「うーん……」

 眩暈と吐き気が酷かったけど、やっぱり3D酔い対策にはお昼寝が一番だと思う。起きたら不快感が消えていた。なんかやたらと温かいし、思いのほかグッスリ寝たような――。

 ふ……っと意識が浮上して、そんなことを考えた。

 私は寝起きがいい方だ。

 小さい頃から。早朝に飼い犬の散歩をしたり、学校の飼育当番で早起きをしたり、そんな生活が根付いていたからだと思う。

 3番目のお兄ちゃんやサークルの先輩なんかはそんな私を変だと言うけれど、朝起きるのはつらくないのよね。だから、早朝バイトも無理なく続けることが出来ている。まあ、その分昼間に少し眠くなっちゃったり、お昼寝するとウッカリ寝過ごしちゃったりもするけれど。

 目覚ましが鳴ればほらスッキリ――って。目覚まし鳴っていなくない!?


 持ち前の寝起きの良さで一気に目が覚めた私は頭が真っ白になった。目の前も真っ白――って王子のTシャツか。って、え!? 目が覚めたらお昼寝王子の腕の中。ああ、温かいと感じたのは王子の体温か。意外と体温が高い。子供か――って、そうじゃなくて。

 パニックになるのが一番いけない。緩んだ王子の腕から抜け出して、周りを見れば、王子がいつも抱っこしている私のクマちゃんが王子を挟んで私の反対側に転がっている。

 よし。理解した。

 王子はクマと私を間違えている。私も3D酔いしちゃって限界だったから、ついそのまま王子の横で寝ちゃったし。それは分かったからいいとして。目覚ましは!? ってか、今何時!?


「王子! 王子! 起きて!!」

「……もうちょっと」


 ぎゅうううう。

 ああ、この光景自分視点で何度も見たな。二度寝希望王子に締め上げられるクマ。クマ視点で見るとこうなのか。じゃなくて。再びしがみつかれて動けなくなった私は慌てて王子の背中をバンバン叩く。


「ごめん! 私もゲームに酔って寝ちゃったの! 目覚ましかけたんだけど」

「あーうん。止めた……」

「は!?」

「気づいたら……目覚ましかかってて……夕方なのに。一分前で……もうちょい寝たくて……止めた……」

「!!!!」


 慌てて時計を見れば17時55分。ちょっと、王子何してくれてんの!? 何サイレント二度寝しちゃってんの!? 私はどうにか王子の腕から抜け出すと彼の体を抱き起した。


「起きて!! 夕飯までに帰らないとお世話する人にバレちゃうんでしょ」

「あー、今日は夕飯いいや……」

「って、私に言ったってしょうがないでしょーが!! 起きて! 意識浮上して!!」

「うん……? うん。あ……? もうこんな時間。なんで……?? クマは……?」


 寝ぼけている王子を何とか着替えさせ、とりあえず落ち着かせるために転がっているクマを持たせて、魔法陣に乗せて帰らせる。そして時計を見ると――18時ジャスト。

 大丈夫だよね!? ギリ間に合ったよね!?

 心臓のドキドキが止まらない。目覚ましかけたのに寝過ごすとか人生初体験だわ。うわー、夢に見そう。

 この日、衝撃のあまり私はなかなか寝付けなかった。とはいえ、朝は時間通りに起きられたので良しとする。

 ……本当に朝は強いなー、私。




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