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187 涙目王子と召喚主
しおりを挟む「ああ、今日はいつもより少し遅かったな……(ぐすっ)」
家に帰り。慌てて好物のポテトチップスとコーラで王子を召喚したものの、既に午後4時過ぎ。一時間以上の大遅刻だ。
「ごめんっ! 大学祭の準備を手伝っていたら遅くなっちゃって」
「あ…、ああ、いいんだ。おく……遅れることもあると聞いているからな。だ…っ、大丈夫っっ。学生は学生生活を優先するべきだ。僕……のことは後回しでも、その、呼んでもらえればそれで……ひっく」
必死で平静を装っているが、お目目が赤い。え。これ泣いてた? ってか、現在進行形で泣いてるよね? うっすら光る目尻の涙と、隠しきれてない嗚咽がいたたまれないです。
ああ、久しぶりに見たな。捨てられた子犬みたいな目をした王子。最近は時間厳守で召喚していたから、王子が油断していたところにやっちゃったかもしれない。
しかも、昨日、一昨日と召喚は無しだったからなあ。多分、王子は今日の召喚をものすごく楽しみにしていたのだろう。その反動か、かなりのショックを与えてしまったようだ。
お菓子に手を付けないどころか、座るなりクマちゃんをベッドの枕元から攫い、抱き込んでいる。ビーズクッションに力なく沈み込む様子が寂し気だ。
ええと……。なんか、ごめん……。
「あ、そうだ。スーパー……」
「行かない(ぐすっ)」
ダメだ。完全に警戒して拗ねている。外に連れ出したらそのまま捨てられるとでも思っているのだろうか。……思ってそうだな。
この王子、召喚が途絶えることにはやたら繊細で敏感だから。あえて王子の前に回り込み、しゃがんで視線の高さを合わす。目を逸らされちゃうけど気にしない。
「ごめんね。前にも話していたと思うけど、大学祭……学校のお祭りみたいなのが明日と明後日で、今日はその準備をしていたの。一年にたった二日間だけだから、準備に手間取って。滅多にあることじゃないから、今だけのことだから、心配しなくても大丈夫よ」
ぴくっ。
おっ。反応した。そう、今回の遅刻はイレギュラー。とは言っても、そんなの連絡も無しに放置されちゃった王子には関係ないもんね。何か……何か、ないかな。王子のテンションがあがるもの。
「あっ、そうだ。ポテトチップスの気分じゃないなら、久しぶりにホットケーキでも作ろうか?」
「…………!!(ぴくっ)」
おっ。イイ感じ。
「ほら。前に作った時、何だかんだ冷めちゃったじゃない。出来立てのアツアツはバターもよく溶けて美味しいわよ? ハチミツたっぷりかけて、高級アイスとウエハースも添えちゃおうか。王子、温かいおやつ好きだけど、ひえっひえの冷たいおやつも好きだもんね」
「………!! 気付いて…。そ……そうだなー。美味しそうではあるが……。その、面倒だったり、わずらわしかったりするなら無理には……」
チラッ、チラッ。王子がコチラの様子を自信なさげに窺ってくる。よし、あとちょっと!!
「全然! 肌寒くなってきたし、そろそろ王子に温かいおやつを作ってあげようと思って買っといたのよ。アイスは夏の残りだけど。どうする? ホットケーキなら食べられそう?」
「ああ!!」
よっしゃ、ミッション完了!
ではさっそく……とキッチンで作り始めたら王子が寄ってきた。いつもはゲームまっしぐらなのにキッチンにくるのは珍しい。まだ、完璧には落ち着いていない証拠だろう。
それでもいつも通りジャージには着替えたみたいなので、少しは落ち着きを取り戻したようだ。
使うのはホットケーキミックスだから、混ぜて焼いて――の流れ作業なのに、何が楽しいのか王子はクマちゃんを抱えながら横に張り付いて見学している。
「いいニオイだ……」
「まだよー。もう一枚焼いてから。二段重ねにするからね」
冷めないようにちゃっちゃと焼いて、バターとハチミツをトッピング。おっと、バナナもあったはず。あれも一緒にのっけちゃおう。アイスとウエハースを載せたら、チョコレートは王子のお好みで。
ハイ出来ましたよ!
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