魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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192 嵐の前の召喚主

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 ――コレは夢か。いや、まさに夢のようではあるけれど。

「にゃーん☆」

 夜。魔法陣の上に現れた真っ黒いモフモフ猫ちゃんにワクワクが止まらない……!!



 夕方。私が召喚時間を大幅に遅刻してしまったせいで、すっかり疑心暗鬼になってしまった涙目王子様。

 ホットケーキで元気づけて、刺繍で魔法の実験をするぐらい気持ちが回復したのはいいけれど、流石に時間が短すぎて可哀想……と、夜の召喚に誘ったのだが遠慮されてしまった。


 王子は寝る前に城の地下ダンジョンの攻略に行くらしい。


 ならば、夜のこの時間王子は留守だろう。そして偽王子(猫耳)は腹ペコ身代わり中。

 ――と、いうわけで今夜は猫ちゃんにご飯でもあげてから寝ようかな……と、お握りを用意して小魚のおやつで召喚してみれば。


 猫ちゃんがやってきた。


 いや、予定通りなんだけど、予定外というか。何、今日節約モード入ってるの? 偽王子(猫耳)ってば最初っからローブ猫になってるんですけど!?


「にゃー…?」

 偽王子(猫)は可愛いお鼻をひくひくさせたと思ったら部屋をぐるりと見回して。大好きなオヤツには目もくれずベッドの足元に置いていた、明日大学祭に持っていく予定のカバンのチャックを器用に開けて、黒いローブを引っ張り出した。

 そして。


 バリバリバリバリ……っ!!
 バリバリバリバリ……っ!!



 ……って、何してるの猫ちゃん、爪とぎやめて――!!


「もー。イタズラしちゃだめでしょ。コレは私の大事なローブなの。だから、爪とぎしちゃダメ!」

「にゃーん! にゃーん!! シャーッ!」


 ビビビビビ……ッ!


 何故か余計にローブを引き裂こうとする偽王子(猫)を慌ててローブから引き離す。結構豪快な音がしていたが――確認してみると破れるどころかキズ1つ付いてはいなかった。

 王子の品質保持魔法のお陰だろう。魔法陣、いい仕事してますね。

 偽王子(猫)は不満そうに私の目を盗んでは何度かチャレンジしていたが、キズ1つ付かない様子に諦めたのか気持ちを切り替えたのか。
 今度はローブに頭をスリスリし始めた。そうして適当に布地を整えると。

 ごろんごろんごろーん。

 と、布の上で遊び始めた。……って、コラコラ何してんの。何、そんなにローブの材質気に入ったの? でも、ダメだって、両方黒で目立たないけど毛がついちゃうし……って、かぁーわいーなぁ、もうっ!!


 気まぐれ偽王子(猫)はしばらくローブを占拠して我が物顔をしていたが、やがて満足したのかおやつを思い出したのか、私の方へと寄ってきた。わくわく。

 まったく、ローブコスプレ猫ちゃんめ。いくらハロウィンが近いからってイタズラは駄目ですよ。おやつは用意したんだからおやつで我慢してください。

 ホラ、人間用のお皿じゃ食べづらいでしょう、と手で小魚のおやつを持って誘ったら。

 …はぐっ☆

 って、なにこれ天国!? 直接、手から……!!

「あー、もー、どうしよう? この猫状態で牛乳ってあげてもいいのかしら??」
「!! にゃー♡」

 にゃーにゃー、返事はしてくるが、私は大家さんではないので何を言っているのか分からない。とりあえず今日は大事を取って飲み物はお水に変更。偽王子(猫)は不満そうだが、小魚で喉が渇いたのか可愛い舌でしっかりと飲んでいる。ホットミルクは今度、猫耳状態のときに作ってあげればいいだろう。


「えーと、ごめんね、言葉分からないけど、コレ、今日の分のお握り。持って帰って食べられる? ホットミルクは、今度作ってあげるから、今日は我慢してね。ああ、代わりにぬるめのお茶を水筒に入れてあげるわね。お握りにはその方が合うと思うから」

「にゃーん♡(ゴロゴロゴロゴロ♡)」


 おっと、これは分からないけど分かったぞ。ああ、もうお茶を冷ましている間、全力で甘えてくる偽王子(猫)が可愛くて仕方がない。なでなでなでなで。

 流石にこの姿でお握りを食べる気はないようで、用意したお握りはローブ収納に仕舞った――のだと思う。一瞬で消えたからそうとしか思えない。お茶も少し冷ましたのを水筒に入れてやると、一瞬で消えた。

 良かった。こんなでかいの入るのか心配だったんだけど、ローブ収納は旅行カバン一つ分は入ると言っていたし、今の偽王子の大きさはあまり関係ないようだ。


 偽王子(猫)様が帰ったのは結局召喚から一時間以上が経ってから。ちょっとご飯渡すだけのつもりだったのに。予定が大幅にずれ込んだ。
 困っちゃうなー。明日バイトなのになー。


 でもっ、でもっ!!


 睡眠とは別方向の癒しを大量摂取したお陰で、今日はいい夢を見られそう。

 うん! なんか、今日はとってもいい日だな♪




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