魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

文字の大きさ
221 / 364

221 日本の冬 異世界の冬

しおりを挟む

 しかし。初めての冬――とは言っても、それは我が家限定での話。コチラの世界への召喚歴は長い王子のこと。よそのお宅では冬の召喚も経験している筈だ。

 私に異世界召喚魔法陣ラグを売ってくれた、王子召喚における大先輩。鈴木さんの家ではいったいどうしていたんだろうか。

 今度、鈴木さんに聞いてみようか――と考えて。
 いや、聞くまでもないか――と思い直す。


 いや、だって。
 王子のことだから、絶対、好き放題使っていたでしょ。


 鈴木さんから聞いている王子のやらかしを思い出すだけでも容易にそれが想像出来る。だからこそ、今、王子からサラリとこんなセリフが出てきたのだろうし。

 大変でしたね、鈴木さん……。心中お察し致します。

 なので、今更ソレをわざわざ聞いて傷口抉るようなことはしませんよ。それに余計なことを言うと心配かけちゃうし。
 何せ、私ってば鈴木さんの心の妹らしいから。


 王子を甘やかすことは出来ない。でも、寒いままでは可哀想。

 ……ってことで、とりあえず春先に実家から調達してきた男物の冬用トレーナーを着せてみたけど、まだちょっと寒いらしい。結構暖かいんだけどな、ソレ。
 やっぱり王子ってば寒がりなのかな?


 ああ、それとも――王子のいる世界とこちらとでは、気候の違いでもあるのだろうか?


「ねえ、王子。もしかして、王子の世界ってこっちより暖かかったりする? 年中夏で冬がないとか……」

「いいや? そういう国もあるけど、我が国には四季があるからな。季節の移り変わりが美しいと、他国からの観光客からも評判だ。まあ、僕は幽閉中だから、塔の窓からほんのちょこっとしか見られないけどな!」


 エッヘン! と胸を張る王子。

 ああ、うん。自国の自慢をしたくなっちゃうのは分かります。日本も四季はありますし。キレイな景色は見ていて和むよね。私も桜の季節なんかは特に好き。

 でも、後半のは胸張るとこじゃないでしょうよ。反応に困るっての。いい加減、慣れたけど。

 ああ、でもそうか。幽閉中の塔は石造りらしいし、底冷えしちゃって寒いのが苦手……とかはありそうだ。そうなっちゃうと、なんか可哀想だから話は別。


 王子の返答次第ではつい、スイッチオン☆ しちゃうかも……。


 とりあえず参考になれば、と思い聞いてみれば。


「いいや? 地下のダンジョンからの隙間風に悩まされることは多いが、基本的に塔には夏涼しくて、冬暖かい、冷暖房両方に効果がある適温魔法がかかっているから凍えるほどではないな。瘴気を含むダンジョンからの風には為す術がないから、ソコだけは仕方がないんだ。それ以外では魔法のお陰で服装に関係なく塔内では季節に応じた適温状態が保たれる。まあ、留守中はどうせソレ使わないのだからいいかと思って、僕がこっちに遊びに来ている間は魔法陣への魔力補充用に適温魔法用の魔力をこっそり拝借したりしているがな。ああ、そうなると、確かに塔に帰った時に結構ひんやりはするかな。でも、物事には優先順位というものがあるから、こればかりは仕方がない」

 いや、そもそも幽閉中の人間が気軽に塔を留守にするなよ。
 しかも、暖房用の魔力の私的流用って……。

 ――そしてやっぱり魔法陣優先なのか。


 ツッコミどころ満載なうえに、なんの参考にもならなかった。日本の冬と異世界の冬。そもそもの前提条件が違い過ぎる。

 あーあ……そっちのエネルギーって魔力だもんね。電気代かからなくていいな。
 しかも、塔にかかっている適温魔法って、何それ便利――……。

 ……って、あれ?


 何か、そんな感じのやつ身近にあったよね? 電気代節約になりそうな――夏涼しくて、冬暖かい。冷暖房完備で着ているだけで適温状態が保たれる、謎技術満載の――――。


 そうだ! 先輩に貰った、オカルト研究会特製ローブ!!


 何故だか影が薄くなって人とぶつかりやすくなるっていう妙な副作用はあったけど、その効果は実証済み。それに、室内で使用する分には誰かにぶつかる危険もないですし。


 それにフリーサイズのこれなら、二人で羽織ってもいけるんじゃない?


 クローゼットからローブを取り出して。
 試しにゲーム用の定位置に座り、いつもの二人ゲーム体勢をとって、広げたローブを王子と私の背中に羽織ってみれば――。


「やった! 適温だ」


 寒くも暑くもなく――というよりは、ちょっとだけ暖かいくらいがいいな……と思った通りのその温度。しかも、3D酔い対策の都合上、ゲーム体勢で王子に引っ付いている分、更に温かい。

 あー、コレいいかも。流石に二人で使うと布地が足りなくて、前が開いちゃっている分万全ではないけれど、王子と腕を組んでいるからその僅かな人肌が心地よい。相乗効果ってやつですね。まあ、その分夏はちょっと使いづらいかもしれないけど。


「いいじゃん、これなら電気代もかからないし。本格的な冬が来たら流石に暖房必須だろうけど、当分はこれでいける――って、王子? 聞いてる?」

「………………ああああ、なな、なんだ!?」


 ペチペチと。組んだ王子の腕を反対側の手で叩くが反応が薄い。あれ? 適温で心地よいのは私だけだったのだろうか。
 そう思って効果のほどを確かめようと王子を見上げれば。


 王子は何故かコントローラーを手にしたまま、顔を真っ赤にさせて固まっていた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

幸せを望まなかった彼女が、最後に手に入れたのは?

みん
恋愛
1人暮らしをしている秘密の多い訳ありヒロインを、イケメンな騎士が、そのヒロインの心を解かしながらジワジワと攻めて囲っていく─みたいな話です。 ❋誤字脱字には気を付けてはいますが、あると思います。すみません。 ❋独自設定あります。 ❋他視点の話もあります。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...