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221 日本の冬 異世界の冬
しおりを挟むしかし。初めての冬――とは言っても、それは我が家限定での話。コチラの世界への召喚歴は長い王子のこと。よそのお宅では冬の召喚も経験している筈だ。
私に異世界召喚魔法陣ラグを売ってくれた、王子召喚における大先輩。鈴木さんの家ではいったいどうしていたんだろうか。
今度、鈴木さんに聞いてみようか――と考えて。
いや、聞くまでもないか――と思い直す。
いや、だって。
王子のことだから、絶対、好き放題使っていたでしょ。
鈴木さんから聞いている王子のやらかしを思い出すだけでも容易にそれが想像出来る。だからこそ、今、王子からサラリとこんなセリフが出てきたのだろうし。
大変でしたね、鈴木さん……。心中お察し致します。
なので、今更ソレをわざわざ聞いて傷口抉るようなことはしませんよ。それに余計なことを言うと心配かけちゃうし。
何せ、私ってば鈴木さんの心の妹らしいから。
王子を甘やかすことは出来ない。でも、寒いままでは可哀想。
……ってことで、とりあえず春先に実家から調達してきた男物の冬用トレーナーを着せてみたけど、まだちょっと寒いらしい。結構暖かいんだけどな、ソレ。
やっぱり王子ってば寒がりなのかな?
ああ、それとも――王子のいる世界とこちらとでは、気候の違いでもあるのだろうか?
「ねえ、王子。もしかして、王子の世界ってこっちより暖かかったりする? 年中夏で冬がないとか……」
「いいや? そういう国もあるけど、我が国には四季があるからな。季節の移り変わりが美しいと、他国からの観光客からも評判だ。まあ、僕は幽閉中だから、塔の窓からほんのちょこっとしか見られないけどな!」
エッヘン! と胸を張る王子。
ああ、うん。自国の自慢をしたくなっちゃうのは分かります。日本も四季はありますし。キレイな景色は見ていて和むよね。私も桜の季節なんかは特に好き。
でも、後半のは胸張るとこじゃないでしょうよ。反応に困るっての。いい加減、慣れたけど。
ああ、でもそうか。幽閉中の塔は石造りらしいし、底冷えしちゃって寒いのが苦手……とかはありそうだ。そうなっちゃうと、なんか可哀想だから話は別。
王子の返答次第ではつい、スイッチオン☆ しちゃうかも……。
とりあえず参考になれば、と思い聞いてみれば。
「いいや? 地下のダンジョンからの隙間風に悩まされることは多いが、基本的に塔には夏涼しくて、冬暖かい、冷暖房両方に効果がある適温魔法がかかっているから凍えるほどではないな。瘴気を含むダンジョンからの風には為す術がないから、ソコだけは仕方がないんだ。それ以外では魔法のお陰で服装に関係なく塔内では季節に応じた適温状態が保たれる。まあ、留守中はどうせソレ使わないのだからいいかと思って、僕がこっちに遊びに来ている間は魔法陣への魔力補充用に適温魔法用の魔力をこっそり拝借したりしているがな。ああ、そうなると、確かに塔に帰った時に結構ひんやりはするかな。でも、物事には優先順位というものがあるから、こればかりは仕方がない」
いや、そもそも幽閉中の人間が気軽に塔を留守にするなよ。
しかも、暖房用の魔力の私的流用って……。
――そしてやっぱり魔法陣優先なのか。
ツッコミどころ満載なうえに、なんの参考にもならなかった。日本の冬と異世界の冬。そもそもの前提条件が違い過ぎる。
あーあ……そっちのエネルギーって魔力だもんね。電気代かからなくていいな。
しかも、塔にかかっている適温魔法って、何それ便利――……。
……って、あれ?
何か、そんな感じのやつ身近にあったよね? 電気代節約になりそうな――夏涼しくて、冬暖かい。冷暖房完備で着ているだけで適温状態が保たれる、謎技術満載の――――。
そうだ! 先輩に貰った、オカルト研究会特製ローブ!!
何故だか影が薄くなって人とぶつかりやすくなるっていう妙な副作用はあったけど、その効果は実証済み。それに、室内で使用する分には誰かにぶつかる危険もないですし。
それにフリーサイズのこれなら、二人で羽織ってもいけるんじゃない?
クローゼットからローブを取り出して。
試しにゲーム用の定位置に座り、いつもの二人ゲーム体勢をとって、広げたローブを王子と私の背中に羽織ってみれば――。
「やった! 適温だ」
寒くも暑くもなく――というよりは、ちょっとだけ暖かいくらいがいいな……と思った通りのその温度。しかも、3D酔い対策の都合上、ゲーム体勢で王子に引っ付いている分、更に温かい。
あー、コレいいかも。流石に二人で使うと布地が足りなくて、前が開いちゃっている分万全ではないけれど、王子と腕を組んでいるからその僅かな人肌が心地よい。相乗効果ってやつですね。まあ、その分夏はちょっと使いづらいかもしれないけど。
「いいじゃん、これなら電気代もかからないし。本格的な冬が来たら流石に暖房必須だろうけど、当分はこれでいける――って、王子? 聞いてる?」
「………………ああああ、なな、なんだ!?」
ペチペチと。組んだ王子の腕を反対側の手で叩くが反応が薄い。あれ? 適温で心地よいのは私だけだったのだろうか。
そう思って効果のほどを確かめようと王子を見上げれば。
王子は何故かコントローラーを手にしたまま、顔を真っ赤にさせて固まっていた。
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