【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆

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6 番からの解放

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 初めは身を切られるように辛かった。国を離れる際には自分の魂が引き裂かれるような喪失感を覚え引き返したくなったこともある。

 それでもリベルタを後押ししてくれた両親、それに頑張り屋の義弟のことを思い歩みを進めるうちにその苦しみからは解放された。


 新獣人国から少し離れた小国を歩いていたとき。
 急に――リベルタのヴァールへの気持ちが消えたのだ。


 落ち着いて番の顔を思い浮かべてみても特に何も感じない。ヴァールを番だと認識してからずっと彼に対して抱いていた、飢えるような渇望に苦しめられることもなくなった。

 観光中のことだったので、最初は旅先での解放感からかもしれないと半信半疑だったが、そもそも出国してから何日も立つし、既に数か国を経由している。

 どうして自国とは何の関係もないこんな他国の道端で、との疑問は残るが考えたところで答えはでない。国から遠く離れたら番への愛が消えた。分かっているのはそれだけだ。

 どうやら『番』を感知する能力には限界があるらしい――リベルタはそう判断した。


「……こんなに簡単なことだったのね」


 領民のこと。両親のこと。一向に気が付いてくれない番のこと。自らを縛るものが多すぎて、リベルタは国を出ようと考えたことすらなかった。

 しかし、こうして外の世界へと出てみればいかに自分が狭い世界で生きてきたのかが分かる。

 両親は見違えるように生き生きとしていくリベルタの手紙を楽しみにしてくれているし、努力家の義弟はまだ幼いうちから必死に家の仕事を覚えようとしてくれている。跡継ぎ問題が解決したことで進んだ事業もあるし、領民もこれで安心して生活していけることだろう。


 そして――。

 リベルタは恋をした。ヴァールと初めて顔を合わせた時のような、雷に打たれたような衝撃も、身も心も縛られるような陶酔感もないが、暖かい春の日差しのような心地よい、穏やかな愛情を感じさせてくれる相手に出会うことができた。



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