11 / 40
11 ヴァールの事情2(竜王視点)
しおりを挟むリベルタの最初のデビュタントはヴァールもよく覚えている。初々しい――まだ、子供のようなたどたどしさでどこか目が離せなかった。
獣人は種族ごとに成長に差がある。
そんな中、リベルタは数少ない竜人種だ。王族は人間の血を多く取り入れたせいで本来持っている筈の力は出せなくなってしまったが、それでも王族である竜人の寿命は500年とも言われている。実際、ヴァールの父親は560歳まで生きた。
先祖返りの彼女の寿命を測ることはできないが、少なくとも人間よりは遥かに長い事だろう。
そんなリベルタが16歳で迎えたデビュタント。遥か年上のヴァールからすると、まだまだ守るべき子供に見えてしまったのは仕方のない事だったと思う。
彼女は翌年の判別へとまわされた。
それからというもの、ヴァールはどこか義務的だったデビュタントが楽しくなった。
居るか分からない、どう判別したらいいのかも分からない、緊張感だけが強いられる番の判別作業。苦行ではあるが、判別の最後には彼女に会える。
会う度に彼女――リベルタは少しずつ大人になっていく。
それでもまだどこかに幼さを、自分が守ってやらねばという感覚が抜けきらず、いつまでたってもリベルタだけは判別することが出来なかった。結果、十年近く成人も先延ばしにすることになる。
何度も成人の儀を迎えたリベルタには既に最初のような初々しさはない。それでも見知った気やすさというか、彼女に対してのみ他とは違うものを感じていたのは確かだ。
少なくとも、周囲から浮いて明らかに場慣れしていくリベルタの変化をヴァールは毎年楽しみにしていた。
「ヴァールさまぁ。ご用事が終わったのでしたら、わたくしたちとお話しませんこと? わたくしたち、竜王陛下にお会いできるのをとても楽しみにしておりましたのよ。うふふ。ぜひ、わたくしも番にしていただきたいわぁ」
明るい、それでいてどこか誘うような令嬢たちの声に、竜王ヴァールは振り返る。
彼女達は人間国から親善の為に送りこまれてきた年頃の令嬢達だ。両親や兄弟の代理であったり、何かしら理由をつけては機会ある度に送り込まれてくる。デビュタントのときはそれが目に見えて多くなる。
あわよくば番に選ばれれば――といった目論見があるのだろうと思われるが、確かに人間の中から番が見つかることも無いとは言えない。実際、ヴァールの祖父がそうだった。
諸手を挙げて――というわけではないが、可能性が広がるならば、と新獣人国では彼女達の訪問を受け入れていた。
我こそは――とやってくる年頃の令嬢達は皆美しい。人間から神々に例えられるほどの美貌を持つとされる竜人の女性も非の打ち所がないほどに美しいが、人間の母親に育てられたヴァールにとっては寿命の短い人間ならではの命の輝きこそがこの上なくまぶしくみえる。
間違いなく大人の階段を上り始めている人間の令嬢達との交流も、ヴァールにとって心躍るものだった。
250
あなたにおすすめの小説
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜
く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた
静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。
壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。
「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」
番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。
狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の
少年リノを弟として家に連れ帰る。
天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。
夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。
私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい
鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。
家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。
そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。
いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。
そんなふうに優しくしたってダメですよ?
ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて――
……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか?
※タイトル変更しました。
旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる