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12 謎の喪失感(竜王視点)
しおりを挟むデビュタントからしばらくたったある日のこと。
ヴァールは突然妙な焦りを感じてひどく落ち着かなくなった。
何か、大切な物を失くしてしまったような――。
取り返しのつかない失敗をしてしまったような――。
どうしようもない喪失感。
遠い昔に、年老いた母が逝ってしまった日のソレに似ているように思う。
「ヴァール様? どうかなさいまして? 具合が悪いのでしたら出直しますが……」
「……っ! あ……ああ、いや、すまない。何でもない。そちらの国との人材交流の件だったな」
(いかん、いかん。今は外交の真っ最中だ。人間国とのやりとりは気を抜くと命取りになるからな)
人間国から独立をして随分経つが、やはり一度国をなくした過去は尾を引いてしまう。人間に対して苦手意識のないヴァールではあるが、外交上は別だ。
むしろ苦手意識のない分、付け込まれないように注意をしなくては――と、人間国からの使者に意識を向けると、不思議と懐かしい感じがした。
はて。どこかで会ったことがあるような――?
「すまない。覚えていないのだが、以前に顔を合わせたことはないだろうか」
「いいえ。こちらに伺うのは初めてですわ。ですが、ぜひこの目で見てみたくて志願いたしましたの。過去に、わが公爵家の者がこちらへと嫁いでいるものですから――」
「――と、いうことはもしや母上の……?」
「そうなりますわね。もっとも、人間からすると数代前になるので当然、面識はありませんが。それでも、この髪色や目の色は公爵家に代々共通するものですので、わたくしにもどこかに面影が残っているのかもしれませんわね」
「ああ、それでか――」
獣人には珍しい……ヴァールの母親と同じ、淡いピンクがかった髪の色。新緑の目はヴァールの記憶にある通りで、心なしか声まで似ている気がする。
遠い昔に失われたそれらは今では古い絵姿にしか残されていないし、声にいたっては思い出すことしかできないけれど、確かにヴァールの記憶とも一致する。
人間国との交流は、こういう発見もあるから面白い。
思いのほか人間国の使者との話は盛り上がり、積極的な交流を続けているうちにヴァールが感じていた訳の分からない焦りはキレイサッパリと消えていた。
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