39 / 40
そのときのこと 中編(オネスト視点)
しおりを挟む「ああ良かった……オネスト、目が覚めたのね?」
「うん……夢を見ていた。君と出会った、あの時の夢」
最近、オネストは物忘れが増えてきた。けれど、体が覚えている記憶は忘れないようだ。
それに、あれは人生で一番素敵な人と出会った大切な記憶だし――と、心の中で幸せをかみしめオネストは笑う。
まあ、人生で一番痛かった記憶でもあるけども。
どうやら、オネストは『また』死にかけていたようだ。歳のせいか体のあちこちにガタがきていて、体を蝕む痛みと共に最近はその回数が増えていた。
その度に変わらぬ女神に出会い、オネストは何度だって恋に落ちるのだ。
出会ったころと変わらない。若く、美しいままのリベルタ。だからつい、寝起きの頭だと記憶が混乱してしまう。
けれど、声を出せばオネストはすぐに現状を思い出すことが出来る。
自らが出すしわがれた声はあの頃とは全然違うから。
クスクスクス……。
おそらく、ずっとオネストについて看病をしてくれていたのだろう。目の下に盛大なクマを作っていたリベルタが、思わず、といった風に笑いだした。
「どうしたの?」
「ふふ……。だって、貴方ってばあの頃と全然変わっていないんだもの」
「――えっ、僕が!? いや、君なら解るけど……」
「いいえ、オネストはずっとあの頃のままよ。自分の体の方が大変なのに、貴方はいつだって私の心配を優先するの。毎回、言い回しが少し変わるだけ。間違い探しみたいで楽しいわ。それでいて優しいところは全然変わっていないんだもの。何度だって惚れ直しちゃう」
「ははは、それは嬉しいな。何回も死にかけた甲斐があるってもんだ」
「……オネスト」
「なあに? 僕の愛するリベルタ」
「あのね、今ので魔力、使い切っちゃった」
「そうか。じゃあ、今日はちょっぴり夜更かししちゃおうかな」
「それじゃあ、少し体を起こす?」
「うん。その方が少しでも長く目を開けていられるし」
――そして、少しでも長く愛するリベルタを見ていられるから。
リベルタがオネストの背中の後ろにクッションを入れてくれた。そのおかげで上半身を起こしても痛みがない。
これなら会話に集中できそうだ。
時折笑い声をあげながら思い出話に花を咲かせるオネストとリベルタ。
出会ってから。
共に生きて。幸運にも子供に恵まれて。
家族を育て。国を育てて……。
――そして、今。
オネストが眠っている間に見た夢を足すと、まるで一生分を振り返っているようだった。
実際、そうなのかもしれない。東の方の国では人は最期を迎えるときに、自分の人生を走馬灯のように振り返るらしい。
それをリベルタに伝えれば、美しい目を丸くして「貴方ってば本当に物知りね」とオネストを褒めてくれた。しかし、話題選びには失敗してしまったようだ。
柔らかく笑んではいるものの、彼女の目にはうっすらと涙が滲んでいる。ただでさえ、目の下にクマが出来るほど付きっきりでオネストの看病をしてくれていたというのに。
しかも、魔力を枯渇させるほど回復魔法を使わせてしまったのだから相当疲れている筈だ。
申し訳ないな、とは思うものの。オネストは限界まで話をしようと決めていた。リベルタも付き合ってくれるつもりのようだ。
魔力が尽きたということは、次はない。
だから恐らくはコレが最後の会話となる。
彼女は強い。そして優しい。辛いだろうに、ちゃんと誤魔化さずにオネストに伝えてくれた。
先に逝くオネストに心残りのないようにしてくれたのだ。
230
あなたにおすすめの小説
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜
く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた
静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。
壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。
「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」
番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。
狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の
少年リノを弟として家に連れ帰る。
天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。
夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。
私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい
鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。
家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。
そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。
いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。
そんなふうに優しくしたってダメですよ?
ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて――
……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか?
※タイトル変更しました。
旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる