【完結】私の番には飼い主がいる

堀 和三盆

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3 飼い主の願いを叶える私の番

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 王女様から発言を許された彼は、それまでの思いがあふれ出て止まらないかのようにお礼を伝えていた。

 流石に前世での飼い主の婚約破棄については発言を控えていたが、飼い主本人がつらい時にもかかわらず、死にかけた仔猫だった自分を助けてくれたこと、自らの食事を減らしてまで病院へと連れて行ってくれたこと、最後どうなったのかまでは覚えていないが、前世も、今もずっと感謝している、お礼を言いたかった――そんなことを涙ながらに語っていた。

 周囲も突然の感動話に聞き入っていた。お優しい王女様の話はすぐに広まった。とりわけ庶民の中で王女様は大人気になった。

 彼は前世の恩を返したいと言った。そして王女様はそれなら頑張って近衛に入って欲しいと言った。


 普通なら王女直属の近衛騎士には貴族しかなれないけれど、飼い主に仕えたい獣人となると話が違う。獣人の飼い主への忠誠はそれほど信頼されているのだ。前世から、となればなおのこと。勿論、それには剣の実力が必要となるけれど。


 王女様からそれを聞かされたヴァイスはそれから毎日剣を振るった。引退した騎士がいると聞けば教えを仰ぎ、騎士学校に庶民枠があると聞けば苦手な勉強も頑張った。

 そして見事首席で卒業し、16歳で近衛騎士となった。

 私はその彼の努力を一番近くで見ていたから、本当は――本当は王女様のことばかり気にかけるヴァイスに複雑な思いを抱いていたけれど、それは言わずにすぐそばで支え続けた。

 彼が王女様の為に努力しているのは分かっている。
 それでも――。


「近衛騎士になれば給料もいいからフルールにも楽をさせてあげられるしな」


 笑顔でそんなことを言われると、それだけで天にも昇る気持ちだったから。


 騎士団の仕事に慣れて試用期間も終わった頃、ヴァイスから一緒に暮らそうと誘われた。お互い仕事が忙しく、なかなか会えないのがツライらしい。私もそうだったので、そう言われてしまえば断る理由などない。

 私の仕事は食堂の従業員だった。体を動かすのが好きだったし、人と話すのが楽しかったから。それに混雑している昼時に大人数を捌くのはとてもやりがいがあった。でも、大事な番には家にいて欲しい――婚約者にそう言われて仕事は辞めた。

 騎士の生活は夜勤もあって不規則だから、彼を支えるにはその方が都合が良かったのもある。それに、一緒に暮らすからにはすぐに子供が出来る可能性もあるし、外で働く余裕なんてないかもしれない、そう思って彼に従った。

 だけど――。



 新居へと引っ越してすぐ、恩人である王女様が隣国の王子に婚約を破棄された。国としてはあちらの方が強いので、泣き寝入りだった。

 かなり仲が良い事で有名だったので意外だったが、隣国の王子には「仲のいい」お相手はそれこそ星の数ほどいたらしい。後になってその話が広まって、ヴァイスはとても怒っていた。


「前世でも婚約を破棄されて、今世でもこんなことになるなんて。いったい王女様が何をしたって言うんだよ……!! 女好きのクソ王子め、ぜってぇ許さねえ……!!!」


 そう言って、ボロボロ泣いて荒れていたのを覚えている。そうは言っても隣国とは国力の差が大きいし、コチラの国からは泣き寝入り以外に出来ることはない。

 ヴァイスが飼い主愛しさのあまりとんでもないことをするんじゃないかとすごく心配だったけど、それは王女様が止めて下さったらしい。

 それだけは感謝している。でも……。


「また、一から婚約者を探さなきゃ。大丈夫、まだやり直せるわ。前世の時より、ずっと若いもの。今回も、貴方が傍で支えてくれれば頑張れるわ。ふふふ。だから、ヴァイスは私より先に結婚しちゃ嫌よ」


 王女様のその一言で。
 私たちの関係は止まってしまった。



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