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4 現状
しおりを挟む王女様の新しい婚約者はなかなか決まらなかった。なまじ元婚約者との仲が良かったせいで、敬遠されてしまっているようだ。
王女様と同年代の王族のいる国は我が国と同等の小国ばかりだったから、国力の強い隣国との厄介ごとを避けたいのかもしれない。
不安定になった王女様は前世からの心のよりどころであるヴァイスをより身近に置くことで心身の健康を保っているようだった。ヴァイスもようやく前世の恩が返せると、自分の仕事にやりがいを感じている。
そして、何の進展もないまま、はや数年。王女様の適齢期が終わりに近づくにつれ、夜会だの見合いだの仕事は増えて、ヴァイスはあまり家に帰らなくなった。
婚約者であるヴァイスは今では王宮の宿舎に泊まることの方が多いくらいだ。週に一回、着替えと洗濯物を交換するのだけが彼と接する機会となっている。
でも、それでよかったのかもしれない。
家の中からは彼の匂いがどんどん消えて。虚しさから彼を思い出して泣く機会が減っていったから。
王女様が悪いわけではないのは分かっている。でも、身近に番がいながら同じく適齢期を無駄に過ごしていく自分にむなしさを覚え、どうしようもなく恨んでしまう気持ちを抑えることが出来ない。
彼女は彼の前世の命の恩人。感謝こそすれ、決して恨むべき相手ではないというのに。
彼の気配が消えていく家でじっと閉じこもっているのがいけない。そう思った私は再び食堂で働くことにした。
彼は自分が会えないのに私が自由に外で働くことに難色を示したが、正直な気持ちを話してどうにか理解をしてもらった。
私だって、彼の大事な人を恨みたくなんてない。気が紛れるなら、体を動かして働いている方がいいだろう。
それに、少しだけいいこともあった。働きだした私を心配してか、仕事の合間にヴァイスが私の働く食堂に昼食を摂りに来てくれるようになったのだ。僅かとはいえ、自分の番に会うことが出来るのは嬉しかった。
時折――お忍びとか気分転換とか言って、飼い主の王女様が一緒に来たりもしたけれど。身分を偽るためにカップルを装ったりしているけれど。
そんなときは同じ獣人である店主が気を遣って裏方の仕事に回してくれる。私は大丈夫だと言ったのだけれど、いいからいいからと、そっと二人が見えない位置に誘導してくれる。そんな気遣いが嬉しかった。
それでも。やっぱり一目でも、と思って見てしまう。せっかく周りが気を遣ってくれるのに。こんな機会でもないと会えないから。
自分の番が別の異性といるのを見るのは泣いてしまうほどにつらいけど。自分の番の姿を見られるだけで泣いてしまうほどに嬉しいから。
おかしいな。番って、幸せになるための片道切符だって、ツイているって、みんなが祝福してくれたのに。
本当に、番に出会うのは幸せなの?
他の番はどうしているの?
自分の両目が流す涙の意味が分からないほどに頭がグチャグチャになって、心がきしむ。
そんなときだった。もう一人の幼馴染である猫獣人のグレイと偶然再会をしたのは。
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