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6 飼い主を選んだ私の番
しおりを挟む近衛の制服は安全管理上、王宮出入りの業者が洗っているので、彼が持ち帰り私が洗うのは制服以外の下に着る肌着や日常着だけだ。
家の中からどんどん彼の匂いが消えていくので、この、洗濯をする時間だけが唯一といっていい、番を感じられる時間になっていた。それなのに。
ある時、その洗濯物の中に王女様の香りが混じり出した。
彼は前世からのこともあり王女様の信頼も厚い。もっとも身近で王女様を支える騎士だから、香りが移ることだってあるだろう。
実際、お忍びで私の働く食堂へやってくるときは、腕を組んで仲のいいカップルを装ってくるのだから。きっとその時に香りが付いたのだろう。
そうやって自分を騙し続けていたけれど。
彼のパジャマにまで王女様の香りが付きだして。
『ソレ』が決定的になったことで。私は家を出ることにした。
家の中からは彼の匂いが消えている。なので、彼の匂いを感じられるのは届けられた洗濯物だけ。それなのに洗濯という香りを消す作業を自らやっているのだから笑ってしまう。
しかも、それすら最近はヴァイスが持ち帰るのではなく、業者任せだった。
徐々に濃くなっていった王女様の香り。そして、パジャマに付いた香り。それだけで何があったのか知るには十分だ。
彼へと手紙を出したが返事はなかった。なので、自分で行動した。実家に戻り親を説得し、そしてヴァイスの両親にも事情を話し、婚約を解消してもらった。最初はまさかと笑って取り合ってくれなかったけれど、洗濯物を持って行ったことで分かってくれた。……直接的な証拠があって良かったわ。
まさか番を裏切るなんて。息子が申し訳ないことをした。ヴァイスの両親はそう言って慰謝料を払うと言ってくれたが断った。
だって、ヴァイスの気持ちは幼馴染だった私が一番よく知っている。番以外とは番えないはずの獣人がどうして王女様とそういうことになったのかは分からないけれど、彼にとって王女様は幼馴染である私より更に古い付き合いなのだ。
きっと、私にも知らない事情があるのだろう。
でも、こうなった以上、彼との未来はなくなった。
そして私は原因となった王女様を恨む気持ちを抑えることが出来なくなってしまった。
彼女は――王女様は彼の恩人なのに。婚約者であった私も一緒になって感謝しなくてはいけないのに。
王女様が憎くて憎くて堪らない。嫉妬のあまり自分が何をするか分からない。だから完全に彼との縁を切るつもりで婚約を解消した。
なのに――番である彼への愛が消えてくれない。
どこかで彼の飼い主に会ってしまった時に、自分を抑える自信がない。王族である彼女に危害を加えることは、番であるヴァイスを破滅させてしまうのに。
例え彼との将来が無くなってしまったとしても、番である彼に嫌われたくない。彼の邪魔になりたくない。
だから――考えて、考えて。
愛するヴァイスとヴァイスの飼い主である王女様を守るために――私は『番絶ち』をすることを決意した。
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