【完結】私の番には飼い主がいる

堀 和三盆

文字の大きさ
7 / 20

7 愛しているから――番とその飼い主の為に番絶ちを

しおりを挟む

「本当に……いいのか? もう、ヴァイスとの婚約は解消したんだろう。何もそこまでしなくても」

「ええ。でも、番であるヴァイスへの愛が消えてくれないの。彼への思いを消さない限り、我を忘れて彼の大事な飼い主へ危害を加える可能性があるわ。そして、相手は王族よ。自分と――愛するヴァイスを守るためにはコレしかないの」

「分かった……でも、本当にツライからな」

「覚悟の上よ」


 グレイは最後まで反対をしてくれたけど、王族へ危害を加える可能性があることを話せば理解をしてくれた。施設の人も同じだった。



 聞いていた通り、『番絶ち』はツライものだった。愛する番の匂いを嗅いでも嬉しいと思わないように。幸せだと思わないように。心と体に痛みを与えて決して反応をしないようにしていくのだ。

 子供の頃から大好きだった。
 彼を幸せにしてあげたかった。
 二人で幸せになりたかった。

 そんな思いを痛みで打ち消して、番を思い出しても心や体が反応しないように自分の一部を壊すのだ。


 永遠とも思える苦痛。しかし、私がソレから解放されるのは驚くほど早かった。治療に使ったのは――最後に届けられた洗濯物だ。家の中からは彼の匂いが消え去って。他に彼を思い出せるほどの匂いの付いたものがなかったから。

 大好きな彼と王女様の匂いの混じった洗濯物。

 怒りや恨みで我を忘れそうになるけれど。
 与えられる痛みで番への愛を忘れるたびに。別の痛みが消えていく。

 それで気が付いた。

 死ぬほどつらいはずの番絶ち。それと同じくらいの心の痛みを、私は日々感じていたのだと。

 半年後には番の匂いを嗅いでも心が動かなくなった。
 そして、一年後には番を思い出しても何も感じなくなった。


 穏やかな。幼馴染への親愛の情はあるけれど、成長と共にあふれ出すようになった番への愛情は消え去った。喪失感も感じない。むしろ、今までで一番の晴れやかな気分かもしれない。

 ここまで番絶ちが上手くいくのは珍しいそうだ。治療は苦しかったけれど、経験者であり、幼馴染でもあるグレイが頻繁に顔を出して支えてくれたのが大きかった。

 いつの間にか。私は番であるはずのヴァイスより、グレイの匂いに安堵を覚えるようになっていた。来てくれる日を心待ちにしていた。痛みに寄り添い、支えてくれたグレイに対して穏やかな愛情を抱くようになっていたのだ。

 彼にそのことを伝えれば、一瞬驚いた顔をしたものの、嬉しそうな顔をして笑ってくれた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

【完結】そう、番だったら別れなさい

堀 和三盆
恋愛
 ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。  しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。  そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、 『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。 「そう、番だったら別れなさい」  母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。  お母様どうして!?  何で運命の番と別れなくてはいけないの!?

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

『完結』番に捧げる愛の詩

灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。 ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。 そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。 番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。 以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。 ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。 これまでの作風とは違います。 他サイトでも掲載しています。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 7月31日完結予定

処理中です...