【完結】私の番には飼い主がいる

堀 和三盆

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19 俺の番には既に愛する人がいる(ヴァイス視点)

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「あのね、ヴァイス。私にも飼い主が居たの。ココの領主様よ。前世で命を救われて……とても大好きで。だから、ようやく貴方の気持ちが分かったわ」


 番絶ちのこと。死ぬほどつらい思いをして、それで前世の記憶を思い出したこと。フルールは隠さず話してくれた。

 番絶ち――その一言に凍り付くような衝撃を受けたけれど、それよりもフルールのひと言に希望を持たずにいられなかった。

 気持ちが分かった――彼女はそう言った。

 それなら……それなら前世に惑った、間違えた俺を許してくれるのではないだろうか。やり直せるのではないか。


「前世を思い出した後、領主様に御礼を言いに会いきたのよ。そのとき領主様からプロポーズされて――それで気が付いたの」


 もう一度……彼女と……番と……!


「大好きだけど、感謝しているけど、それは恋愛感情とは違うって。迷いはなかった。領主様には、私には既に愛する人がいるから無理ですってその場で伝えてお断りしたわ。子供達は、その愛する人との間に授かった子供よ。今は夫婦で使用人として領主様にお世話になっているの」

「愛する……人……?」

「そう。番絶ちの苦しみを支えてくれた大好きな人よ。会わせたくて、飼い主にも紹介したわ。今では領主様からのプロポーズは笑い話よ。家族で可愛がっていただいているの。私たち家族も領主様とご家族が大好きよ。でも、それは――番に対する愛とは違う」


 番の目が俺を見た。幼い頃から何度も見てきた目。見たのと同じだけの熱を返してくれた瞳。けれど、彼女からはもう、幼馴染に対しての穏やかな眼差ししか返ってこなかった。


「私、貴方には感謝しているの。愛する人を見つけて、前世の大切な飼い主とも再会できて、可愛い子供達にも恵まれた。番絶ちは苦しかったけれど、お陰で前世のことも思い出せたし、貴方と清い関係でいたお陰で番絶ちも短い期間で終わったわ」

「でも、フルール。俺は…俺は、まだ君を番だと……唯一だと――」

「番絶ちをすればその苦しみも消えるわ。大丈夫、私たちは番でも、番っていなかったのだから、貴方も最小限の苦しみで済むはずよ。大事な幼馴染の貴方を、必要以上に苦しませなくて済んで良かったわ。私は貴方が、本当に本当に大好きだったから。でも――飼い主と一線を越えた段階で、ううん、そもそも、まだ結婚をしないで欲しいという飼い主の願いを聞き入れた段階で、貴方の選択は決まっていたのよ」

「ママー! どこー? 領主様が、ママも一緒にお茶にしましょうって。あ、パパー。ママ見なかった? え、こっちから匂いがする? ホントだ。パパも一緒にママを探してよ! 早くおやつが食べたいの」
「ははは、仕方ないな。おーい、どこだ? フルール!」


 先ほどとは違う、小さな女の子の声。
 それと、男の声が一緒に近づいてくる。

 聞こえてきた声に彼女の表情が変わった。俺と話し、どこか悲痛な表情をしていた彼女のソレが、滲み出るような笑顔に変わった時。俺は自分の表情を愛しい番に見られたくなくて駆け出していた。

 後ろから愛しい番の俺を呼ぶ声がするが振り返れなかった。きっと、振り返れば現在の彼女の家族も見える。


 愛しい番が選んだ伴侶。彼女の飼い主。子供達。

 彼女を笑顔にするそれら全てが憎くて憎くて仕方がない。俺から番を奪い去り、彼女を幸せの中に捕らえる奴らを、自らの手でこの世界から消し去ってしまいたい。



 そんな醜い思いを愛する番に知られたくなかった。




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