Rasanz‼︎ーラザンツー

池代智美

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町のお医者さん

町のお医者さん4

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「あの……大福とよもぎちゃん、どっか行っちゃったんですけど……」
「ああ……まあ、少ししたらちゃんと戻ってくるから大丈夫だよ」
「そうなんですか?」
「うん。座って話でもしようか」

 僕はシェルアさんに促されるままにベンチに腰掛けた。
 風に吹かれた木々が揺れると、葉と葉が触れ合って心地よい音を奏でた。

「どうだった? レネーさん」
「え」
「怖くなかった?」

 突然聞かれたそれに僕はびっくりした。
一瞬言葉の意味がわからなくて固まったけど、僕は急いで思考を巡らせると、どうにか口に出す言葉を選んだ。

「えっと、最初はちょっと怖かったですけど……優しい人だったので……」
「良かった。あの人ぶっきらぼうだから、たまに誤解されるんだよ。子供なんか特に」
「へー、そうなんですね。でも優しかったですよ?」
「うん」

 シェルアさんは嬉しそうに笑みを浮かべた。
 僕がレネーさんを怖がっていたんじゃないかとあれから心配していたらしい。
確かにレネーさんは最初いきなりシェルアさんの顔を掴んでいたから、衝撃的ではあった。
でも診察の時は患者の僕に対して真摯に向き合ってくれたし、記憶がない事についても励ましてくれた。
だから僕にとってレネーさんは怖いお医者さんではなく、普通に良いお医者さんだった。

「義眼は入れないのかって聞かれたんですけど、断っちゃいました。なんとなく嫌で……」
「それはサンの好きにしたらいいよ。でももし気が変わったら、私に言ってね」
「ありがとうございます」
「視力は問題なかった?」
「はい。特に何も……あ」
「?」
「あ、いや、そういえばレネーさんってオッドアイだったなぁって」

 僕は最初に見たレネーさんの目の色を思い返した。
 茶色と青色のレネーさんの目は、両方綺麗な色だった。
 レネーさんに目の色で珍しいのは赤だという話を聞いたけど、僕はレネーさんのオッドアイの方が珍しいような気がした。

「あの、オッドアイって此処だと珍しくないんですか?」

 なんとなく聞いてみると、シェルアさんは僕の質問に不思議そうな顔をした。

「まあ、珍しいといえば珍しいけど……どうして?」
「レネーさんは僕の目の色が珍しいって言ったけど、僕にしたらレネーさんの方が珍しいし綺麗だなって思って」

 そう言うと、シェルアさんは目を瞬かせた後、嬉しそうに微笑んだ。

「それ、レネーさんに言ったらきっと喜ぶと思うよ」
「えぇ……? そうですかね……? 怒られません?」
「大丈夫大丈夫。前に私が言った時は怒られなかったから」
「それはシェルアさんが言ったからでは……?」

……僕みたいなよく知らない人に褒められても、レネーさんはそんなに嬉しいと思わないんじゃないだろうか。

 シェルアさんは僕の懐疑的な態度に苦笑を浮かべた。

「そんな事ないと思うけどなあ」
「でもシェルアさん、レネーさんとは付き合い長いんでしょう?」
「うん。知り合ってもう二十年は経ってるかな」
「じゃあぽっと出の僕が気安くそんな事言ったら気を悪くしますよ」
「えー……?」

 首を傾げるシェルアさんに、今度は僕が苦笑する番だった。
 シェルアさんは変わらず不思議そうな顔をしている。
 きっとシェルアさんが僕にこうやって言うのは、レネーさんという人間を誤解してほしくないからだろう。
 案外シェルアさんは心配性なのかもしれない。

「レネーさんが優しいのはもうわかってるので、心配しなくても大丈夫ですよ」
「うーん……そういうつもりで言ったんじゃないんだけど……まあいいか」
「?」
「ふふ。こっちの話」

 僕は首を傾げた。
 笑うシェルアさんはほんの少し寂しそうに見えて、僕は少し動揺した。

「記憶はサンのペースで取り戻していこうね」
「っ、はい」

 何か言おうと思ったのに気の利いた言葉が出てこなくて、結局返事をするだけで会話が終わってしまった。
 タタタと軽やかな足音が二つ近付いてきて、僕達の前で止まる。

「アンッ」
「ワンワンッ」
「ん? 何か見つけた?」
「ワウッ」

 大福とよもぎちゃんがあっちに行こうとでも言うように、前足で地面を叩いた。
 シェルアさんはベンチから立ち上がると、大福とよもぎちゃんについて行く。
僕も一緒について行くと、しばらくして二匹が立ち止まった。

「アンッアンッ」
「ここ?」

 大福とよもぎちゃんが連れてきたのは、シロツメクサの花が咲いている原っぱだった。 
 くるくると大福が目を回しそうなくらい回って、元気よく吠える。 
 じっと目を凝らしてその場所をよく見てみると、大福の足元に四つ葉のクローバーがあった。

「あ、四つ葉のクローバー」
「ワン!」
「もしかしてこれのために?」
「ワフッ!」

 僕は得意げにする大福を撫でると、見つけた四つ葉のクローバーを摘み取った。
 確か四つ葉のクローバーには見つけると幸福がやって来るという言い伝えがあったはずだ。
 でも最初に見つけたのは大福とよもぎちゃんだから、ひとまず僕は大福にさっき摘んだ四つ葉のクローバーを差し出した。

「はい、大福」
「ワフ?」

 大福は何故と言わんばかりに首を傾げた。
 振り返ってよもぎちゃんの方を見てみると、シェルアさんに大人しく撫でられている。
 よもぎちゃんに四つ葉のクローバーを差し出すと、怪訝そうにされてしまった。

「よ、よもぎちゃん……」
「フン」
「えええ……じゃあシェルアさんに?」
「うん? サンが貰っていいんだよ。私も前に、貰った事あるからさ」

 シェルアさんがそう言うと、大福が満足そうな顔をして僕の手に鼻を突っ込んできた。
 当たる鼻息がくすぐったくて、僕は大福の頭を撫でる。
 僕は初めての贈り物に胸がじんわり温かくなるのを感じた。

「ありがとう」
「ワウッ!」

 御礼を言うと大福に即答された。
大福がどういたしましての意味で返事をしたのかは大福にしかわからない。
それでも大福の得意げな顔を見ていたら、意味なんて何でもいいかと思えた。
 僕は四つ葉のクローバーを失くさないようにスマホケースに挟むと、大福を目一杯両手で撫で回した。
 大福は嬉しそうに尻尾を振りながら原っぱに寝そべる。

——幸せって、きっとこういう事を言うんだろうな。

 そんな事を、僕は思った。
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