Rasanz‼︎ーラザンツー

池代智美

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凡人か才人か side

凡人か才人か side:ルイス

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 どうもサンはこの短時間で、幽霊らしき人物に出会ったらしい。
 たまにそういう話は聞くと言うと、たとえばと聞かれたため、ポルターガイスト現象を挙げた。
 都市伝説があるという話をすると、サンは本当にあるのかと驚いた顔をした。
 地上にはないのかと聞くと、ないと断言されたが、サンはどこか楽しげだった。
 オカルトというよりは非日常感が好きなようだ。
 実際体験したい訳ではないと必死に訂正するサンに、俺は思わず笑ってしまった。
 妖精や吸血鬼の話題を出すと、サンはまた驚いていた。
 存在の真偽は定かではないが、そういう存在がいると信じられているくらいだから、今更幽霊の一人や二人いてもおかしくはないだろう。
 出会った女の子が本当に幽霊だとすると、サンに霊感があるという事になる。
それを指摘するとサンは怖がっていた。
ホラーは得意ではないらしい。

「悪い悪い、そんな怖がると思ってなくて」

 謝るとサンは最下層の都市伝説を聞いてきた。
 最下層の都市伝説は他の階よりも圧倒的に数が多い。
 多くを教えるより最新の奴を教えた方がわかりやすいだろうと、Nの子の都市伝説を話した。
するとサンはその子の名前を二、三度聞き返した。
 沈黙の後、サンはゆっくり口を開くとさっきその子と話したと爆弾発言をした。
 耳を疑って聞き返したが、どうやらマジらしい。
 サンはわかりやすく焦ると、スマホで情報収集を始めた。
 ネットの情報に踊らされるなと言うと、真剣に焦っているのだと切羽詰まった顔で返事をされたため、とりあえず落ち着くように声をかけた。

 スマホを操作して、信憑性の高そうな情報を検索する。
 中には誇張されたものもあったが、Nに会うと一週間以内に厄災が降りかかるというのが一番有力な情報だった。
 怖がるサンを自分が守るからと励ますと、サンは潤んだ目で御礼を言ってきた。
よほど都市伝説が怖いようだ。  
ついでに俺はシェルアさんと姉貴に泊まりの許可を貰うと、サンにゲームをしようと約束した。



 あれから日が経った。
 今の時点でサン自身の異変はないし、Nという名前の子が接触してくる様子もない。
 ブラッドさんからは過保護すぎてキモイと言われたが、一緒にいてサンの命を守れるならそれでいいと思っている。
そして今日が七日目の災厄の最終日だ。
きっとNという子は都市伝説を知った上でサンをからかったのだろう。
そう考えた方が納得がいった。

 いつも通りに朝食を摂って、職場に行って、仕事をした。
 シェルアさんに午後は何もないから先に帰ってていいよと言われて、サンと一緒に事務所を出る。

「腹減ったから何処かのレストランで食べようぜ」
「いいですね」

 何処にしようか考えていると、脈絡なくホテルのスイーツビュッフェのチケットを見せられた。
 ただのスイーツビュッフェではない、五つ星高級ホテルのだ。
 俺は思わずチケットを二度見した。
 こんな物どうしたと聞くと、サンはエッシさんの友達から貰ったと言う。
 五つ星のホテルだと教えると、サンは初めて知ったような反応をして驚いていた。
 エッシさんの友達は此処で働いているからとチケットを普通にくれたそうで、今度はこっちが驚かされた。
 レア物のチケットをまじまじ見ていると、ふと有効期限の日付が明日になっているのに気付く。
 今から行こうと言うと、サンはドレスコードを気にしていた。
 
「あー、ランチはディナーよりも敷居が低くなるから、少し綺麗めの格好していけば大丈夫だぞ」
「そうなんですか……?」

 不安なのかサンは眉を下げていた。
 服を選ぶのにあまり時間はかけられないため、俺は途中で適当な店に入って、無難な色のジャケットをサンに選んだ。
 店員にタグを切って貰うのを頼んで購入すると、サンがあまりに気にしていますという顔をしていて笑ってしまった。
そんなに気にしなくていいのに律儀な奴だ。
 もっと図太い方が生きやすいだろう。
 頭を撫でながら真面目だと褒めると、自分なんて“普通”だとサンは言った。
そんなひねくれるなと返事をして、荷物を持とうとするサンの手を避ける。
自分で持つというサンの手をもう一度避けると、次は両手を使って手を伸ばしてきた。
 俺は更に手を高く挙げた。
するとサンが珍しく、少し不機嫌そうにからかっているのかと俺に問いかけた。
 流石にバレたようだ。
 謝って持っていた荷物を渡すと、サンは何でもないようにそれを受け取って、俺の隣を歩いた。

 しばらくして目的地であるホテルに着いた。
雑談で最下層は一時期最高層の建造物を誰が建てるか競い合っていた事を教えると、中に入って一回の受付でチケットを見せてエレベーターに乗った。
 隣にいるサンを盗み見ると、そわそわした様子で外の景色を眺めていた。
 五十階に着くと店内がピンクと白を基調とした可愛らしいもので若干自分が場違いな気がしたが、目的はスイーツビュッフェのため気にしない事にした。
 俺は早速大皿を手に取って、ショーケースに並ぶケーキを端から一つずつ取った。
 サンに決めるのが早いと言われたが、そんな事はないと思う。
 全部食べる気でいると言うと、サンはかなり驚いていた。
 小さいサイズだからいけるだろと返事をすると、今度は心配されたため、吐くまで食べないからと言っておいた。
 ケーキを綺麗に大皿に並べていくと、サンに甘党の話題を振られて、チョコレートが特に好きと答える。
 薬物並みに中毒性があると言うと、サンは言い方がよくないとツッコミを入れた。
いつも遠慮しがちなサンの素を見れた気がして嬉しかった。
 俺は飲み物にカフェラテを選んで、サンとテラス席へと移動した。

「ビル風吹くけど、一応そういう対策もしてあるからな」
「へー、そうなんですね」

 端のテーブル席に座ると、俺はカフェラテを飲んで、早速一口サイズのケーキを口にした。
 シフォンケーキは流石五つ星といった感じで、ふわふわした軽い食感だった。
 モンブランもベイクドチーズケーキも、どれも一級品の美味しさである。
 美味いと自然と言葉が溢れた。
 サンはエッシさんの友達のソレーヌさんに御礼を言わないとと話した。
 連絡先を知っているのか聞くと、エッシさんに伝言を頼むらしい。
 知っているかと思ったと言うと、自分の印象はどうなっているんだとサンが真顔で返事をした。
 ムースケーキにタルトタタン、フルーツタルトと味わっていく。
 優しいからモテるだろと言うと、サンは俺の方がモテると言ってきた。

——それはない。

 休みの日に姉貴に出かけて来いと怒られた話をすると、サンは姉貴でも怒る事があるのかとそっちに関心を向けた。
 姉貴が怒る理由なんか未だによくわからない。
 健康のために外で遊んでほしかったんじゃないかと適当な返事をすると、何故か鬼ごっこを例に出された。
 俺は何歳児だと目を細めて突っ込むと、サンは笑っていた。
 楽しみにしていたガトーショコラを口にする。
 語彙が消えるレベルの美味しさだったため、しばらく無言になっていた。

 姉貴には好きな子はいないのか聞かれると愚痴混じりに話すと、サンは彼女をつくらないのかと聞いてきた。
 俺より姉貴が彼氏をつくる方が先である。
 オレンジタルトを食べながら、そもそもサンはどうなんだと何の気なしに同じ質問を返すと、記憶を取り戻すのが先だと言われてしまった。
 俺は自分のした発言を後悔した。
一緒にいて楽しいから、サンが記憶喪失である事を失念していた。
 すぐ謝罪すると、サンは必死な様子で首を横に振って大丈夫だと言った。優しい奴だ。
 反省ついでにケーキを取りに行くと言って、俺は席を立った。
 振り返るとサンはクレープを美味しそうに頬張っていて、変わった様子は見られなかった。
 
 席を離れてわずか五分ほど。
 大皿に二回目のケーキを並べて席に戻ろうとすると、見知らぬ女の子がサンの近くにいた。
 問題はその子のいる場所だった。
 女の子は器用にもフェンスの上に立っていて、そして落下した。
 落ちるその子を助けようと、サンが女の子の手を掴む。
 俺は持っていた大皿を近くのテーブルに置いてサンの元へ急いだ。
 落ちる身体を掴まえようと、身を乗り出して手を伸ばす。
 腕を掴んで引っ張り上げると、その勢いのまま俺の胸に引き寄せた。
 のしかかる重さが生きている事を証明していた。
 小さく息を吐き出すと、俺はサンに大丈夫かと声をかけた。
 なかなか答えない様子に、名前を呼ぶ。
 体調を悪くしたかと心配したが、俺の手を握って何か伝えようとするサンに単純に声が出ないだけかと察して、落ち着くまで背中をさすった。
 だんだんとサンの息が整ってくる。
 立てるか聞くと、腰が抜けたと言われて自然と溜息が漏れ出た。

——どう考えても目を離した俺の責任だ。

 怖い思いをさせて悪かったと謝ると、サンは俺のせいじゃなくて自分のせいだと言った。
 守ると言ったのにこの体たらくではどうしようもない。
 フラフラと立ち上がるサンの身体を支えて椅子に座らせると、周りにいた奴らが大丈夫かと声をかけてきた。
 サンは苦笑いを浮かべている。
 俺は周りの奴らに適当に返事をすると、もう一度大丈夫かサンに聞いた。
 サンは大丈夫だと答えていたが、どう見ても大丈夫には見えなかった。
 心配させたくないからか、シェルアさん達には伝えないでくれと言う始末だ。
気持ちはわからないでもないが、それに関しては無理だった。
 以前の殺人鬼のダチュラの件もある上、今回は都市伝説である。
偶然にしては出来すぎているし、もしかしたらサンはそういう体質なのかもしれなかった。
 無事だったからと言うサンに現実を突きつけると、ダメージを受けて唸り声を上げた。

 帰ってシェルアさんと姉貴に報告すると、予想通りの反応で二人はサンを心配していた。
 姉貴の方がサンに子供用ハーネスを着けたらどうかと言っていて、流石にやりすぎだから却下した。
 俺は次こそはサンを守ろうと、自分の中でひっそり誓いを立てた。
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