83 / 133
未解決事件
未解決事件2
しおりを挟むあの事件での明らかな証拠は姉が性的暴行を受けた事と、姉の胸部を貫いた弾丸がスナイパーライフル用の物だった事だ。
事件を調べていく内に、婚約者の彼が自殺のために使用した弾丸がスナイパーライフル用だった事が判明した。
——ここで彼が、本当に自殺だったのかという疑問が生じた。
何故彼はハンドガンではなくわざわざライフルを選んだのだろう。
弾丸は頭部を貫いていた。普通自殺するとなれば、銃口を咥えて上向きに撃つか、こめかみに向けて撃つのが一般的である。
自分の後頭部を撃って死んでいるのはおかしな点だ。
自殺ではなく他殺の線が私の中で濃くなった。
最愛の人を殺されて正気でいられる訳がない、彼女を守り切れなかった後悔で自殺したんだと周りの人は言っていた。中には姉さんを殺したのは彼だと言う人もいた。自分の罪の重さに耐えられなくなって自殺したんだろう——、と。
義兄さんは正義感が強くて優しい人だった。
そんな義兄さんが愛する姉さんを殺す訳がない。
そもそもあの日姉がIN区からPK区に行った理由も友人に会うためとなっていたが、本当に姉は友人に会うのが目的だったのだろうか。
私は姉の交友関係を全て把握している訳じゃないから、その辺りは詳しくわからない。でも姉の交友関係はそんなに広くなかったはずだ。
そうなってくると、全てが疑わしく思えてきた。
姉の友人も容疑者の候補に入れておいた方が賢明だろう。
私は休日を丸々調査に費やした。
事件の資料の閲覧を申請したいが、余計な勘繰りを受けては今後動きにくくなる。
パソコンの画面ばかり見ていたせいで、頭が痛くなった。
♢
翌日は外仕事で、SE区で聞き込みの調査だった。
目撃者は複数人存在しているが、辻褄が合わないから本部の力を借りたいとの事だった。
出来れば事件が起きた区内で解決してほしいところだ。
だが大犯罪ともなると区を跨いで犯罪を犯す人間がいるから、ある意味ではこれが本部の宿命なのかもしれない。
とりあえず今の私が思うのは警察組織の人員を補充をしてほしい、だった。
私は自然と口から溜息が漏れた。
聞き込み調査を続けていると、犯人が変装していた事が発覚した。
どうやら整形はまだしていないらしく、精巧な変装マスクを着用していたようだ。
まるで何処かで聞いた怪盗みたいである。
窃盗は私の担当ではないから詳細は知らないが、最下層の怪盗は義賊的な者とそうでない者に分かれると同僚は言っていた。
それは最下層の殺人犯も同じで、無差別に人を殺す者と悪人を選んで殺す者が存在する。
勿論悪人を殺したからといって殺人が罪にならない訳ではないが、民衆にその殺人犯がヒーローとして扱われた事例があるため侮れないのだ。
期待や憧れは過ぎればそれは信仰になって、殺人犯に手を貸す民間人も出てくる。そうなると捜査も難航する。
現時点でそういう人物を例に挙げるとするなら、男性だけを殺害するダチュラだろうか。
彼女は女性に酷い仕打ちをした男性を惨たらしく殺して回っている上、殺した後男性の顔の皮膚を剥いだり身体の一部を持ち帰ったりしている。おまけに彼女はどういう訳かSNSに自撮りを上げているのだ。
居場所の特定さえすれば捕まえられるはずなのに、未だに警察が彼女を野放しにしているのは、彼女よりも凶悪な犯罪者が最下層に存在するからである。
正直、連日の資料を見るだけで既にお腹いっぱいだった。
幸いにして今回の犯人は変装だけという事で、私は鑑識チームに変装している犯人の顔写真を十数枚送った。
五分ほど経つと、顔認識ソフトで作成された犯人像が数枚送られてきた。
全てがあてになる訳ではないが、何もないよりはマシだ。
私は聞き込み調査を再開した。
すると一時間ほどで、大きな進展があった。
FR区で今回の事件の犯人を同僚が捕まえたらしい。
しかしこの後、同僚の捕まえた犯人が主犯ではなく共犯である事と、また共犯者が複数人いる事が判明した。
取調べでは主犯の男に指示されて偽装工作を手伝っていたと自供したそうだ。
胸糞悪いのは、立場の弱い子供を共犯に利用した点である。
共犯者である子供は所謂貧困層の子供で、その日食べる物があるかもわからない状況下に置かれていた。
対して主犯の男はそれなりに裕福らしく、子供達にお金を渡す代わりに、遺体の処理や目撃証言のデマを広めるよう指示していたとの事だった。
——こんな最低な奴、皆死んじゃえばいいのに。
警察官として思ってはいけない事だが、ついそんな事を思ってしまった。
だってこの男がいなければ、被害者も子供達も傷付く事はなかったのだ。
私は引き続き聞き込み調査をして、主犯である男の手がかりを探した。
犯人が逃げそうな場所を色々考えていると、いつの間にか行き止まりまで歩いていた。
後ろを振り返って来た道を戻る。
大通りに出ると、子供連れの母親に男二人が絡んでいた。
「いいからこっちに来い!」
「やめてください!」
「っママいじめないでよ! バカぁ!」
女の子が男の足を叩く。
小さい子のした事だからそんなに痛みはないだろう。
だが男は腹を立てたらしく、顔を赤くしながら喚き散らした。
「——っの、クソガキがぁ!!」
「うるさいわね」
——いちいち事件増やすんじゃないわよ。
私は心の中でそう毒づくと、男の腕を思い切り捻り上げて身体を地面に転がしてやった。
ぎゃあぎゃあ騒いでいるもう一人の男には、足を振り上げて金的をお見舞いする。
蹴った感触が気持ち悪かったが、もんどり打って倒れたからいい気味だった。そのまま不能になればいい。
暴行罪で逮捕するため、私はパトカーを要請した。
三分も経たない内にパトカーが来て、さっきの男二人を警官が連行していった。
「あの、ありがとうございました……!」
「ありがとおねーさん!!」
「あ、いえ……市民の平和を守るのは当然ですから」
御礼を言う母親と女の子は目元がよく似ていた。
女の子は私の側に駆け寄ると、緩く手を引っ張った。
「ねえねえ! おねーさんつよいね!」
「まあ警察官だからね」
「わたしもケーサツカンになったらおねーさんみたいになれる?」
大きな目をキラキラさせてこちらを見上げる女の子に、私は返す言葉に迷った。
「……あなたは私みたいにならなくても充分素敵よ」
「えーでもわたしおねーさんみたいにかっこよくなりたい!」
「うーん……そうねぇ……大人になったらなれるわ。きっとその時は今の私よりずっと強くなってるはずよ」
「ほんと?」
「本当」
「わかった! わたしがんばる!」
意気込む女の子に、母親の彼女は笑みを浮かべた。
女の子ははしゃいでいるのか、母親と繋いだ手を揺らしている。
微笑ましくてじっと見ていると、母親が眉を下げた。
「すみません、この子ったらはしゃいじゃって……」
「いえ。可愛いお子さんですね」
「えへへー」
嬉しそうに笑う女の子は可愛い。
私はその子の頭を撫でると、二人に敬礼した。
「では、私はこれで失礼致します」
「ありがとうございました。お気をつけて」
「またねおねーちゃん!」
手を振る女の子に小さく手を振り返すと、私は踵を返した。
高揚感を抑えるために深呼吸を二、三度繰り返す。
子供に憧れられたのは初めてだった。
……大人として、上手く対応出来ていただろうか。
色々反省点はあったかもしれないが、それ以上に私は嬉しさを感じていた。
感謝されるのは稀で、罵声を浴びる方が多かった。
でもこうして感謝の言葉を受けると、悪い気はしなかった。
私は調査を続けて、主犯の男の手がかりとなる情報を本部に送った。
そうして四日後、主犯者である男は逮捕された。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
色色奇譚
南 鈴紀
キャラ文芸
この世界は緩やかに滅びの一途を辿っている。
真白ノ国の姫にして当代最強の再生の力を有して生まれた天音は、その力の特性と複雑な出生から周囲からは疎まれ、冷遇されている。それでも彼女は笑顔を失わず、いつか贄となり消えるという自身の宿命を真っ直ぐに受け入れていた。
姫と守り人という主従でありながら、友人でもあり、幼なじみでもある黎夜と共に支え合いながら狭い世界で穏やかな日々を過ごしていたが、ついにその日が訪れる。
黎夜との出会いにより、錆びて歪んだ運命の歯車が軋んだ音を立てて回り出していたとも知らずに……。
この出会いは運命であり必然だった。色が織り成す和風恋愛ファンタジー。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる