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協力要請 side
協力要請 side:エッシ
しおりを挟む金曜日の正午。
皆で昼食を摂っていると、ロジェさんがシェルアさんに手紙を渡して、何やら二人で話し込んでいた。
マリアさんが何かあったのか聞くと、スマーニャさんは警察に潜入捜査の依頼をされたと答えた。
ただその頭数にサンくんも入っているみたいで、上司二人の反応は微妙だった。
あたしは特に驚きはしなかったけど、ルイスくんはサンくんを連れて行きたくないようで、スマーニャさんに一緒に連れていく理由を聞いていた。
スマーニャさんは被害者に若い子が多いから警察がそう判断したと話すと、ルイスくんに手紙を渡した。
手紙は確かに協力を要請するもので、社交パーティーに行った十六名の若い子達が行方不明になっていて、いずれも違法薬物と人身売買の取引に関わった可能性があると書いてあった。
主催者が怪しいと言うマリアさんに同意して、あたしはそいつのいい噂がないと話した。
ブラッドもあたしとマリアさんと同意見らしく、金持ちは皆裏があると吐き捨てるように言った。
だけどブラッドは次に、サンくんにこの作戦に参加するのか聞いた。
てっきり足手纏いになるから置いていこうと奴が提言すると思っていたあたしは、かなりビックリした。
それはサンくんも同じみたいで、呆気に取られて言葉を失くしていた。
ルイスくんは当然のようにサンくんは危ないから不参加だと言ったけど、ブラッドはサンくんが決める事だと突っぱねた。
今日は珍しくルイスくんの方が怒っているようだ。
あたしは喧嘩を始めそうな二人の間に割って入ると、サンくんが困っているから言い争いをやめるよう言った。
マリアさんもルイスくんに落ち着くように注意していたけど、反省の色無しだった。
ルイスくんはブラッドに溜息をついている。
それでもブラッドは、サンくんは自分の意思があるんだから自分の事は自分で決めさせろと尤もらしい事を言って、スマーニャさんを頷かせた。
あたしはまさかスマーニャさんがサンくんを連れて行くのに賛成するとは思えなかった。
サンくんに穏やかに問いかけるスマーニャさんの声からは本音が読み取れない。
スマーニャさんは不参加なら自分の友人の所にいて貰うと言っていたけど、サンくんは参加したいと声を上げた。
自分が役に立てるならたとえ危険でもやりたいらしい。
サンくんは恥ずかしそうに下を向いた。
するとシェルアさんが無理はしないという条件でサンくんに同行の許可を出した。
スマーニャさんも適当にパーティーを楽しんでればいいとサンくんにフォローを入れる。
……この短期間でスマーニャさんの笑顔を引き出したサンくんは何者なんだろう。
あたしは考えても仕方のない事を考えると、自分に向けられた事のないスマーニャさんの笑顔に少しモヤモヤした。
マリアさんは素直にサンくんが一緒に行ける事を喜んでいたけど、ルイスくんはやっぱり危ないと不満を言っていた。
ブラッドが過保護だとルイスくんに突っかかる。
あたしが注意すると、ブラッドは子供みたいにそっぽを向いた。
サンくんは気にしなくていいのに、二人が言い合っているのを自分のせいだと思ったようで、あたし達に謝った。
それを空気の読めないブラッドがまた馬鹿正直に何でとサンくんに聞くから、あたしは言い方を咎めた。
シェルアさんがブラッドの名前を呼ぶ。
名前を呼ばれると奴はすぐに態度を改めた。
ブラッドはシェルアさんに報告書の訂正と、スマーニャさんに乱闘騒ぎの反省文を書くよう言われていた。
一方でルイスくんは悠々と仕事を終わらせている。
ブラッドの背中を叩くと文句を言われたけど、上司二人からの命令だからか、ブラッドは黙って棚からノートパソコンを取り出すと作業を始めた。
でもルイスくんに煽られると、秒で言い返していた。馬鹿だ。
しかし馬鹿はシェルアさんに追加の報告書の訂正を指摘されると、態度を一変させて謝罪した。馬鹿の極みである。
つい本音をこぼすとマリアさんには叱られたけど、あたしは本当の事だと言って、サンくんにこんな大人にならないように注意を促した。
♢
今回は違法薬物、人身売買の証拠を掴む事が目的だ。
パーティーにはドレスコードがあるため、あたしはこの間一目惚れして買った紫のドレスを着た。
たまには“可愛い”から脱却して、大人っぽい自分になりたかったのだ。
行きも帰りもスマーニャさんが会社の車を運転してくれるそうで、家まで迎えに来てくれるらしい。
それだけでもう緊張するのに、スマーニャさんはマンションの駐車場に車を停めたからゆっくりおいでとあたしに連絡をくれた。
急いで駐車場に向かうと、スマーニャさんは車の側で煙草を吸っていた。
スマーニャさんはあたしに気が付くと、煙草の火を消して助手席のドアを開けた。
「はい、どうぞ」
「……」
「?」
「えっ、いや、ここ、シェルアさんが座るんじゃ……?」
しどろもどろになりながら言うと、スマーニャさんは目を瞬かせて不思議そうな顔をした。
「別に決まってはないよ。シェルアがここに座るのが多いってだけで」
「そ、うなんですか……」
「……あー……もしかして、僕の隣は嫌だった?」
「や!! そんな事ないです!!! 乗ります!」
食い気味に否定するとスマーニャさんは驚いた後、苦笑いを浮かべた。
——最悪だ。
せっかく気遣ってくれたのに、変な態度を取ってしまった。時間を巻き戻したい。
あたしは自分の言動に後悔しながら、とにかく違うと弁明して助手席に乗り込むとシートベルトを閉めた。
スマーニャさんは優しくドアを閉めると、運転席へと回った。
「シートベルトは締めた?」
「あ、はい!」
「ん。じゃあ出発するよ」
スマーニャさんは慣れた手つきでエンジンをかけると、車を発進させた。
ハンドルを握る手が大きくてドキドキしたけど、あんまりじっと見るのも失礼な気がして視線を逸らす。
何か話さなきゃと思えば思うほど、言葉は出て来なかった。
「ドレス、いい色だね」
「へっ? ぁ、ありがとうございます……」
「でも珍しいね。前は黄色とか水色とかだっただろう?」
「そっ……うですね! 今日はちょっと変えてみました!」
「うん。似合ってるよ」
スマーニャさんのその一言で、あたしは飛び上がりそうなくらい嬉しくなった。
何でも出来て、立ち振る舞いもスマートで、あたしが欲しい言葉をくれる。
スマーニャさんはあたしの理想の男性だ。
それから他愛ない話をしつつ、ブラッドの家に向かった。
ブラッドは珍しく遅刻しないでアパートの前で待っていて、スマーニャさんに褒められていた。
だけどブラッドは興味無さそうな返事をすると、挙句の果てに欠伸をしていた。
寝不足なのか、ブラッドはあたしとスマーニャさんの会話に全然入らなかった。
シェルアさんの家の前に着くと、マリアさん達が一斉に車に乗った。
マリアさんは赤のドレス、シェルアさんは黒のドレスを着ていて、あたしは二人の大人っぽさを羨ましく思った。
マリアさんは自然な感じで、ロジェさんの髪型が違う事を話している。
大福とよもぎが吠えると、シェルアさんは犬もビュッフェ形式かとボケて、ロジェさんにツッコミを入れられていた。
ルイスくんが動物同伴のパーティーはあまり話に聞かないと言うと、すかさずブラッドが最近は流行っていると口を挟んだ。
マリアさんはセルフなら大福が食べすぎないようにしないととしみじみししている。
想像が容易くて、私達は揃って納得の声を上げた。
仕切り直しにスマーニャさんが連絡事項を伝達する。
ブラッドに器物の損壊は避けるよう注意していたけど、ブラッドは適当な返事をするだけであまり話を聞いていないみたいだった。
……もしスマーニャさんに迷惑かけたら、とっちめてやる。
パーティー会場近くの駐車場に着くと、スマーニャさんはルイスくんに後ろの荷物を取って配るよう指示した。
今回は仮面を着けるらしい。でも大福とよもぎに着けるのは、やりすぎなんじゃないかと思った。
車を降りるとサンくんの顔が強張っていたため、あたしはサンくんに声をかけた。
足元にやって来たよもぎを撫でていると、サンくんは突拍子もなくあたしのドレスの色について言及した。
あたしはビックリして適当な返事をしたけど、サンくんは似合っていると褒めてくれた。
きっとサンくんからしたら何でもない事なのだろう。
でもあたしにしたら好きな人がバレているんじゃないかとヒヤヒヤした。
いつもこんな感じだと誤魔化すと、サンくんはそうなんですかと素直に納得した様子だった。
ブラッドが横から含みを持たせた言い方で突っかかってきて、あたしはむかついて足を蹴ってやった。
避けられて更にイラついたけど、シェルアさんにネクタイが曲がっているのを注意されて慌てているブラッドを見たら胸がすいた。
スマーニャさんに聞こえないようにブラッドを馬鹿と罵る。
奴はうるさいと言い返してきたけど、それ以上言ってくる事はなかった。
大福がシェルアさんのいる所に走ると、意外にもブラッドは何かあったら呼べとサンくんに優しい言葉をかけた。
あたしもサンくんに遠慮しなくていいからねと助言する。
マリアさんも皆いるからとサンくんを励ましていたけど、ルイスくんに何かある前提かとツッコミを入れられていた。
サンくんは御礼を言うと、皆の役に立てるように頑張ると握り拳を作った。
それが可愛らしくて、あたしとマリアさんはつい笑ってしまった。
上司二人の話が終わると、二人はおおまかな今日の流れを説明して、チームメンバーの名前を呼んだ。
あたしはスマーニャさんとルイスくん、サンくん、よもぎのチームだった。
先に行くシェルアさん達を見送ると、スマーニャさんはサンくんにお酒が飲めるか尋ねた。
サンくんは飲めたようなと曖昧な返事をした。
やめた方がいいと直感で言うと、ルイスくんも同意見だった。
サンくんは驚いていたけど、スマーニャさんにジュースにしておきなさいと言われると、素直にわかりましたと頷いた。いい子である。
スマーニャさんはサンくんに拳銃の所持を確認すると、何かあれば連絡するようにと言って先頭を歩いた。
よもぎは歩きたくないみたいで、その場から動こうとしなかったため、あたしが抱える事にした。
不機嫌さを隠そうとしない、よもぎの素直さはある意味羨ましい所でもあった。
会場に着くと、スマーニャさんは受付を済ませてさっさと行ってしまった。
仕事が速い人だから今回も情報収集に色んな人に声をかけるのだろう。
仕方のない事だけど、綺麗な女の人達と話すスマーニャさんの姿は見たくなくて、あたしは人混みに紛れそうになるルイスくんとサンくんの後ろ姿を追いかけた。
「アン!」
「よもぎ? あっち行きたいの?」
「フンッ」
よもぎは鼻を鳴らすと、あたしをじっと見上げた。
——サンくんの護衛をと思っていたけど、ルイスくんがいるなら少しくらい離れてもいいかな。
あたしはルイスくんに断りを入れると、よもぎを連れて大福を探した。
途中で何人かと話したけど、大福の情報は得られなくて、あたしとよもぎは休憩して飲み物を飲んだ。
すると人混みに紛れてマリアさんと大福の後ろ姿を見つけた。
人混みを掻き分けながらマリアさんの名前を呼ぶ。
よもぎに大福がいた事を教えて床に下ろすと、よもぎはまだ不機嫌そうな顔をしていた。
もっとよもぎを励ましてと大福を応援すると、大福はよもぎの鼻と自分の鼻をくっつけていた。
マリアさんがテーブルのドッグフードをよもぎにあげると、よもぎは匂いを嗅いですぐに食べ始めた。
どうやらお腹を空かせていたらしい。
あたしは気付かなかった事に少しだけ凹んだ。
マリアさんは大福に会えたのも一つの理由だと言うと、行きの車内はどうだったと聞いてきた。
あたしは質問の意味がわからなくて慌てて答えを返した。スマーニャさんとあたしの間に何かある訳ないのだ。
マリアさんはあたしが助手席に座っていたから勘違いしたらしい。
「あれはスマーニャさんが助手席にエスコートしたからですよ! 流石に断れないじゃないですか!」
「あら、そうなんですね」
マリアさんは相槌を打つと、二人きりになれて良かったですねと呑気に笑った。
あたしはしばらく情報交換も兼ねてマリアさんと話した。
スマホが震えてスマーニャさん達の連絡を知らせる。
見てみると内容があたしとマリアさんに会場の照明を落としてほしいというものだった。
人員配置図やその他の情報がいくつか送られている。
さっそく返信しようとすると、急に会場の電気が消えた。
子供が泣く声がする。
目をこらして動こうとしたけど、マリアさんに腕を掴まれた。
再び電気がつくと、よもぎはいるのに大福だけがいなくなっていて、あたしは血の気が引いた。
どうしようと言うと、マリアさんは任務に戻りましょうと冷静な言葉を返した。
仮に大福が誘拐されたとしても相棒のよもぎがいるからと言う。
あたしはその言葉に冷静になって思い直すと、よもぎに大福の場所がわかるか聞いた。
よもぎは勿論と言わんばかりに元気よく鳴いた。
あたしは返信出来なかったメッセージに了解と言葉を返すと、パーティー会場を抜け出した。
マリアさんと分かれてよもぎと一緒に地下へ行くと、よもぎは足を止めた後、急に右に曲がった。
よもぎと一緒になって柱の陰に隠れると、屈強なガードマンがやって来て、ドアの前で見張りの交代を始めた。
どうやらあのドアの向こうに大福がいるらしい。
障害物がないただ広いだけの廊下は、相手にすぐ見つかってしまう。
よもぎもそれをわかっているみたいで、早く行こうとあたしの顔を見上げてまた走り出した。
誰にも会わないように気をつけながら先へ進むと、モニタールームに辿り着いた。
中には四人の警備員らしき人達がいたけど、あたしとよもぎでコテンパンにした。
あたしは四人に手錠をかけてよもぎを椅子に座らせると、監視カメラの履歴を追った。
すると十五分くらい前に大福があのガードマンのいるドアの向こう側に行く映像を見つけた。
もう一回巻き戻して見ようとすると今度はサンくんが運ばれてきて、その後ルイスくんがガードマンを倒している映像が流れた。
あたしはよもぎと顔を見合わせる。
「……なんか、大丈夫そうね」
「アン!」
自信満々なよもぎの返事に笑うと、あたしはモニタールームを制圧した事と、大福とサンくんがいる場所がわかった事、ルイスくんがそこに今向かっている事を報告した。
ルイスくんからのメッセージは数分前で止まっているから、あの映像はメッセージの送信後に起きた出来事なのだろう。
心配する気持ちはあったけど、大丈夫という信頼感の方が強かったから、あたしは自分の仕事に専念した。
オークションが始まると、次々に人や動物達が落札されていった。
中盤になるとサンくんと大福くんがステージに現れて、物珍しさに観客が叫ぶ。
金額が五百万になると会場は静かになったけど、シェルアさんの合図であたしとマリアさんは照明を消した。
あたしとよもぎはルイスくんに加勢するため、舞台裏へと走った。
行く途中、廊下で客を取り押さえる警察官達を通りすがりに見かけた。
舞台裏に行ってオークションの商品にされた人や動物達を警察官の人達と一緒に助けると、パニックになりかけている人達を避難誘導した。
ステージに繋がる階段を上がっても煙で前が見えなくて、あたしはサンくんの名前を呼ぶと、その声を辿った。
サンくんは思いの外元気そうな様子だった。
怪我はないか聞くと、ルイスくんがいてくれたからと答える。
ルイスくんはまだ制圧が終わっていない事を心配していたけど、招待客の方は警察が出口を封鎖して取り調べをしていると伝えると納得していた。
スマホを見るとブラッドから制圧完了のメッセージが来ている。
ルイスくんとサンくんにもう仕事が終わった事を言うと、ルイスくんは制圧の早さに驚いていた。
警察の応援の人数が多いのと、ブラッドが張り切ったからじゃないかと予想を言うと、ルイスくんは遠い目をした。きっとブラッドの行動力に引いているのだろう。
ルイスくんが大福とよもぎに声をかけて帰ろうとすると、サンくんは慌ててオークションの商品にされた人達の無事を問いかけた。
避難誘導済みだと教えると、サンくんは心底ホッとした顔をしていた。本当に良い子だ。
外に出ると、かなりの台数のパトカーが停まっていた。
スマーニャさんは刑事の人と話をしているみたいで、ルイスくんはスマーニャさんに歩み寄ると声をかけた。
スマーニャさんは色々大変だったらしい。
刑事の人も他区の政治家が紛れていたから時間を無駄にしたと不満を口にした。
警察は高圧的なイメージがずっとあったけど、何度か関わった事のあるこの人は怪我はないかとあたし達を気遣った。
口調からしてスマーニャさんとは知り合いのようだ。
——彼が以前言っていたスマーニャさんの友人だろうか。
いきなりのスカウト発言に少し驚いたけど、ルイスくんがあたしにスマーニャさんは優しい人だと言って同意を求めるから、あたしは余計驚いてしまった。
スマーニャさんはサンくんを紹介すると、何かあったらよろしくと言った。
何かある前提かと刑事の彼がスマーニャさんに呆れた目を向ける。
互いに自己紹介をすると、ニコライさんはスマーニャさんにいじめられたらいつでも言えと冗談混じりに言った。
スマーニャさんは怒ったような顔をしていたけど、本気で怒ってはないみたいだった。
それだけで二人の付き合いが長い事が推測出来る。
サンくんが仲良しなんですねと言うと、二人とも顔を歪めて気持ち悪いだの腐れ縁だの言っていた。
スマーニャさんにも子供っぽいところがあるのは意外だった。でも新たな一面が知れて、あたしは少し嬉しくなった。
ニコライさんは仕事が忙しいようで、別れの挨拶をするとさっさと歩いて行ってしまった。
ルイスくんがシェルアさん達の所在を聞くと、スマーニャさんは裏口から先に出たんじゃないかと答えて辺りを見回した。
大福とよもぎが駆け出すと、視線の先にシェルアさん達がいた。
向こうもさっきのあたし達と同じように警察の人と話していて、気付いたマリアさんがあたし達に手を振った。
マリアさん達に近付くと、警察の人が胸の前で両手を合わせて挨拶した。
彼女はニコライさんの部下らしく、礼儀正しく名前を名乗ると、まっすぐな目であたしを見た。
きっと志が高い人なのだろう。
ノヴィラさんは足元に寄ってきた大福に嬉しそうにすると、あたし達に職務に戻ると言って踵を返した。
マリアさんが次会った時は大福を撫でていってと言うと、ノヴィラさんは顔を赤くして返事をして去っていった。
撫でられなくて寂しそうにしている大福の背中を撫でる。
あたしに撫でられると大福は嬉しそうに尻尾を振ったけど、ブラッドが浮気と余計な事を言うから慌ててよもぎの所に走っていった。
動物をからかうなんて本当にクズな男である。
呆れた目でクズを見ていると、スマーニャさんが帰るぞと言って歩き出した。
ブラッドの馬鹿はご飯を食べていないと帰宅を渋っている。
当然スマーニャさんは帰ってから食べればいいと反論したけど、最悪なタイミングであたしのお腹が鳴って沈黙をつくった。
皆の視線が自分に注がれているのが嫌でもわかって、羞恥で死にそうだった。
ハイパーウルトラ超ド級の馬鹿は、あたしの心情なんか無視して、嬉々としてあたしがお腹を空かせている事をスマーニャさんに語っている。まじでしんでほしい。
あたしはスマーニャさんに弁明したけど、スマーニャさんは聞いていないみたいだった。
マリアさんとルイスくんのフォローがむなしく感じて、八つ当たりにブラッドを思いきり叩く。
話が逸れて、シェルアさんは外食を提案した。
スマーニャさんは渋々了承していたけど、今回ばかりは断ってほしかった。
この恥ずかしさがずっと続くと思うと、憂鬱で仕方ない。
サンくんに大丈夫かと心配されて、あたしは自分が情けなくなった。
生理現象だからと励まされたけど、あたしは良い返事が出来なくて苦笑を浮かべた。
マリアさんは結果的に皆と外食する事になったから良かったと言う。
……そうだけど、そうじゃない。
このもどかしさを言葉にしようとしても上手い言葉が見当たらなくて、あたしは奥歯を噛み締めた。
スマーニャさんが気にしないのもわかっているけど、それとこれとは別なのだ。
唸っているとキングオブ馬鹿がまたデリカシーのない発言をしたから、あたしは間髪入れずに蹴りをお見舞いした。
文句を言われたけど、馬鹿の自業自得である。
あたしは負けじと言い返してやった。
しばらく馬鹿と言い合っていたけど、スマーニャさんとシェルアさんがこっちを向いたため、一旦言い合いを終了した。
シェルアさんに何を食べたいか聞かれて、ブラッドは肉、あたしは魚、ルイスくんは甘い物と答えた。
マリアさんとサンくんは、スマーニャさんに改めて何を食べるか聞かれていたけど、二人とも何でもいいと言っていた。
店を決めると、スマーニャさんは足早に歩いて行ってしまった。
大福とよもぎがスマーニャさんを追いかける。
後ろを歩いて駐車場まで行くと、スマーニャさんの運転で店に向かった。
着いた所は、二人が好きそうな高級レストランだった。
あたし達はこういう場所に何回か来ているから慣れているけど、サンくんは何もかも初めてみたいでかなり挙動不審になっていた。
皆でサンくんの注文が決まるのを待っていると、痺れを切らしたスマーニャさんがサンくんの分を注文した。
シェルアさんはそれを怒っていたけど、スマーニャさんははいはいと言って聞き流していた。
幼馴染だから二人のこういうやり取りはしょっちゅうあるけど、今はあんまり聞きたくなかった。
料理は確かに美味しかった。
ただきっかけがアレだったからあたしは素直に喜べなかったし、何ならだいぶ凹んでいた。
それなのに帰りもまたスマーニャさんと二人きりで、気絶したくなった。
正直何を話したかなんて覚えていない。
あたしはその夜、悶々として一睡も出来なかった。
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