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どういうことだろう?
言葉の意味が分からず、僕はとりあえず彼女から離れて、直立不動の姿勢を取った。
きっと僕に『動かないで』欲しいという意味なのかもしれない。
僕の服に泥が跳ねているのだろうか?
「こうかな?」
「………………もういい」
どうしてか、セリスさんは残念そうな表情をしていた。
なんだろう?
あ、そうか!
僕はなんて気が利かなかったんだ……紳士としてあるまじき行為だった。
そういえば、前世でも聞いたことがあるじゃないか。
紳士は自ら車道側を歩いて、危険から女性を守るものだって。
僕はうっかりしていた。なにも気にせずに彼女を道の中央寄りを歩かせていた。
「セリスさん、気が利かなくて申し訳ない。これからは僕が中央寄りを歩くよ」
「と……トリスてぁん……」
「今、噛んだ?」
突然セリスさんが僕の名前を噛んだ。
よく見るとセリスさんの顔がすごく赤い。
噛んだというより呂律が回っていないのだろうか。
ひょっとして……。
僕はセリスさんの容態を確認しようと顔を近寄せた。
「セリスさん。顔が真っ赤だし、もしかして熱があるんじゃないの?」
「だ、だ、大丈夫だから……それ以上は……」
「具合が悪いなら遠慮しないで言って欲しいんだ……」
僕はセリスさんの両肩を掴んで更に距離を詰める。
「ひゃぁ……」
「ちょっと……ごめんね」
熱を測るため、僕はセリスさんのおでこに手を当てみる。
熱い。明らかに発熱してる。
思い返せば、セリスさんは待ち合わせの時から顔が少し赤かった。
僕がちゃんと彼女を見ていれば、もっと早く異変に気づけていたのに……不甲斐ない。
「はわ! はわわわ…………」
「すごく熱い……セリスさん。今日はもう帰ったほうがいいよ。呼吸も荒いし……」
「げ、元気っ! 元気、だから……」
「本当に? 日を改めたほうがいいんじゃない?」
「い、いいの。すぐ落ち着くから……す、少し、離れて……」
離れて欲しいというのは、僕に病気が移るのを心配してくれているのだろう。
こんな具合が悪い時でも、僕のことを配慮してくれるなんて……。
やっぱり、セリスさんは……とても優しい人だ。
道の端で少し休憩していると、セリスさんの顔色も徐々に戻ってきた。彼女が大丈夫だと言いはるので、僕たちは再び目的の店に向かって歩き始めることにした。
それからセリスさんはまた無言になってしまったが、体調を崩すこともなく目的の店に着くことができた。
「私、眼鏡のことには詳しくないからトリスタンにお願いしたいんだけど、いい?」
「うん、分かったよ」
まず、やることは視力測定だ。
セリスさんに本当に眼鏡が必要なのか調べる必要がある。そして、眼鏡が必要だと診断されたらフレーム選んでいこう。
とはいえ僕ができることは少ない。ほとんどは店員さんがやってくれるからだ。
視力測定の結果、セリスさんは予想通り目が悪いらしい。
「じゃあ、どんなフレームがいいか選ぼうか」
「え? これで終わりじゃないの?」
「うん。眼鏡はレンズとフレームで構成されてるんだ。さっきは視力測定してセリスさんに合うレンズが分かったから、今度はレンズを入れるためのフレームが必要なんだよ」
「トリスタンって、よく知ってるのね」
「それほどでもないけど」
僕たちは眼鏡が陳列されている棚を見て回る。
前世での眼鏡店ほどじゃないが、僕の予想よりも様々な形・色のフレームが置かれている。
これならセリスさんが気にいるデザインも見つかるかも知れない。
「へえ、眼鏡って色んな種類があるのね」
「そうだね。セリスさんはどんなデザインが好きなの?」
セリスさんは棚をしばらく見ていたが、やがて1つの眼鏡を手に取った。
「そうね……この辺とかいいかも」
セリスさんが選んだのは、少し大きめの丸みのあるフレームだった。
それを装着すると、僕を見てセリスさんが言った。
「どう……かな……?」
「すごくいいよ。丸いフレームのかわいさの中で、セリスさんのシャープな目がより引き立っていて……うん、セリ
スさんの魅力が増幅されていると思う」
「…………ほ、褒めすぎ……よ」
「……え?」
セリスさんは俯きながらゴニョゴニョとなにかを言ったが、うまく聞き取れなかった。
髪の間からちょこんと見える耳が少し赤くなっているから、また熱が上がっているのかも知れない。
彼女に無理をさせているみたいで、なんだか申し訳ない気持ちになる。
セリスさんが早く帰れるように協力してあげないと。
「後は、色を選んだほうがいいかもね」
「色も選べるの?」
「ここに色見本があるでしょ」
僕は棚に置いてあった、色見本のカードを指さした。
「ほんとね。気づかなかった……」
「この中から好きな色を選べるみたいだよ」
「へえ……すごいわね」
セリスさんは真剣な表情で考え始めた。
「じゃ……じゃあ、トリスタンに選んで欲しいわ」
「セリスさんの眼鏡なのに、僕が色を選んじゃって良いのかな」
「ええ、あなたに選んで欲しい……ダメかしら?」
「……分かった。少し、時間をもらえるかな?」
「もちろん……」
色か……難しいな。彼女の好みもあるし。
でも、僕を信じて任せてくたのは他ならぬセリスさんだ。
なら僕は、セリスさんに似合う色を選んであげたい……。
言葉の意味が分からず、僕はとりあえず彼女から離れて、直立不動の姿勢を取った。
きっと僕に『動かないで』欲しいという意味なのかもしれない。
僕の服に泥が跳ねているのだろうか?
「こうかな?」
「………………もういい」
どうしてか、セリスさんは残念そうな表情をしていた。
なんだろう?
あ、そうか!
僕はなんて気が利かなかったんだ……紳士としてあるまじき行為だった。
そういえば、前世でも聞いたことがあるじゃないか。
紳士は自ら車道側を歩いて、危険から女性を守るものだって。
僕はうっかりしていた。なにも気にせずに彼女を道の中央寄りを歩かせていた。
「セリスさん、気が利かなくて申し訳ない。これからは僕が中央寄りを歩くよ」
「と……トリスてぁん……」
「今、噛んだ?」
突然セリスさんが僕の名前を噛んだ。
よく見るとセリスさんの顔がすごく赤い。
噛んだというより呂律が回っていないのだろうか。
ひょっとして……。
僕はセリスさんの容態を確認しようと顔を近寄せた。
「セリスさん。顔が真っ赤だし、もしかして熱があるんじゃないの?」
「だ、だ、大丈夫だから……それ以上は……」
「具合が悪いなら遠慮しないで言って欲しいんだ……」
僕はセリスさんの両肩を掴んで更に距離を詰める。
「ひゃぁ……」
「ちょっと……ごめんね」
熱を測るため、僕はセリスさんのおでこに手を当てみる。
熱い。明らかに発熱してる。
思い返せば、セリスさんは待ち合わせの時から顔が少し赤かった。
僕がちゃんと彼女を見ていれば、もっと早く異変に気づけていたのに……不甲斐ない。
「はわ! はわわわ…………」
「すごく熱い……セリスさん。今日はもう帰ったほうがいいよ。呼吸も荒いし……」
「げ、元気っ! 元気、だから……」
「本当に? 日を改めたほうがいいんじゃない?」
「い、いいの。すぐ落ち着くから……す、少し、離れて……」
離れて欲しいというのは、僕に病気が移るのを心配してくれているのだろう。
こんな具合が悪い時でも、僕のことを配慮してくれるなんて……。
やっぱり、セリスさんは……とても優しい人だ。
道の端で少し休憩していると、セリスさんの顔色も徐々に戻ってきた。彼女が大丈夫だと言いはるので、僕たちは再び目的の店に向かって歩き始めることにした。
それからセリスさんはまた無言になってしまったが、体調を崩すこともなく目的の店に着くことができた。
「私、眼鏡のことには詳しくないからトリスタンにお願いしたいんだけど、いい?」
「うん、分かったよ」
まず、やることは視力測定だ。
セリスさんに本当に眼鏡が必要なのか調べる必要がある。そして、眼鏡が必要だと診断されたらフレーム選んでいこう。
とはいえ僕ができることは少ない。ほとんどは店員さんがやってくれるからだ。
視力測定の結果、セリスさんは予想通り目が悪いらしい。
「じゃあ、どんなフレームがいいか選ぼうか」
「え? これで終わりじゃないの?」
「うん。眼鏡はレンズとフレームで構成されてるんだ。さっきは視力測定してセリスさんに合うレンズが分かったから、今度はレンズを入れるためのフレームが必要なんだよ」
「トリスタンって、よく知ってるのね」
「それほどでもないけど」
僕たちは眼鏡が陳列されている棚を見て回る。
前世での眼鏡店ほどじゃないが、僕の予想よりも様々な形・色のフレームが置かれている。
これならセリスさんが気にいるデザインも見つかるかも知れない。
「へえ、眼鏡って色んな種類があるのね」
「そうだね。セリスさんはどんなデザインが好きなの?」
セリスさんは棚をしばらく見ていたが、やがて1つの眼鏡を手に取った。
「そうね……この辺とかいいかも」
セリスさんが選んだのは、少し大きめの丸みのあるフレームだった。
それを装着すると、僕を見てセリスさんが言った。
「どう……かな……?」
「すごくいいよ。丸いフレームのかわいさの中で、セリスさんのシャープな目がより引き立っていて……うん、セリ
スさんの魅力が増幅されていると思う」
「…………ほ、褒めすぎ……よ」
「……え?」
セリスさんは俯きながらゴニョゴニョとなにかを言ったが、うまく聞き取れなかった。
髪の間からちょこんと見える耳が少し赤くなっているから、また熱が上がっているのかも知れない。
彼女に無理をさせているみたいで、なんだか申し訳ない気持ちになる。
セリスさんが早く帰れるように協力してあげないと。
「後は、色を選んだほうがいいかもね」
「色も選べるの?」
「ここに色見本があるでしょ」
僕は棚に置いてあった、色見本のカードを指さした。
「ほんとね。気づかなかった……」
「この中から好きな色を選べるみたいだよ」
「へえ……すごいわね」
セリスさんは真剣な表情で考え始めた。
「じゃ……じゃあ、トリスタンに選んで欲しいわ」
「セリスさんの眼鏡なのに、僕が色を選んじゃって良いのかな」
「ええ、あなたに選んで欲しい……ダメかしら?」
「……分かった。少し、時間をもらえるかな?」
「もちろん……」
色か……難しいな。彼女の好みもあるし。
でも、僕を信じて任せてくたのは他ならぬセリスさんだ。
なら僕は、セリスさんに似合う色を選んであげたい……。
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