母は、優秀な息子に家の中では自分だけを頼ってほしかったのかもしれませんが、世話ができない時のことを全く想像していなかった気がします

珠宮さくら

文字の大きさ
9 / 20

しおりを挟む

「……それで、お母様が回復するまで、お兄様のコーディネートをオデット様がなさったの?」
「そうなんです」


あちらでは、誰にもそのことを話せなかった。忙しくしている父にも言えなかった。馬鹿馬鹿しくて言えなかったのもある。


「私服から、普段着の全身を……?」
「はい。果ては、婚約者と出かける予定だからと服を見立ててくれと言われたりしてました。しかも、下着まで選ばされもしました」
「っ!?」
「……何、それ」
「信じられないわ」


服のみならず、そんなこともかと女性陣は凄い顔をした。

流石に着せてもらおうとまでしていたことは言えなかった。思い出しただけで、オデットは気分悪くなっていた。子供ではないのだ。そのくらい、自分でしてほしい。

使用人は、母に言われて仕事としてやっているようで、それが申し訳なくて仕方がなかった。でも、そんなことまで暴露したくなかった。

そこにブランシュの伯父と従兄が現れた。

何とも言えない微妙な空気にいたたまれなくなったのは、オデットとブランシュだ。何より言えない部分の葛藤のあるオデットは、ブランシュの伯父と従兄に戦々恐々だった。

身内が残念すぎるせいだ。父に似ている人たちであることを願うばかりだ。多分、大丈夫なはずだ。

ブランシュの伯母と従姉は、現れた2人をじーっと見た。それに何かまずいところに来た気がしたのだろう。


「……どうした?」
「いえ、旦那様たちは、そこまでではないなと思っておりました」
「?」
「ち、父上。タイミングが、悪かったのでは?」


息子の方が、出直そうとしていた。普段から、こうなようだ。

だが、父親の方は遅れたせいだと思ったようだ。


「あー、すまん。ブランシュの世話になった令嬢が来ると聞いて、街で有名な菓子屋に行っていたんだが、思いの外並んでいてな。遅くなったが、みんなで、どうだ?」
「あら、遅いと思えば、並んでいらしたの?」
「お父様が、並んだのですか?」
「私も、並んで来ましたよ。限定品でしたので、どちらが好みかわからなくて」


先程まで、逃げ出そうとしていた方も加わった。

オデットは、それに目を丸くさせてしまった。そういうのは、使用人がするものと思っていたが、この家ではもてなし方にも心がこもっているようだ。

これはオデットの父すらやらないことだ。評判を聞いて使用人に買ってきて食べることはあったが、ずっと前のことだ。今は、それすら忙しくしていて一緒に食事すらしていない。


「伯父様、お従兄様。並ぶのでしたら、私が行きましたのに」
「いや、それじゃ、意味がなくなるだろ。お前が世話になった人なんだから」
「そうだぞ。並ぶくらい、大したことない。私が並び慣れていないからか。みんな、先を譲ろうとしてくれたが、きちんと並んできた」
「我が家に大事な客人が来るからって、譲られると困ると言ったら、あれだけ並んでいるのに限定品が買えたんだ」


そう言うのを聞いて息子の方が、何とも言えない顔をしてしまった。色々とあったようだ。体格からして、目立つはずだ。

だが、何を言われようとも堂々としている方のようで、そのため息子の方が色々と説明していたようで、疲れが見える。

それを聞いて、オデットの方が泣いてしまった。


「す、すまない。甘いものが嫌いだったか?」
「いえ、嬉しくて」


息子の方は、嬉しくて泣くのかと言う顔をしていた。ブランシュも、よく泣いているようで、姉とは違う生き物のように見えているようだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

[完結]不実な婚約者に「あんたなんか大っ嫌いだわ」と叫んだら隣国の公爵令息に溺愛されました

masato
恋愛
アリーチェ・エストリアはエスト王国の筆頭伯爵家の嫡女である。 エストリア家は、建国に携わった五家の一つで、エストの名を冠する名家である。 エストの名を冠する五家は、公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家に別れ、それぞれの爵位の家々を束ねる筆頭とされていた。 それ故に、エストの名を冠する五家は、爵位の壁を越える特別な家門とされていた。 エストリア家には姉妹しかおらず、長女であるアリーチェは幼い頃から跡取りとして厳しく教育を受けて来た。 妹のキャサリンは母似の器量良しで可愛がられていたにも関わらず。 そんな折、侯爵家の次男デヴィッドからの婿養子への打診が来る。 父はアリーチェではなくデヴィッドに爵位を継がせると言い出した。 釈然としないながらもデヴィッドに歩み寄ろうとするアリーチェだったが、デヴィッドの態度は最悪。 その内、デヴィッドとキャサリンの恋の噂が立ち始め、何故かアリーチェは2人の仲を邪魔する悪役にされていた。 学園内で嫌がらせを受ける日々の中、隣国からの留学生リディアムと出会った事で、 アリーチェは家と国を捨てて、隣国で新しい人生を送ることを決める。

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

塩対応の婚約者に婚約解消を提案したらおかしなことになりました

宵闇 月
恋愛
侯爵令嬢のリリアナは塩対応ばかりの婚約者に限界がきて婚約解消を提案。 すると婚約者の様子がおかしくなって… ※ 四話完結 ※ ゆるゆる設定です。

あなたでなくては

月樹《つき》
恋愛
私の恋人はとても女性に人気がある人です。いつも周りには美しい人達が彼を取り囲んでいます。でも良いのです。だって彼だけが私の大切な…。

処理中です...