前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら

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第3章

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フィオレンティーナは、オギュストが取り寄せてくれた図鑑を手にして喜んでいた。


「ありがとうございます!」


うきうきして、図鑑を眺め出した。その場所は、クラリスの横だった。自然と養母の隣にフィオレンティーナは座って、極々自然に図鑑を眺めた。

興味ある花のことクラリスに聞いて、それに知っていることを答えていた。

その光景は、母娘の姿そのものだったが、オギュストはそこにまじることができずに立ち尽くしていた。未だに王である国王は、フィオレンティーナとの時間を取れないとしていて、国民たちは花の守り手に国王はとっくに挨拶を済ませていると思っていた。

そう、普通の神経をしていれば、執務が滞っていようが、挨拶にはきているはずだ。いつも時間があれば、とっくに済んでいたはずなのに。いつものちょうしでいた。そんな兄にオギュストはついに痺れを切らすことになった。


「オギュスト様? どうかされたのですか?」
「……フィオレンティーナ様。その、養子のことなのですが」
「?」
「ようやく、国王陛下が見えられるのですか?」


クラリスは、ここに来るとずっと思っていた。何なら巷では、挨拶は済んでいるものと思われていることも把握していた。

だが、待てど暮らせども、王は来ていない。手紙が1つもないのだ。

そんな王にクラリスは幻滅していたし、それを知る貴族たちも、同じように花の守り手を蔑ろにしていると思い始めていた。

何より、一大事の時も、リュシアンを側にずっといさせなかったのだ。緊急事態だというのに特例を出さないまま、王宮に夜は必ず戻ることをさせていた。

そんなことをして、花の守り手に何かあったら、どうするつもりかと言われていた。何より、唯一の婚約者だった頃にリュシアンに何かあれば、同じく花の守り手もただでは済まなかったはずだ。

そのことで、すっかり王は成すべきことをしていなかったと批判されていたが、それ以上に挨拶がまだなされていないことに花の守り手を蔑ろにしていると不満が続出していた。

もっとも、そうなる前から無能な王だと言われていたのもあり、そう言う話題には敏感だったし黙らせるのも早かったが、今回のことでは何もかもが上手くいっていない。


「いや、まだ、忙しいそうだ」
「旦那様。いくら何でも、ありえませんわ!」
「わかっている。だから、動くことにした」


それを聞いて、クラリスはようやくかと言わんばかりに憤慨していたが、フィオレンティーナは意味がわからずにいた。


(私のせいだよね。何かしたいなんて、私から言うとみんな困った顔してる。かと言って、大人しくしているのにも疲れてきたな)


フィオレンティーナとしては、1人で子爵家の使用人のようなことをこなして庭仕事もしていても、平気だったため、今の状況が手持ち無沙汰すぎて辛かった。

庭仕事は、親方たちが雇われて仕事している。学園にいた頃のようにあれこれ口出しする必要もない。留学生に留まってもらうものにする必要もないのだ。

それが、気に入らないからと変えることができるはずもない。

かと言って、婚約者たちも忙しくしていて、邪魔などできるわけもない。それでも、フィオレンティーナのことを気にかけてくれているのだ。

それに留学生たちだったキャトリンヌとジョスランとて、トゥスクルム国に留学するのにこちらの授業が遅れても構わないほど、学園の花々が見たくて残ってくれていたのだ。

それなのにこんなことになってしまったというのにフィオレンティーナが退屈して、暇を持て余しているから構ってくれなんて言えるわけがない。


(せめて、私もここの学園に通えたら良かったけど、人間でしかない私には入れないと言われれば、諦めるしかないわよね)


そんなこんなで、フィオレンティーナは暇を持て余していた。

手持ち無沙汰で、刺繍やら、ガーデンパーティー用に考えたお菓子のレシピや子爵家の庭での風景。これまでやってきたガーデンパーティーを思い出して、イラストつきでまとめたりしているが、それも終わりかけていて、覚えている前世の祖母が手掛けていた庭の絵を描き始めていた。

その絵を描き始めているせいか。懐かしくて、おばあちゃんに会いたくてたまらなくなっていた。


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