前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら

文字の大きさ
94 / 99
第3章

24

しおりを挟む

フィオレンティーナはハンカチに刺繍をするにも、婚約者にあげる図案となると全く思いつかず、クラリスたちに聞くことにした。悩みだしたら、止まらなくなってしまったのだ。


(こんなに悩むこと初めてかも)


たとえ、どんなものであろうとも、婚約者たちはフィオレンティーナからもらえるものなら喜ぶと言われても、一番喜ぶものをあげたかった。

フィオレンティーナがあれこれ考えた図案だけでも、クラリスたちは見るなり、きゃっきゃっと若い娘のように大盛り上がりしていた。キャトリンヌたちは学園が始まり、忙しくしていて、全く会えなくなっていた。よほど、こちらの学園の授業は難しいようだ。

もちろん、そうなれば婚約者たちも、忙しいはずだ。かたや王子で、かたや庭師見習いもしているのだ。学業以外にも忙しいことが、盛りだくさんなのは、フィオレンティーナにもよくわかった。

フィオレンティーナは、花の守り手でもあるが、妖精の血が一滴も通っていないことを理由に学園に通う許可が降りずにいた。

いくら、花の守り手でも学園には古くからの魔法がかけられていて、入るのは無理だとすら言われていて、その説明をしてくれたのはオギュストだったが……。


「本来なら、試すくらいしてから決定するものなのですが……」
「いいんです」


どこかの誰かさんが、学園に圧力をかけているようだ。理事長をしているオギュストですら、強行は難しいようだ。

それで無理だった時に困るのは、フィオレンティーナだ。

そのため、試してすらいないが、フィオレンティーナは揉めそうだとわかって、どうしても通いたいと言わずに今に至る。


「フィオレンティーナ様、これは?」
「え? あ、それは……」


(しまった。おばあちゃんの持ってたものを思い出して図案にしたものだわ)


前世の祖母のことをフィオレンティーナが、話すのにためらっていると……。


「これ、クラリス様のご実家の花紋では?」
「えぇ、私も、そっくりだからびっくりしてしまったわ」


聞き慣れない言葉にフィオレンティーナは首を傾げた。


「あの、花紋って言うのは?」
「家々で違うのですよ」


そう言ってリディアーヌとペトロニーユは、自分の嫁ぎ先のものを見せてくれた。確かに違っていた。


(つまり、家紋とか、紋章とかってことかな? 花関連で、決めるのね。でも、あれ、それって……)


つまり、前世のおばあちゃんは、クラリスの家の出身のようだ。それを知って嬉しいようであり、驚きすぎてしまって、フィオレンティーナの思考が真っ白になってしまった。


(こんな偶然があるの……?)


「フィオレンティーナ様、これをどちらで?」
「えっと、その、夢で見て……」


挙動不審になりながら答えたのは、それだった。確かに夢で見たようなものだ。嘘ではない。心苦しいが。


「夢? もしかして、それは行方知れずになられた花の守り手の夢では?」
「え? 花の守り手だったのですか?」
「えぇ、選ばれるべくして選ばれた方だったそううです。私が生まれる前に行方不明になってしまわれて、この国のみならず、世界中を探したようですが、見つからなかったとか」


クラリスたちの話では、行方不明のままとなっているようだ。

フィオレンティーナは、それを聞いて何とも言えない顔をしてしまった。


(おばあちゃん。ここから、あの世界に行ったってことよね? 一体、何があったんだろう?)


だが、そんなこと考えても、わかるわけがない。


ドクン。


だが、そこで奇妙でいて、不快な感覚にフィオレンティーナは襲われた。自分の心臓なのに違うもののように反応した。そして、同時に蔦に痛みを感じた。


「っ、」
「なんてこと。フィオレンティーナ様の婚約者の方に何かあったみたいだわ」


(婚約者……? リュシアン様、それとも、コルラード?)


ドクン。


反応したのは、コルラードだった。学園で何か起こっているようだ。


(行かなければ)


「フィオレンティーナ様」
「学園には、どう行けば良いのですか?」
「すぐに馬車を用意いたします」
「私たちも、参ります」


ここにオギュストがいれば、止めるところかも知れないが、婚約者の一大事であり、フィオレンティーナの蔦の状況を見て急を要すると思い、3人はすぐに行く準備をした。フィオレンティーナが学園に入れないかもしれないと頭をよぎっても、フィオレンティーナの蔦の状態から少しでも側に行くことが大事だと考えたようだ。

クラリスは、夫であり学園の理事長にも、その話を伝えた。オギュストは、学園に無理をして入れば、古くからの魔法がどんな作用をもたらすかわからないと
言っていたが、そんなことでフィオレンティーナが臆することはなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

断罪された大聖女は死に戻り地味に生きていきたい

花音月雫
ファンタジー
お幼頃に大聖女に憧れたアイラ。でも大聖女どころか聖女にもなれずその後の人生も全て上手くいかず気がつくと婚約者の王太子と幼馴染に断罪されていた!天使と交渉し時が戻ったアイラは家族と自分が幸せになる為地味に生きていこうと決心するが......。何故か周りがアイラをほっといてくれない⁉︎そして次から次へと事件に巻き込まれて......。地味に目立たなく生きて行きたいのにどんどん遠ざかる⁉︎執着系溺愛ストーリー。

処理中です...