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しおりを挟むアニル国。幼い頃から許嫁がいる者もいるが、ほとんどが学園を卒業するまでの数年の間に見つけている。
だから、入学当初は周りに婚約者がいない人たちの方が圧倒的に多かったりする。卒業間近になると必死になる者も多いが、まだ焦る年齢ではないテベンティラ・ミシュラは気ままに学園生活を謳歌していた。
焦っている先輩を見ると心配にもなるが、知り合いではない限りは下手なことに首を突っ込まないようにはしている。卒業間近で気が立っている余裕のないお姉様方がどんなに恐ろしいかもちゃんとわかっていた。
(あれに関わっていたら身が持たない)
そう、何事も程よい距離感が大事なのだ。でも、そうも言っていられないことが起こった。
幼なじみのシャルミスタ・ノディアルの手首につけられたブレスレットを見て、テベンティラは不自然に固まってしまったのだ。それは、昨日までしていなかったもので、幼なじみはそういうのにあまり興味がないため、付けていること自体が珍しかった。
シャルミスタは、テベンティラの視線に気づいてにっこりと笑った。
「綺麗でしょう?」
「……どうしたの?」
「昨日の誕生日に貰ったの」
「そう、なの」
テベンティラは、とても幸せそうにブレスレットを触りながら話すシャルミスタではなくて、見覚えのあるブレスレットに釘付けになったまま、ずっと話したくて仕方がなかったシャルミスタは、機嫌のよいまま話し続けていた。それをテベンティラはほとんど聞いてはいなかった。
そもそも、この時のテベンティラは綺麗というのに言葉が詰まってしまっていた。テベンティラ的には、綺麗とは思えなかったりする。
(誕生日プレゼント)
その単語にテベンティラは引っかかってしまった。
そう、テベンティラにも先月の誕生日に同じようなブレスレットをくれようとした子息がいた。同じようなと言っているが、テベンティラは包装されてもいない箱に入ったままのブレスレットを見せられて断ったから、同じような、ではなくて全く一緒のものだとすぐにわかった。
そもそも、誕生日プレゼントに中身を見せながらあげると言うのもおかしな話なのだが、奇妙なことすぎて今の今まで夢だと思っていた。
(あれは、現実だったのね)
テベンティラは目がいい。それにこのブレスレットがいつ発売されたものかを知っていた。今はチャームを自分でカスタマイズできるが、それができないタイプだった。
そんなことをちゃんと見つつ、テベンティラは断った。婚約者はいないが、婚約者ではない子息からアクセサリーを貰うとややこしいことになると思ったのと自分でカスタマイズできない数年前の流行りにもならなかったブレスレットをほしいとは思わなかったことが大きかった。
(そう、あの時、まだあのタイプを誰かにプレゼントしようとする人がいるとは思わなかったのよね。でも、それを貰って嬉しそうにする人もいたのね。……私は、あの子息とほぼ初めて話したようなもので、ドン引きして中身がどんなに素敵でも貰う気にはならなかっただろうけど)
そんなことを思って、幼なじみが嬉しそうにしているのをテベンティラは見て誰から貰ったのかをわざわざ聞けなかった。
聞いたところで、テベンティラに誕生日だからとプレゼントを渡そうとしたのは同じ子息なのは明らかだ。そうでなければ、同じようなのを数年も持っていた子息が他にいたことになる。そんな子息が他にもいるとなったら、世も末すぎる。
1人でも残念すぎるのだ。これが他にもいるとなったら……。
(っと、それよりも、今はシャルミスタだわ)
ハッ!として幼なじみをテベンティラはちゃんと見た。ずっと語っていたようで、満足した顔をしていた。残念ながら、テベンティラは最初しか聞いていないというのに相手が聞いていなくとも、どうでもいいようだ。
いつもなら、聞いていないと怒るのだが、語りたいだけだったようで、テベンティラが他のことを考えていても気づいていなかったようだ。
「ねぇ、シャルミスタ」
「あ、もう、こんな時間だわ。私、今日、これから用事があるのよ」
「そうなの」
シャルミスタは、他に用事があるからといそいそと帰って行った。凄く嬉しそうな顔をしてブレスレットを触っているから、多分そういうことだろう。
幼なじみは、お気に入りのものに触るくせがあった。これから、それをくれた人と会うのか。お礼のものを買いに行くようだ。
その辺、テベンティラは追及しなくても幼なじみなこともあり、よくわかってしまった。……いや、これはもう幼なじみ関係なくわかりやすいから、みんなも気づくことだろう。
(今日でなくてもいいか)
せっかく、貰ったプレゼントに機嫌よくしているのだ。流石に飽きっぽいところのあるシャルミスタは、数日もすればプレゼントにも飽きるかも知れない。
「じゃあ、先に帰るね」
「えぇ、気をつけて」
そんな風に思っていた。飽きっぽいはずが、全然飽きない姿を見続けることになるとは思わなかった。
次の日から授業が終わるとゆっくりすることなく、シャルミスタは帰るようになったのだ。それも、これも、この日からだった。
そして、この日からアクセサリーの話題で学園のあるグループではもちきりになったが、そこにシャルミスタの姿はなかった。
最初は、こんな風に話しかけられたことから始まった。
「テベンティラ様。あの、もしかしてですけど、あのアクセサリーに似たものを見たりしたのでは?」
「……えぇ、似たものを確かに見たわ」
同じと言わないところが、ミソだった。同じではシャルミスタが可哀想すぎる。……今でも可哀想なことになっているが、本人は知らないから幸せなのだ。
「やっぱり。あの、その似たものって、誕生日に見ませんでした?」
「……もしかして、あなたも?」
声をかけて来た令嬢は頷いて、彼女の後ろにいた令嬢たちもテベンティラと目が合うと何とも言えない顔をして頷いた。
つまり、そういうことだ。シャルミスタがつけていたアクセサリーを誕生日に渡されそうになった令嬢たちが、これだけいるということだ。
(嘘でしょ!? あの子息、こんなにたくさんの令嬢の誕生日を調べて渡そうとしていたの!? 気持ち悪っ!)
数撃ちゃ当たる。
そんな言葉が頭をぐるぐるしたのは、きっとテベンティラだけではなかったはずだ。
でも、それは氷山の一角のようなものだったようで、貰うだけ貰って付けていない令嬢もいたようだ。
それを知ってもうテベンティラは、頭を抱えたくなった。
「あの方、誕生日に婚約者でもない令嬢にプレゼントして何がしたいのかしらね」
「あの方、隣国に婚約者がいるから、その方にプレゼントを渡して喜んだのを直接見れる機会がないから、別の令嬢が喜んでくれるのを見たいようですよ」
「え?」
「ちょっと待って! あの方、婚約者がいるの?!」
「いるそうですよ。婚約者が、前まで仲良くしていたので」
重要な情報を発した令嬢には、婚約者がいたようだ。
しかも、知っていながら、婚約者にブレスレットのプレゼントを渡そうとしたと知って友達をやめたようだ。
(それは、そうなるわね)
だが、その子息に婚約者がいると聞いてテベンティラは、目を丸くして驚いた。そもそも、いないからやっていると思ったのにそれが違っていたのだ。
婚約者がいない令嬢にだけしていると思っていた。彼は婚約者を探していると思っていたのだが、そうではなかったのだ。
(じゃあ、何のためにこんなことを……?)
テベンティラは驚きから混乱状態に陥った。もう、わけがわからなすぎる。
「それで何で、アクセサリーを贈ったりするの
よ」
「え? いつから?」
「幼い頃からって話ですよ」
幼い頃と聞いて、更にギョッとした。
もう既に知っている者は僅かで、テベンティラはそんな中で幼なじみのことを思い浮かべずにはいられなかった。
(シャルミスタ。あんな風にこれ見よがしにつけているのを見せて歩いているのをどうにかしないと)
婚約者がまだいない幼なじみのことをテベンティラは心配せずにはいられなかった。
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