幼なじみが誕生日に貰ったと自慢するプレゼントは、婚約者のいる子息からのもので、私だけでなく多くの令嬢が見覚えあるものでした

珠宮さくら

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テベンティラが幼なじみの心配をするようになってから、更に心配するようなことを耳にすることになった。

それはあのブレスレットを付けている幼なじみを見てそんなに経ってはいなかった。


「あの、シャルミスタ様が、あの方と街に出かけていると小耳に挟んだのですが……」
「え?」


ある日、テベンティラにそう言って来たのは、ブレスレットのことで話かけて来た令嬢のサルミラ・ダブラルだった。彼女は何気に情報通なところもあり、そういったことに関わった令嬢たちの中でも貰わなかった令嬢と仲良くしていた。

テベンティラとしては、貰った令嬢がシャルミスタの他にもいることに驚いてしまったが。だって、あげたはずなのに同じものを持っているのだ。おかしすぎる。

だが、今はシャルミスタのことだ。これまた、サルミラの後ろには見知った令嬢たちが心配そうにして集まっていた。


(お返しを選ぶにしては、ずっと早く帰ると思っていたけど、街に一緒に出かけているなんて思わなかったわ。……何で、そんなに親しくなっているのよ!?)


テベンティラは頭痛がしてしまった。幼なじみが、そんなに行動派だと思わなかった。

シャルミスタのことをテベンティラはあれから何度も引き止めようとした。約束があるからの一点張りで放課後になるとすぐに帰ってしまうのだ。

お返し選びに拘っていると思いたかったが、それは終わっていたようで、あの子息がシャルミスタのことを気に入ったように思えてならない。

そもそも、婚約者がいるというのに子息の方が、どうかしている。そんな子息と出かけているのを話題にされるほどということは、忍ぶ気が全くないということだ。それもテベンティラの悩みの種のようになっていた。

婚約する気だとしても考えものだ。婚約してからなら頻繁に出かけていてもいいが、婚約する前にそういうことで目立つ者はいない。

そもそも、婚約者がいる相手も堂々としすぎているのもおかしい。


(婚約者がいる子息に気に入られて、どうするのよ。婚約者のいない子息と仲良くすればいいのに。しかも、あんなダサいブレスレットを大事にしているのも、悪目立ちするだけなのに。……いや、言い過ぎよね。ダサくても、気持ちがこもっているならいいのよ。どう考えても気持ちなんてあるとは思えないのが問題なのよ。同じのを誕生日プレゼントに何人にあげているかってことよ)


そもそも、事の発端は婚約者がいる子息からのプレゼントだ。あのブレスレットを外させようとして必死になっていたテベンティラは、シャルミスタと喧嘩してしまっていた。段々と余計なことしか言わないと思われている状態になっている。

そもそも、シャルミスタにセンスうんねんとか。流行りのことを話しても……。


「そんなの関係ないわ。私が気に入ったんだもの」
「……」


幼い頃からシャルミスタは、そういう令嬢だった。どう見ても今回は、気持ちが嬉しかったということなのだろうが、その気持ちの中身が問題なことをわかってくれないのだ。

真実を伝えずにブレスレットを外させようとしたせいで、完全に誤解が生まれてしまったのも、すぐだった。

あの子息は婚約者がいると話していなかったことで、逆ギレされたのはテベンティラだった。


「いい加減にしてよ!」
「シャルミスタ」


(いい加減にしたいのは、こっちよ)


怒鳴りつけて来たシャルミスタを見て、テベンティラはそんなことを思ってしまった。


「テベンティラ、羨ましいんでしょ?」
「え?」
「私が、誕生日にこんな素敵なプレゼントを貰ったから」


そんなことを言われて目を見開いてしまった。素敵なプレゼントという言葉に頬が引きつりそうになった。


(どうして、そうなるのよ。大体、人気の出たカスタマイズできるやつは今も人気だけど……。もしかして、シャルミスタ。その区別がついてないなんてないわよね?)


外してほしい理由をテベンティラは言いたくなかったせいで、シャルミスタはすっかり嫉妬していると思い込んでいた。

かなり疲れた声で、こう言うのが精一杯だった。もう、声を絞り出すのも大変だった。


「……違うわ」
「違わないでしょ。みんなも、そうよ。じろじろとこれを見てる。それだけじゃなくて、ひそひそと妬んでいるのなんてバレバレよ」
「妬んでなんかいないわ。みんな、あなたの心配をしているのよ」


(そんな流行りにもならなかった古いブレスレットをしているのを見せびらかしているから、見られているだけよ。どうしたら、妬んでいることになるのよ)


だけど、シャルミスタは有頂天になりすぎているようで、幼なじみにそこまでのことを言う令嬢だと思わなかった。まるで、他人のように見えていた。


「そんなわけないでしょ。これ、流行りのものだもの!」
「っ、」


(やっぱり誤解しているんだわ!?)


どこが、どう違うのかをシャルミスタは見分けがつかないようだ。散々、流行りではないと伝えたのも、妬んで嘘をついていると思っているようだ。

大きな声で言いたいことを言うシャルミスタの言葉を耳にした令嬢たちが馬鹿にし始めたのは、この時からだった。シャルミスタの言葉がきっかけだったのだが、彼女はそれに気づきもしなかった。

全ては、周りもテベンティラと同じく妬んでいる。自分ほど羨まれる令嬢はいないと思っているのだ。


(色々と失敗したわ)


テベンティラが、そう思った時にはテベンティラが一番シャルミスタにとっておかしなことしか言わない嫌な幼なじみと化していた。

そんなこんなで、テベンティラの声を聞きたくないとばかりにシャルミスタは学園でも、その子息と一緒にいるようになってしまった。


「アラカナンダ様! ご一緒しても?」
「ん? あぁ、もちろんだ」


アラカナンダ・トゥリパティ。こんな感じだが、彼は公爵家の子息だったりする。残念すぎるというか。何を考えているかさっぱりわからないが、それまでろくに話したこともない令嬢の誕生日にプレゼントを渡すような子息だ。ちょっと、気持ち悪いところもあるが、シャルミスタは話かけて来なかっただけで、気にかけてもらっていたと勘違いしているようにすら見えた。

そこから街で一緒のところを見かけるという噂から、学園では常に一緒にいるようになってしまったのだ。話題にならないわけがなかった。


「信じられない」
「何を考えているのかしらね」
「それにしても、あのダサいブレスレット見た?」
「えぇ、あんな古い流行りもしなかったのを付けていてびっくりしたわ」
「それも、あの子息が誕生日にプレゼントしたらしいわよ」
「やだ。あの子息、まだ、そんなことしているの?」


テベンティラたち以外の令嬢も、シャルミスタがアラカナンダと一緒のところをよく見かけるようになって、怪訝な顔をよくしていたが、そんなことを言い出すようになっていた。

その中には、婚約者がこの国にいないからって堂々と浮気し過ぎだと怒っている令嬢もいたが、2人には聞こえていなかったようだ。

元より子息の方は、周りから誕生日に婚約者がいようが、いまいがお構いなしにプレゼントを渡そうするのをやめるように散々言っていたが、聞く耳を持つことがなかった。


「あいつ、ついにそこまでになったのか」
「あの令嬢は、何を考えているんだろうな」


もう何を言っても聞きそうにないと思っていて、面倒に巻き込まれたくなくて距離を置いている子息ばかりだったが、そんな子息たちが呆れた顔をして見ているのにはシャルミスタも含まれていた。

シャルミスタの方も、幼なじみのテベンティラに嫌味なことを言うようになっていて、それを目撃した令嬢たちから……。


「あれが本性だったみたいね」
「テベンティラ様が一生懸命に伝えようとしているのにあんな言い方するなんて最低だわ」


テベンティラは、それでもどうにかしようとしても、シャルミスタのトゲトゲしさが増すばかりとなってしまっていた。


「テベンティラ様、いくら幼なじみでももうほっといた方がいいかと」
「でも」


周りからも色々言われるようになり、関わらない方がいいとサルミラたち以外の令嬢からもよく言われるようになってしまった。それでも、どうにかしようとしているのを見かねて、色んな令嬢たちからシャルミスタと距離を置かせようと引き離されることになるまで、そんなに時間はかからなかった。

多分、テベンティラも意地になり過ぎていたのだ。幼なじみだからと必死になって、更に悪化させているのが自分だということを認めたくなかったのだ。


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