幼なじみが誕生日に貰ったと自慢するプレゼントは、婚約者のいる子息からのもので、私だけでなく多くの令嬢が見覚えあるものでした

珠宮さくら

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そんなことになっている時にアラカナンダの婚約者が、ダラム国から留学しに来てしまった。いや、来てしまったという言い方は、婚約者に失礼だが、タイミングが最悪だったのは間違いない。

アニル国の学園生は、このタイミングで来るのかとドン引きしていたが、留学して来るのを知っていた方は、あり得ないことに喜んでいた。婚約しているアラカナンダだ。滅多に会えない婚約者に留学中は、好きな時に会えることを物凄く喜んでいた。

その光景に……。


「あいつ、本気か?」
「そんなに婚約者のことが大事なら、あんなことしてないだろ」
「いや、でも、あいつ、普通とは違うからな」
「確かに。あんな美人が婚約者なのに。何やってるんだかな」


アラカナンダの元友達は、大喜びしているアラカナンダを見てそんなことを言っていた。

それが聞こえたのか。女性の方が、首を傾げていた。そんなことを言っていた子息たちの方を不思議そうに見ていたが、聞こえていたとわかって余計なことを言うことはしなくなったのは、すぐだった。

それに美人すぎる女性に見られて、下手なことを言えなくなった。……どちらにしろ。この女性を悲しませて怒らせるのはアラカナンダだが、それを止めきれなかったのだ。

その辺もあって、アラカナンダがやらかしているのに周りの子息たちの方が申し訳なさそうにしていた。

でも、そんな反応をした子息たちと違い、アラカナンダが別の女性を見て大喜びして嬉しそうにしている姿を見たシャルミスタは、これでもかと眉を顰めていた。不機嫌を隠しもしなかったのも、すぐだった。この日も、アラカナンダと一緒に行動しようと探していたようで、その光景はあり得ないものと見えたようだ。

そして、周りが流石に物申さないだろうと子息だけでなくて、令嬢たちも思い始めていたのと真逆なことをシャルミスタは始めた。

アラカナンダの婚約者がやって来たのだ。所詮は浮気相手でしかないシャルミスタが、アラカナンダたちを見つけるなり駆け寄ったのだ。どう見ても、雰囲気からして自分の方が遊び相手だという自覚がシャルミスタにはなかった。そんなものがあったら、ここまでになっていなかっただろう。

シャルミスタにとって、本命は自分だと自負していたのは明らかだったのは、この後の彼女の言い方からわかることだ。

そう、シャルミスタは婚約してもらえると思っていたのだ。


「ちょっと! その女は、何のよ!?」
「?」
「そんな言い方しないでくれ。私の婚約者だ」
「はぁ!?」


シャルミスタは、アラカナンダに婚約者がいることを全く知らなかったようだ。それも問題だが、この際、置いておく。

しかも、その相手が誰なのかも知らないようで、周りが怒鳴り散らすシャルミスタに何事かと集まりだして、怒鳴られている女性を見て顔色を悪くさせる者の方が多かったが、シャルミスタはそれにすら気づいていなかった。

その中にテベンティラもいた。すぐさま、シャルミスタに駆け寄ってやめさせようとしたのをサルミラや他の令嬢に止められた。


「駄目です。今、出て行ったら、テベンティラ様までとばっちりを受けてしまいます」
「でも」
「もう、これは、自業自得ですよ」
「……」


それでも、テベンティラは幼なじみがただ知らなかっただけだと思っていた。婚約者がいるのに女性の笑顔が見たいとブレスレットをあげていたあのアラカナンダが悪い。


(しかも、あの古いタイプの売れ残りのアクセサリーを安く買って、配り歩いているだけなのに。そんなのにシャルミスタは騙されていただけなのに。……でも、あの方の顔を見て、わからないのは貴族令嬢として問題かも)


だが、シャルミスタはアラカナンダの言葉に衝撃を受けた顔をしてよろめいていた。


「あなた、婚約してたの……?」
「そうだが?」
「っ、信じられない! それなのに私にこれをくれたの!?」


シャルミスタの言葉に初めて怒鳴り散らされていたとても綺麗な女性が眉を顰めた。それまで、何を怒鳴り散らしているのかがわからない顔をしていたが、プレゼントをしていたのが婚約者だとわかって、アラカナンダの方を見た。

だが、アラカナンダはあくびをせずにこう言った。


「別に誕生日なんだ。プレゼントくらいしてもいいだろ」


それを聞いていた女性が、アラカナンダのことを何を言っているんだとばかりの顔をしていることに彼は気づいていなかった。

それは、シャルミスタも同じような顔をしていたが、アラカナンダはそんな顔をされるいわれはないかのようにしていた。 

周りも、アラカナンダの言い分のおかしさに眉を顰めずにはいられなかった。


「まぁ、みんな大概は受け取ってくれないが。君は受け取っただけでなくて、連れ回しても嫌な顔をしないから良かったが、こんなことするとわかっていたら、出かけたりしなかったが。こんなに面倒くさいとは思わなかった」
「っ、!?」


堂々と出かけていたことを言葉にしたのは、シャルミスタではなくてアラカナンダだった。しかも、とんちんかんな物言いに婚約者の女性は眉をぴくりと動かした。

それを隠すことなく話すアラカナンダにギャラリーと化していた1人が思わず、こう言ったのがテベンティラにもしっかりと聞こえた。


「あいつ、正気か?」


隠し通そうとするかと思いきや全くしなかったことにテベンティラも、絶句してしまっていた。悪気なんて、この子息には欠片もないのだ。

婚約者が、どう思うかもアラカナンダは全く気にしていない。まぁ、だから女性の喜んだ顔を見たくて、あんなことをしていたのだ。まともなはずがなかったが。


(それこそ、婚約者に隠す気もなかったみたいね。悪いとすら思っていないってことよね。あんなのと婚約していたと気づいたら、一緒になんていたくないでしょうね。……私だったら、絶対に嫌だわ)


婚約者が来たことに喜んでいたのも本当だろう。あの笑顔に偽りはなかったのはわかる。

シャルミスタが喜んで受け取ったのも、嬉しかったのも本当だろう。そして、街に出かけるのにシャルミスタの方が誘ったのを断りもせずに付き合っていたのも、笑顔を見れるからに他ならなかったのも、本当のことだ。

女性が喜んでいるのを見れれば、それでよかったのだとしたら、そんなことをしていたと知られて、婚約者がどう思うかを考えるべきだと思うが、それすら配慮というか。思い至らないない子息のようだ。


(世の中には、こんな子息もいるのね。全く理解できないわ。どういう思考回路をしているのかしらね)


テベンティラは、アラカナンダをあり得ない人間を見ているような目をしていた。そんな目をしている者は、この場を見ている者たちは、みんなしていたが、アラカナンダはそれにすら気づいていなかったようだ。

こんなんだから、友達をなくしたのだろう。それはよくわかった。これでは何を言ってもわかってくれることはないはずだ。


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