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しおりを挟むずっと、黙って事の成り行きを聞いていた女性が、ようやく言葉を紡いだ。その声は、見た目通り美しい声をしていた。
「アラカナンダ様、その方にプレゼントを差し上げていたの?」
「え? あぁ、そうだ」
久しぶりに声を聞けたアラカナンダは、婚約者が何を言っているのか。最初わからない顔をしてから、肯定した。それを聞いて更に尋ねた。
「……街にも、2人っきりで出かけていたの?」
「そうだ。あ、シャルミスタ。婚約者がここに来ている間は、関わらないようにしてくれ。流石に婚約者を優先しないとまずいからな」
流石にとは、どういう意味かと聞かずともわかる。いなければ構ってやれると言いたいのは明らかだ。
さっき、面倒と言っていたはずなのにまだ、出かける気ではいるのだ。堂々と婚約者の前で浮気をすると言っているのだ。
そんなことを平然とアラカナンダが言うのを聞いていた。周りもドン引きしていた。
彼の婚約者も、凄い顔をしていた。美人なので、その顔をされたら落ち込みそうだが、アラカナンダは堪えていないようだ。
「……信じられない」
「?」
アラカナンダは、留学して来た女性の声に不思議そうに首を傾げていた。ここで、それが何を意味しているのかがわかっていなかった。そう、この場で理解できていないのは、アラカナンダだけだ。
彼と同じ思考ではなかったシャルミスタは、信じられない顔をして、アラカナンダのことを見ていた。先ほどまで、女性の方に噛みついていたというのに。それが一気に現実を見ることになったが、アラカナンダがそんな子息だったことにドン引きした顔をしていた。
夢から覚めたにしては、酷い顔をしている。
「婚約者がいる子息だったなんて、知らなかったわ。それにその言い方だと誕生日プレゼントを贈った相手って、どれだけいるのよ?」
シャルミスタは、自分がつけているブレスレットを忌々しそうに見ながら、そんなことを言った。
貰ってから初めて、そのブレスレットが気味の悪いものに思えたようだ。やっと恋に恋していたのに気づいたようだ。……色々と遅いが。
そんなシャルミスタの態度の変化にも気づくことなく、アラカナンダは……。
「さぁ? この学園に通っている令嬢たちの誕生日にはプレゼントをあげようとしたが、ほとんどが受けとってくれなかったからな。まぁ、そうは言っても君みたいに毎日付けて過ごす令嬢は初めてだ。これ、人気がなくて売れ残っていたらしいからな」
「は……?」
「凄く安く買えたから、こんなんで喜んでくれるなんてお手軽だな」
「っ、!?」
アラカナンダは首を傾げながら、本音を暴露していた。テベンティラたちはそれを聞いて白けた顔というか。それが、どんなものかをわかっていて、プレゼントしてくれたアラカナンダに一気に無表情になっていた。
みんな、この子息は女の敵のごとく怖い顔をしていたが、シャルミスタだけが今にも泣きそうな顔をしていた。彼女は、勘違いしていたとは言え、そのプレゼントに本当に喜んでいたのだ。それが、渡した子息の本音を聞いて、怒りを通り越してしまったようだ。
そんなシャルミスタに声をかけたのは、怒鳴り散らされた女性だった。
「……あなた、名前は?」
「名前を聞くなら、自分から名乗ったら?」
それでも、シャルミスタは意地があったようだ。泣きそうになっていたが、弱味を見せるものかと言わんばかりに女性を睨みつけて、そんなことを言っていた。
「あなた、私を知らないのね。隣国の……。ダラム国の王女のヴァルシャよ」
「へ? お、王女?!」
そこで初めてシャルミスタは、ギョッとしてたじろいだ。
周りは、やっぱり知らなかったのかと言う顔をしたが……。
「そうだぞ。シャルミスタ、無礼なことをするな。ヴァルシャ様、学園の中をご案内します」
「失礼なことをしているのは、あなたもでしょ。こんな腹ただしい目にあったのは生まれて初めてだわ。あなたたちがしたことは、両親に話すわ」
ヴァルシャは、きょとんとするアラカナンダと顔色を悪くさせて縮こまるシャルミスタを一瞥した。留学しに来たのを撤回までして戻るのも癪だと言って授業に向かった。
その後ろにアラカナンダとシャルミスタがひっついていた。どうにか穏便に済ましてもらおうと躍起になっている2人が色んなところで目撃されたが、ヴァルシャはそんな2人をいないものとして無視して過ごしていた。
両親に話すとしか言っていないから、まだチャンスはあると思っているようだ。
王女が、そんな話をしたのを聞いたら、婚約を破棄しないわけがないと思わないところが、アラカナンダという子息のようだ。
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