幼なじみが誕生日に貰ったと自慢するプレゼントは、婚約者のいる子息からのもので、私だけでなく多くの令嬢が見覚えあるものでした

珠宮さくら

文字の大きさ
5 / 14

しおりを挟む

何があったかは、学園にまたたく間に広がっていた。おや、広まらないはずがなかった。


「あれを無視できるって凄いわね」
「撤回してもらう以前にあの2人、やるべきことがあると思うけど」
「そうよね。私なら、すぐに謝罪して、速攻で家に帰って両親にやらかした話をしているわ」
「それに気づく人は、あんなことしてないわよ」


テベンティラは、そんな会話を聞いていて苦笑していた。確かに撤回させようとするより、ヴァルシャに謝罪すべきなのだが、それをせずにつきまとっている姿に申し訳なく思えてしょうがなかった。


「あの2人、本当に謝罪していないの?」
「していないそうですよ」


サルミラは、何気に情報通だ。朝、やらかしているのを見てから昼になり、午後の授業に差し掛かろうとしていた。


「あの、テベンティラ様。流石にまずいですよね?」
「そうね。物凄くまずいでしょうね」
「……」


あまりにも酷い状態に見かねたテベンティラは、サルミラや他の令嬢たちにも今後のこともあると言わんばかりにしていた。

アラカナンダとシャルミスタの味方する気にはなれないが、王女に話しかけることにした。授業がかぶらなかったため、挨拶が中々できなかったのは仕方がない。……というか。近づきたくなかった。

でも、そんなことをしていられない。この学園だけでなくて、この国がみんなあの2人みたいだと思われてしまっているのをどうにかしなくてはならなかった。


(流石に遅いフォローだけど、仕方がないわ。あの2人が謝罪してないとは思わなかったし、つきまとっているとは思わなかったし)


そんな言い訳を頭の中でしながら、声をかけることにした。


「王女殿下。ご挨拶しても、よろしいでしょうか?」
「……えぇ」


一応は、テベンティラの家は公爵家なのだ。王女は、やっとまともな令嬢が現れたとばかりにして、テベンティラたちのことを見てくれたが、ヴァルシャの側にアラカナンダとシャルミスタがいて、挨拶をきちんと終える前にシャルミスタが……。


「テベンティラ! 私も、紹介して!」
「……もしかして、テベンティラ嬢のご友人なの?」
「そうです!」


食い気味で、声をかけて来たのだ。テベンティラは、勘弁してほしいと思ったが、表情には出さなかった。


「ただの幼なじみです。悪いけど、あなたのような令嬢を紹介したくないわ」
「何でよ!?」
「王女殿下にすべきことをしていないと聞いたわ」
「すべきこと……?」
「それすらわからないのね。悪いけど、紹介なんてしたくないわ。それにそのブレスレットについて、散々伝えたはずよ。それをみんなが妬んでいると言い、悪く言っていたのは、そっちでしょ」
「そんな、あんなのでわかるわけないでしょ!!」


シャルミスタは、それに腹を立ててこれまでのようにテベンティラにギャーギャーと言い始めたが、それをヴァルシャだけでなくて、テベンティラも無視した。


「とんでもないのと幼なじみなのね。テベンティラ嬢、苦労するわね」
「王女殿下。どうか、テベンティラとお呼びください」
「なら、私のことも名前でいいわ。ここに来てから、不愉快な目にあっていたけど、あなたのようなまともな人を見てホッとしたわ」


ヴァルシャは、チラッとシャルミスタを見た。それに頭に血が上りすぎていたシャルミスタは周りを見て、自分が何をしているかにようやく気づいたかのような顔をして、焦った顔をしていなくなった。

アラカナンダは、婚約者だからといってヴァルシャの側にいるのをやめようとしなくて、それにヴァルシャだけでなく周りも、怪訝な顔をせずにはいられなかった。


(まだ、婚約者気取りなのね)


そう思っているのは、テベンティラだけではなかった。


「ヴァルシャ様。よろしければ、学園の中をご案内いたします」
「待ってくれ。それなら、婚約者の私が……」
「いつまで、婚約者気取りでいるの?」
「え? 気取り??」
「婚約者がいるのに他の令嬢の誕生日にプレゼントを渡して、街にも2人っきりで出かけていたのでしょ? そんなのと婚約したままでいるわけないじゃない。この国では、それが当たり前だとしても、ダラム国ではそんなことしないわ」
「いや、たかが、プレゼントですよ。そんな意味深なものでは……」


アラカナンダは、言い直すのに必死になっていた。それをヴァルシャは不愉快そうにした。


「あの令嬢には意味深なものになっていたわ。婚約していることも伝えずにいるのもあり得ない。そんな子息と婚約し続けるなんて、もっとあり得ないわ」
「いや、だから、ただ女性の笑顔を見たかっただけで、君と中々会えないのが寂しくて……」
「寂しいと浮気しまくる男なんて論外よ。もう二度と話しかけて来ないで。テベンティラ、案内してくれる?」
「はい」


それでも、アラカナンダはしつこくして来て、そのたびヴァルシャの機嫌が悪くなるのにテベンティラは困ってしまった。

それこそ、心の中でさっさと帰れとボロクソに言っていたのはテベンティラだけではなかったが、鈍すぎるアラカナンダが察知してくれることはなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

幼なじみの言いなりになって、私の人生がいつの間にやら、じわじわと狂わされていたようですが、それを壊してくれたのは頼もしい義兄でした

珠宮さくら
恋愛
アポリネール国の侯爵家に生まれたエレオノーレ・ダントリクは、奇妙な感覚に囚われていた。それが悩みだと思っていた。抜け出せない悩みのようで、解決策は行動することだというのにそれもうまくできなかった。 そんな風に囚われている理由が何かも知らず、エレオノーレは幼なじみのわがままに振り回され続けていたのだが、それを蹴散らしてくれたのは、侯爵家の養子になって義兄となった従兄だった。 彼は、アポリネール国で幼なじみを見てもおかしくなることのない唯一の人物だったようで……。

聖女になることを望んでいない私を聖女にしたのは、義妹の八つ当たりでした。それを手本にしてはいけないことをわかってほしいのですが……

珠宮さくら
恋愛
アディラ・グジャラは、ひょんなことから聖女となった。聖女になりたがっていたのは、彼女の義妹であり、娘こそ聖女だと義母も父も、周りの誰もが思ってきた。それを応援する気はアディラにはなかったが、邪魔する気もなかった。 それなのに義妹は自分が聖女ではないとわかって、アディラに八つ当たりをしたことで、アディラが聖女となってしまうのだが、そこからが問題だらけだった。 最も聖女にするには相応しくない者が選ばれたかのように世界が、混乱と混沌の世界にどんどん向かってしまったのだ。 だが、それが結果的にはよかったようだ。

悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~

希羽
恋愛
​「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」 ​才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。 ​しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。 ​無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。 ​莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。 ​一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。

私の物をなんでも欲しがる義妹が、奪った下着に顔を埋めていた

ばぅ
恋愛
公爵令嬢フィオナは、義母と義妹シャルロッテがやってきて以来、屋敷での居場所を失っていた。 義母は冷たく、妹は何かとフィオナの物を欲しがる。ドレスに髪飾り、果ては流行りのコルセットまで――。 学園でも孤立し、ただ一人で過ごす日々。 しかも、妹から 「婚約者と別れて!」 と突然言い渡される。 ……いったい、どうして? そんな疑問を抱く中、 フィオナは偶然、妹が自分のコルセットに顔を埋めている衝撃の光景を目撃してしまい――!? すべての誤解が解けたとき、孤独だった令嬢の人生は思わぬ方向へ動き出す! 誤解と愛が入り乱れる、波乱の姉妹ストーリー! (※百合要素はありますが、完全な百合ではありません)

見知らぬ子息に婚約破棄してくれと言われ、腹の立つ言葉を投げつけられましたが、どうやら必要ない我慢をしてしまうようです

珠宮さくら
恋愛
両親のいいとこ取りをした出来の良い兄を持ったジェンシーナ・ペデルセン。そんな兄に似ずとも、母親の家系に似ていれば、それだけでもだいぶ恵まれたことになったのだが、残念ながらジェンシーナは似ることができなかった。 だからといって家族は、それでジェンシーナを蔑ろにすることはなかったが、比べたがる人はどこにでもいるようだ。 それだけでなく、ジェンシーナは何気に厄介な人間に巻き込まれてしまうが、我慢する必要もないことに気づくのが、いつも遅いようで……。

婚約破棄をすると言ってきた人が、1時間後に謝りながら追いかけてきました

柚木ゆず
恋愛
「アロメリス伯爵令嬢、アンリエット。お前との婚約を破棄する」  ありもしない他令嬢への嫌がらせを理由に、わたしは大勢の前で婚約者であるフェルナン様から婚約破棄を宣告されました。  ですがその、僅か1時間後のことです。フェルナン様は必死になってわたしを追いかけてきて、謝罪をしながら改めて婚約をさせて欲しいと言い出したのでした。  嘘を吐いてまで婚約を白紙にしようとしていた人が、必死に言い訳をしながら関係を戻したいと言うだなんて。  1時間の間に、何があったのでしょうか……?

美形の伯爵家跡取りが婚約者の男爵令嬢に破棄返しを食らう話

うめまつ
恋愛
君が好みに合わせないからだよ。だから僕は悪くないよね? 婚約解消したいと伝えた。だってこんな地味で格下の相手は嫌だ。将来有望な伯爵家の跡取りで見た目だって女性にモテるんだから。つれて回るのに恥ずかしい女なんて冗談じゃない。せめてかしずいて気分良くしてくれるなら我慢できるのにそんなことも出来ないバカ女。だから彼女の手紙はいつも見ずに捨ててた。大したこと書いてないから別にいいよね。僕が結婚したいんじゃないんだし。望んだのはそっちだよね。言うこと聞かないと婚約解消しちゃうよ? ※スカッとはしないかなぁ。性格クズは死ぬ間際もクズかな……(読み返してこういう感想でした) ※だらだら番外編書いてます。 ※番外編はちょっとじれじれと可愛いイチャイチャ雰囲気にまとまりました。

処理中です...