6 / 14
6
しおりを挟む「ヴァルシャ王女」
「王太子殿下」
学園に滅多に顔を見せないアニル国の王太子が現れたので、テベンティラだけでなく、周りも驚いていた。
だが、テベンティラはそれで固まっているわけにはいかない。カーテシーをした。ヴァルシャに挨拶する時もしたが、それ以上に敬意を表すものをした。
「殿下。この国では、浮気を平然となさるの?」
「浮気……?」
王太子は、何のことだと言わんばかりにして側近に目を向けた。どうやら、執務が忙しくて学園に滅多に来ないせいで、アラカナンダが何をしていたかを知らなかったようだ。
(そういえば、このお2人って従兄妹同士だったわね)
従兄妹と言っても同い年で、数日しか誕生日が違わない。そのため、王太子はヴァルシャのことを実の妹のように可愛がっていた。
だが、そんなヴァルシャが機嫌が悪い時は、殿下だの。王太子と呼ぶのだ。そのため、ヴァルシャが機嫌悪いのは、明らかとなっていた。
アラカナンダは、相変わらずヴァルシャの側につかつ離れずいた。それにテベンティラだけでなくて、一緒にいるようになったサルミラたちも困り果てていた。
何をしても、婚約者の側にいたがるのだ。もう、破棄は確定しているというのに。
側近が、簡潔にアラカナンダのことを話して、それを聞いた王太子は……。
「ヴァルシャ。この国の子息が、これと一緒だと思わないでくれ」
これと言われたアラカナンダは、何とも言えない顔をしていた。王太子はその後、王女に何をしたかを知って毒舌を炸裂させて、顔色を悪くしてようやく慌てて帰宅するのは、あっという間のことだった。
(あそこまで言わないと伝わらない子息が、トゥリパティ公爵家の跡継ぎだとは思わなかったわ)
誰もが、疲れた顔をしていた。
まぁ、そこから、アラカナンダとヴァルシャの婚約は破棄となった。ならないわけがないが、そしてすぐさまアラカナンダとシャルミスタが婚約することになった。それには、周りはびっくりしたが、くっつけたのはヴァルシャだと聞いて、何も言う者はいなかった。
「堂々と浮気するほどのようですから、あの2人を婚約させてあげて」
そんなことを両親とアラカナンダとシャルミスタの両親に笑顔で言ったのも、ヴァルシャだ。
それを耳にした王太子も笑顔だが、その目の奥は怒りに煮えたぐっていた。
「確かに優しいヴァルシャの言いそうなことだ。相思相愛のようだからな。遠慮して婚約できなくては、ヴァルシャが悲しむ」
王太子もまた、ヴァルシャが何をさせようとしているかに気づいて、アラカナンダの父親のトゥリパティ公爵とシャルミスタの父親である伯爵に婚約させてやってくれと言いつつ、それを拒むことも婚約を解消することも、今後破棄させることも、貴族であるうちはないと言う話をした。
「こんな風に王女との婚約を破棄させるようなことをして、婚約するんだ。2人の気が早々変わるわけはないだろうが、あんなのを跡継ぎにはしないだろう?」
アラカナンダの父は、王太子の言葉に頷いていた。
それによって、アラカナンダとシャルミスタは晴れて婚約者同士になることになったが、あんなことがあった2人が幸せそうにしているわけがなかった。
テベンティラは、婚約することになったと聞いて何とも言えない顔をしてしまったが、そのことでヴァルシャや王太子に何か言うこともなかった。もう、関わる気もなかった。
色々あったシャルミスタの手首からは、あれだけ大事にしていたブレスレットがなくなっていたのにすぐに気づいても、向こうがテベンティラに話しかけて来ることもなかった。
アラカナンダは、本命のヴァルシャとの婚約者さが台無しになったのをシャルミスタのせいにしていたが、シャルミスタも負けていなかった。
「婚約していた話をしないで、勘違いさせていた方がどうかしているわ!」
「はっ、そんなの勝手に勘違いした方がどうかしている」
「あんたのせいで、家族に白い目を向けられてるのよ!?」
「それは、こっちのセリフだ。お前が、ややこしくしたんだろうが!」
シャルミスタは、アラカナンダのせいにしていた。アラカナンダも、同じようにシャルミスタのせいにしていた。
2人とも、家族に白い目を向けられ、アラカナンダは跡継ぎから外されることになり、爵位については自分たちでどうにかしろと丸投げされていた。
貴族でいたければ、仲良くしていろと言われているのに2人は言い争ってばかりいた。
「あの2人、変わってませんね」
「前より煩くなったのでは?」
サルミラと他の令嬢たちは、言い争いを続ける2人にげんなりしていた。
2人は貴族で居続ける気のようだ。
183
あなたにおすすめの小説
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
幼なじみの言いなりになって、私の人生がいつの間にやら、じわじわと狂わされていたようですが、それを壊してくれたのは頼もしい義兄でした
珠宮さくら
恋愛
アポリネール国の侯爵家に生まれたエレオノーレ・ダントリクは、奇妙な感覚に囚われていた。それが悩みだと思っていた。抜け出せない悩みのようで、解決策は行動することだというのにそれもうまくできなかった。
そんな風に囚われている理由が何かも知らず、エレオノーレは幼なじみのわがままに振り回され続けていたのだが、それを蹴散らしてくれたのは、侯爵家の養子になって義兄となった従兄だった。
彼は、アポリネール国で幼なじみを見てもおかしくなることのない唯一の人物だったようで……。
聖女になることを望んでいない私を聖女にしたのは、義妹の八つ当たりでした。それを手本にしてはいけないことをわかってほしいのですが……
珠宮さくら
恋愛
アディラ・グジャラは、ひょんなことから聖女となった。聖女になりたがっていたのは、彼女の義妹であり、娘こそ聖女だと義母も父も、周りの誰もが思ってきた。それを応援する気はアディラにはなかったが、邪魔する気もなかった。
それなのに義妹は自分が聖女ではないとわかって、アディラに八つ当たりをしたことで、アディラが聖女となってしまうのだが、そこからが問題だらけだった。
最も聖女にするには相応しくない者が選ばれたかのように世界が、混乱と混沌の世界にどんどん向かってしまったのだ。
だが、それが結果的にはよかったようだ。
悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~
希羽
恋愛
「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」
才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。
しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。
無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。
莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。
一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。
私の物をなんでも欲しがる義妹が、奪った下着に顔を埋めていた
ばぅ
恋愛
公爵令嬢フィオナは、義母と義妹シャルロッテがやってきて以来、屋敷での居場所を失っていた。
義母は冷たく、妹は何かとフィオナの物を欲しがる。ドレスに髪飾り、果ては流行りのコルセットまで――。
学園でも孤立し、ただ一人で過ごす日々。
しかも、妹から 「婚約者と別れて!」 と突然言い渡される。
……いったい、どうして?
そんな疑問を抱く中、 フィオナは偶然、妹が自分のコルセットに顔を埋めている衝撃の光景を目撃してしまい――!?
すべての誤解が解けたとき、孤独だった令嬢の人生は思わぬ方向へ動き出す!
誤解と愛が入り乱れる、波乱の姉妹ストーリー!
(※百合要素はありますが、完全な百合ではありません)
見知らぬ子息に婚約破棄してくれと言われ、腹の立つ言葉を投げつけられましたが、どうやら必要ない我慢をしてしまうようです
珠宮さくら
恋愛
両親のいいとこ取りをした出来の良い兄を持ったジェンシーナ・ペデルセン。そんな兄に似ずとも、母親の家系に似ていれば、それだけでもだいぶ恵まれたことになったのだが、残念ながらジェンシーナは似ることができなかった。
だからといって家族は、それでジェンシーナを蔑ろにすることはなかったが、比べたがる人はどこにでもいるようだ。
それだけでなく、ジェンシーナは何気に厄介な人間に巻き込まれてしまうが、我慢する必要もないことに気づくのが、いつも遅いようで……。
婚約破棄をすると言ってきた人が、1時間後に謝りながら追いかけてきました
柚木ゆず
恋愛
「アロメリス伯爵令嬢、アンリエット。お前との婚約を破棄する」
ありもしない他令嬢への嫌がらせを理由に、わたしは大勢の前で婚約者であるフェルナン様から婚約破棄を宣告されました。
ですがその、僅か1時間後のことです。フェルナン様は必死になってわたしを追いかけてきて、謝罪をしながら改めて婚約をさせて欲しいと言い出したのでした。
嘘を吐いてまで婚約を白紙にしようとしていた人が、必死に言い訳をしながら関係を戻したいと言うだなんて。
1時間の間に、何があったのでしょうか……?
美形の伯爵家跡取りが婚約者の男爵令嬢に破棄返しを食らう話
うめまつ
恋愛
君が好みに合わせないからだよ。だから僕は悪くないよね?
婚約解消したいと伝えた。だってこんな地味で格下の相手は嫌だ。将来有望な伯爵家の跡取りで見た目だって女性にモテるんだから。つれて回るのに恥ずかしい女なんて冗談じゃない。せめてかしずいて気分良くしてくれるなら我慢できるのにそんなことも出来ないバカ女。だから彼女の手紙はいつも見ずに捨ててた。大したこと書いてないから別にいいよね。僕が結婚したいんじゃないんだし。望んだのはそっちだよね。言うこと聞かないと婚約解消しちゃうよ?
※スカッとはしないかなぁ。性格クズは死ぬ間際もクズかな……(読み返してこういう感想でした)
※だらだら番外編書いてます。
※番外編はちょっとじれじれと可愛いイチャイチャ雰囲気にまとまりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる