姉の八つ当たりの対象の持ち主となっていましたが、その理由まで深く考えていなかったせいで、色々な誤解が起こっていたようです

珠宮さくら

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(レティシア視点)

私には、親友と周りに言っている令嬢がいる。エルマンガルドという令嬢だ。彼女のことを親友と言ったのは、私が最初だったりする。

エルマンガルドの性格が最悪だということは、出会う前から知っていた。私のことを目の敵にしていることも、私に負けるのが何より嫌なのも知っている。それは、親友と言うようになった後からだった。

それとお茶会で、エルマンガルドが暴れた時のこともしっかり覚えている。あれは、恐怖だった。悪夢を実現させたら、こうだろうという光景だった。

同じくあの光景を見ていた令嬢たちは、ただの悪夢と思うようになっていたが、私は忘れられなかった。無駄に記憶力が良すぎたようだ。

それから、しばらく出禁になっていたが、最近そのお茶会に現れるようになった。

でも、エルマンガルドがお茶会にまた出て来るようになる前に私は生まれて初めて、エルマンガルドに嫉妬したことがあった。


「初めまして、オルテンシアです」
「〇……? あなた、もしかして……、エルマンガルドの……?」
「妹です」
「っ!?」


ファミリーネームを聞いて驚いたが、全く似ていないエルマンガルドの妹こそ、私の理想とする妹だった。

それを自慢だとエルマンガルドは欠片も思っていないようだが、お茶会に前から参加しているかのようにしてオルテンシアにあれこれ教えることは、どれもトンチンカンなことばかりだったが、それを笑う気にもならなかった。

どうして、こんな最悪な令嬢の妹が、こんなにも私がほしかったものを持っているのかと思って腹が立って仕方がなかった。

そんなオルテンシアが婚約したのが、キルペリクという子息で最悪もいいところだった。どうして、こんなにいい子にこんな子息をあてがったのかと思ったが、姉が取る気のない子息を選んだのだと思った。

そんな子息なら、オルテンシアのことを妬んだり僻んだりしない。でも、だからといってあんまりすぎる。


「何も、あんなのと婚約させなくていいのにね」
「仕方がないわよ。あの姉がいるのだもの。昔のお茶会の時みたいに暴れられたら大変じゃない」


私は、それが一番の懸念だと思って他の令嬢たちの話を聞いて頷きそうになった。暴れたことを覚えている者は他にもいるのだ。


「あら、知らないの?」
「? 何のこと?」
「オルテンシア様の部屋で、あのお方、ストレスがたまると暴れているそうよ」
「え、そうなの!?」
「そうよ。オルテンシア様のお兄様が、オルテンシア様だけにぬいぐるみをプレゼントするのが気に入らないのもあるみたいよ。それにほら、レティシア様に負けるのが一番我慢ならないみたいで、そのぬいぐるみに八つ当たりしては、それをメイドたちが直しているそうよ。オルテンシア様の部屋には傷だらけのぬいぐるみが、飾られているそうよ」
「まぁ、それなら、新しく買い直せばいいのに」
「新しいのを見つけると同じことを繰り返すだけみたいよ。それにオルテンシア様は、自分のために買って来てくれたから、他は嫌だって新しいのをほしがらないみたい」


そんな話を私は、何度も聞くことになった。

私が一番ほしいものを持っているエルマンガルドが、自慢すべき妹を壊そうとしている。それが許せなかった。


「どうにかしなくては……」


婚約者からも、実の姉からも、オルテンシアのことを助けたいと思った。

するとキルペリクとの婚約をどうにかして、オルテンシアが解消しようとしていると耳にして、手伝えないかと思った。

だから、エルマンガルドを利用することにした。私がキルペリクと婚約する気だと言えば食いつくと思った。それは案の定すぐに食いついた。とてつもなく、わかりやすい。

更には、オルテンシアに良縁になる相手が好意を持っているから、留学させてみたらいいと手紙を彼女の父親に送った。

そして、仕上げは私もその国に留学することにしてあることだ。


「ふふっ、これでエルマンガルドに邪魔されないで、オルテンシアのことを独り占めできるわ」


そう、そのためにどの国に留学するかをオルテンシアに伝えてほしいと書いたのだが、それを知ったからか。知らされていなかったから、行きたいところに留学したのかはわからないが、オルテンシアはその国に留学して来ることはなかった。


「レティシア嬢。オルテンシア嬢は、一緒じゃないのか?」
「その、行き違いがあったようです」


オルテンシアに好意を持っていたのは、この国の王太子だったりする。良さげだから、ちょっとオルテンシアの方も好意的なようだとは伝えた。オルテンシアには話していないが、でもオルテンシアにはこういう男性が合うはずだと思ってのことだ。元婚約者なんかより、絶対にこちらの男性が当たりだ。

彼女の父親のようにエルマンガルドを怒らせたら面倒だとか、怖いと思うような中途半端な人ではない。オルテンシアに釣り合う人物を私は、きちんと選んだ。オルテンシアのことを一番考えて動いたのは、私だ。

更には、私は王子あたりと婚約して、義理の姉妹になることを目論でいたのだが、それがうまくいくことはなかった。それは残念でならなかったが、仕方がない。

オルテンシアが、この国にいないとなって、ショックだったが、別のところに留学したのを突き止めたため、エルマンガルドが暴れまわっても傷つくことはないことにホッとしていた。

でも、オルテンシアのためにと思って動いていたのがうまくいかなかったことで、自分の立場が危ういことになるとは思いもしなかった。

オルテンシアに好意を向けていた男性が激怒してしまったのだ。


「ちょっとした行き違いです!」
「ちょっとだと? 彼女が、誰と婚約したのか知っていて言っているのか?」
「え? 婚約したんですか?」


この国とは仲がいまいち良くない国に留学しただけでなく、その国の王族とオルテンシアが婚約したらしく、それによってこの国の王族を怒らせることになった私は、留学から戻っても家では針の筵になるとは思いもしなかった。

しかも、エルマンガルドが妹の元婚約者から溺愛されて大事にされていると聞いて絶句してしまった。


「何が、どうなっているのよ!?」


私は頭を抱えずにはいられなかった。







レティシアは頭が追いつかないことになっていたが、そんなことをしてまでオルテンシアと仲良くしようとしていたなんて誰も知ることもなかったことで、家族から厄介者として見られるようになって、エルマンガルドからは勝ち誇った顔を向けられる日々が待っているとは思いもしなかった。

そんな屈辱的な日々に腹が立って仕方がなくなったのは、留学から戻ってすぐのことだった。


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