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しおりを挟む(メイヴァント視点)
「……つまり、婚約者が自国に来ていることをそのお兄さんも気づいていないと?」
「そうなる」
それを聞いてジェンシーナの顔が呆れを通り越した顔になった。
「……馬鹿な兄弟がいたものね」
「だよな。あまりに馬鹿馬鹿しいから、ほっといてた。そのうち、おさまるだろうと。だが、流石に王太子も、怒っていたから見かけなくなるはずだ」
「怒っていたの? そうは見えなかったけど……」
王太子に会ったのに幽霊うんねんで、失礼なことをしていても、ジェンシーナたちよりあの子息が元凶なのはよくわかっているからと気にしなくていいと言ってくれていたが、そんなに怒っているようには見えなかったようだが、令嬢2人の前で怒りをあらわにする人ではない。女性の前で、滅多なことでは見せはしない。
一番心を許しているメイヴァントにだけ見せていた。2人に会うまでが大変だったのだが、メイヴァントはそれをジェンシーナに言う気はなかった。
ジェンシーナが不思議に思っているとメイヴァントは、遠い目をした。王太子の側近をしているから、ジェンシーナより王太子がどんな人物なのかを知っていた。更には他にも把握していることがあったが、それも王太子が自分で処理すると言われてしまっているため、手も口も出せない。
まぁ、ジェンシーナならばよいかと話すことにした。
「あの子息、フレイジェルール嬢にも、同じことをしたんだ」
「っ、!?」
ジェンシーナは、フレイジェルールと聞いてすぐに納得した顔をした。その名前をこの国で知らなければ後々大変なことになる。流石のジェンシーナでも、そのくらい把握していた。それにホッとしかけたが、メイヴァントはそれを悟られたら大変だと顔に出さないように気をつけた。
今日は、機嫌よく帰宅してもらいたかったのだ。ふてくされたままでは、メイヴァントが困る。
ジェンシーナのことより、隣国から養子に来たなら、養父母がまずは教えておかないとまずいところのはずだが、養父母は養子を得たことに疲れ切ったのか。一般常識だから、言わずともわかると思っていたのかもしれないが、隣国から来た子息がこの国の当たり前のことにすぐに馴染めるわけがない。
養子にしたなら、養父母がきちんと教えるべきところのはずだが、その辺が上手く噛み合わなかったようだ。
そうでないから、今回のことが起きるわけがなかった。そもそも、養父母は教えたと言うなら、その程度を養子にしたのだと思うしかない。
そんなことをずっとしていたなら、もっと早くにやめさせようと動いてきてもいいはずだ。相手が男爵家の養子なら、なおさらさっさと収集がついていてもいいように思うが、何かあるのかもしれないとジェンシーナは眉を顰め続けていた。
だが、フレイジェルールと聞いてからは、そりゃ駄目だと言う顔をジェンシーナはしていた。そもそもが、まずいことをしているのだ。今更、何を謝罪しようとも、許してもらえることはなさそうだとジェンシーナも思ったようだ。
「うわっ、王太子の婚約者だって知らなかったの?! だから、あそこでは何も言わなかったのね」
王太子は、婚約者のことを溺愛している。いくら、養子に来たとは言え、知らないでは済まされないことだ。つまり、あの子息は地雷を踏み抜いたようなものだ。この国で、その2組ほど怒らせたら、駄目なカップルがいる。片方だけでも、タダでは済まない。
それは国王や王妃に対してもそうだ。王太子は決して許さない。現にフレイジェルールを王太子妃にするのに難色を示した王妃が、どうにかして婚約者から降ろさせようとして、フレイジェルールに意地悪いことをしていたのを知られてしまったのだが、王太子はそんな人とは思わなかったと言い、今では王妃から距離を取ったままになっていて、和解する気はないようだ。
フレイジェルールの方も、王妃からきちんと謝罪されていないとして、知らぬ存ぜぬを貫いている大人げない王妃に子供のような方と王妃は言われていたりする。王妃の味方をしていた夫人たちは、王太子とフレイジェルールに弱みを握られているのか。大人しくなって、王妃はすっかり孤立している。取り巻きたちも巻き込まれたくないと距離を取っているのだから、恐ろしいとしか言いようがない。
そのことを聞かれると2人とも、にこにこしているのだが、目は殺気立っていた。だから、無闇矢鱈にそのことを聞こうとする強者も、ただの馬鹿もいない。みんな、暗黙の了解とかしている。
それは噂に疎いジェンシーナでも知っていることだった。ジェンシーナよりも、噂に疎い者も中々いないが、あの子息はその遥か上に位置していた。
しかも、王太子とフレイジェルールによって短期間でそんなことになったのだ。誰が、2人に勝てるというのか。まぁ、ジェンシーナは2人に喧嘩を売る気はないから、傍観しているだけだが、2人に関する話題にだけは極力、通り過ぎないようにしてはいる。
だが、ジェンシーナがまずいことになるかもしれないとメイヴァントが、それとなく話していることも多かったがジェンシーナがそれに気づいているかはわからない。
もう一組は、お互いのことよりも、ジェンシーナに関することで大暴れするが、そちらは今回のことは耳にする前に終わるはずだ。
「国王にも話して、王太子とフレイジェルール嬢のところから、ヴェブレン男爵家に苦情と抗議をするそうだ。ジェンシーナも、腹が立ったならしてもらえ」
「……いや、なんか、もういいかな」
王太子が、キレているのだ。ジェンシーナが何もせずとも、結末は変わらない。もはや、逃げ道などないようなものだ。謝罪しても、許す気はないだろう。
そんなことを思っているのがメイヴァントには丸わかりだった。ジェンシーナは、疲れたから関わりたくなさそうに見える。
「そうか? 俺は父上にしてもらうつもりだ」
それを聞いて、ジェンシーナは首を傾げた。なぜ、メイヴァントがそんなことをルード公爵にするのだろうか。ジェンシーナにはわけがわからなかったのだろう。それを見てメイヴァントは、ニヤつきそうになったが、表情を取り繕った。
ジェンシーナに知られるわけにはいかなかった。
「ルード公爵様に? 何で?」
不思議そうにジェンシーナは、メイヴァントを見てきた。だが、それをメイヴァントはあえて見ないようにした。
「……今日、早く帰って来いと言われなかったか?」
「ん? 言われたけど、他の令嬢たちが、そわそわしてたから先に帰したの。そしたら、私が全部やる羽目になっちゃって」
「……」
メイヴァントは、それに呆れた顔をしたが、早く帰って来いと言われたことを何で知っているのかについて、ジェンシーナは聞きそびれていた。もう、頭の中が疲れ切っていて、休みたかったようだ。
でも、休むのはまだ先になりそうだとメイヴァントは思っていたが、それもジェンシーナには伝えることはなかった。
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