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しおりを挟む「ジェンシーナ! やっと帰って来たか。あれほど、早く……あぁ、君と一緒だったか」
「すみません。ジェンシーナが、変なのに絡まれていて、対応していたら遅くなりました」
「ん? 変なの?」
ペデルセン侯爵であるジェンシーナの父は、玄関の近くで待っていたようだ。そんなこと初めてだったので、ジェンシーナはきょとんとした。
そこまで、遅くはなっていない。まぁ、早く帰って来いと言われたのに遅すぎるのは確かだが、何をそんなに早くしなければならないことがあるのだろうかとジェンシーナは、首を傾げた。
「ジェンシーナ。お帰り」
「兄様!」
ひょっこりと現れたのは、ジェンシーナの兄だった。留学したまま、あちらで一目惚れした令嬢と婚約して滅多なことでは戻って来ない兄が、いつも家にいるかのように部屋から現れたのだ。それに驚かないはずがない。婚約者の令嬢の両親にもすっかり気に入られているようだ。結婚したら、こっちに嫁いで来るのだから、今のうちはあちらで早めの義理の親孝行をしていると兄はジェンシーナに言っていた。
かと思えば、婚約した令嬢は、この国の方が好きで、婚約者である兄の両親に孝行したいと長期休暇になるとこちらにやって来ていた。何とも似た者同士だ。両親も、ジェンシーナも兄と婚約者の令嬢のことを既に家族のように思っている。
ジェンシーナは、兄を見て目を輝かせて、こんな事を言った。
「義姉様もいるの?」
兄がいるところに婚約者もいる。だから、兄の後ろにいるのかときょろきょろしたが、見当たらない。
どこにいるのかと言わんばかりに期待に満ちた目を兄に向けた。それに苦笑されてしまった。
「いや、今日は、私だけだよ」
「へ? 何で??」
「何でって、私の留学期間の延長に延長を重ねていたのも、ついに終わったってことさ。今年、卒業だからね」
兄の言葉にあぁ、そうかと思うだけだった。すっかり忘れていた。兄は学生気分を味わい尽くそうと飛び級しなかったのだ。
それは、兄の婚約者も同じで、これまた似た者同士だった。頭が良すぎる人の考えることは、ジェンシーナにはよくわからない。
「あ、そうなんだ」
「そうなんだ? 薄情じゃないか?」
「だって、あっちを義姉様と卒業するのかと思ってたんだもの」
「……それは、考えてなかったな」
兄は何やら考え出してしまった。父は、それに苦笑していた。
ジェンシーナの後ろにいるメイヴァントも同じような顔をしていたが、ジェンシーナにはよくわからなかった。
母はそわそわしながら部屋から出てきて、ジェンシーナとメイヴァントが一緒なのを見て、途端ににっこりした。
「あらあら、やっぱり、そうしているとお似合いね。婚約して、よかったわね。ジェンシーナ」
「はい?」
母にお帰りと言われるのかと思えば、全く違うことを言われた。
「こらこら、ドロテア。それは、私がジェンシーナにすることだ」
「あら、でも、一緒に帰宅したなら、もう知っていたのでは?」
「……え? あの、何の話??」
ジェンシーナは、両親が何を言いたいのかが全くわからなかった。
「うん。なんか、この顔ぶれが揃ったから、こうなるかなとは思ったけど……」
「??」
兄は苦笑していた。ジェンシーナは、1人取り残されたようになっていた。
いや、婚約と聞こえたが、あんなのに会った後だ。疲れ切っていて、頭が働かなくなっていた。
よくわからないとばかりに幼なじみを見た。
「メイヴァント?」
「つまりだな。俺たち、婚約したんだ」
「は?」
「だから、あの失礼な子息に婚約してない顔うんねんを訂正できるんだ」
「……」
訂正も何も、婚約していないと言ったのは、ジェンシーナだ。あの時は知らなかったとはいえ、わざわざすることだろうかと思ってしまった。
何というか。関わるだけで疲れそうなのだ。だが、メイヴァントはやる気のようだ。それだけはわかった。
わかったのだが、それでも誰と誰が婚約??とジェンシーナは、混乱していた。つまりは、全くわかっていない状態だった。
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