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しおりを挟む子供のいないヴェブレン男爵家が、とある遠縁をやっとの思いで養子にしたのだが、その子息はとんでもないことをしていたようだ。
それを知ったのは、割とすぐだったかというと苦情と抗議が来るまで夫妻は全く知らなかった。だが、知らなかったからといって、なかったことにはならない。養子にした辺りから、ずっとやらかしていたのだ。
「何で、今更、いっぺんに苦情と抗議が来るのよ!?」
今更、言うのかと言えるものまであった。でも、最近のもので、王太子とその婚約者のものを見て、合点がいった。この2人がやると知って泣き寝入りしてはいられないとばかりにしてきたのだろう。
「なんてことなの。2人がやるとわかって、言い始めるなら、ずっと黙ったままでも良かったはずなのに。なんて嫌味な連中かしらね」
ヴェブレン男爵夫人は、殆どが音も葉もない嫌がらせだと思っていた。便乗したと思っていたのだが、そうではなかった。
若い頃にヴェブレン男爵夫人に迷惑をかけられた者たちは、あの女がいるところかと思って面倒に関わりたくないと思った者が多かったのだ。そうでなければ、とっくにしていたことだった。そのうち、娘まで迷惑な目にあったことが、母親たちは我慢ならなくなったのだ。自分のことなら、我慢できた。だが、娘は関係ないのだ。そうしたことを悶々と考えていたところに他の貴族たちが、苦情と抗議をすると知って、やっぱりきちんとしなければと動いたに過ぎなかった。
養子にした子息の名前はエラート・ヴェブレン。他にいなかったのかと言われるが、いなかったのだ。このヴェブレン男爵夫人のことを知っていれば、養子にすらさせなかったかも知れない。いくら厄介払いをするにしても、さらなる厄介を背負うリスクは侵さないだろう。
だが、隣国でヴェブレン男爵家であろうとも跡継ぎになれるとわかって喜んで養子にした夫妻は、それを知らなかったようだ。
つまりは、あの子息にして、この親ありみたいな感じだったようだ。
そして、ヴェブレン男爵家の遠縁に血を感じずにはいられないような感じでもあったようだ。
「お前に婚約者なんていないだろ!」
苦情と抗議の山にヴェブレン男爵は、エラートを怒鳴っていた。だが、怒られている方は……。
「え? いえ、兄が教えてくれたので間違いありません」
「お前の兄が?」
「誂われたのよ」
ヴェブレン男爵夫人は、呆れた声を出した。男の兄弟とは、そういうものだと言わんばかりにしていた。
「そんなわけないです!」
「「……」」
エラートは頑なにそう言い、証拠だと言って手紙を養父母に見せた。それによって、ヴェブレン男爵夫妻は、養子にした兄のダグールとその両親に激怒することになった。
「なんてことなの。こんなことを弟にさせるなんて、意地悪いことをするわ」
「全くだ。あちらに言ってやらねば」
まるで、そちらの非があるのにこちらに来ているとばかりにした。だが、全てをあちらのせいにできる状況ではないのだが、ヴェブレン男爵夫妻は兄弟同士での行き違いのようにして終わらせようと思っていた。
だが、そんなことで終わらせられるような状況ではないことにこの頃は気づいていなかったようだ。
特にヴェブレン男爵夫人は、元公爵令嬢だったこともあり、こういうのを簡単に揉み消せると思っていた。でも、もう、そんなことをしてくれる後ろ盾などいないことをわかっていなかった。
ヴェブレン男爵の方も、いざとなれば妻の家に泣きついて、とんでもない誤解を受けたと泣きつけば何とかなると思っていたようだが、妻の実家が動くことは決してなかった。
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