見知らぬ子息に婚約破棄してくれと言われ、腹の立つ言葉を投げつけられましたが、どうやら必要ない我慢をしてしまうようです

珠宮さくら

文字の大きさ
10 / 15

10

しおりを挟む

子供のいないヴェブレン男爵家が、とある遠縁をやっとの思いで養子にしたのだが、その子息はとんでもないことをしていたようだ。

それを知ったのは、割とすぐだったかというと苦情と抗議が来るまで夫妻は全く知らなかった。だが、知らなかったからといって、なかったことにはならない。養子にした辺りから、ずっとやらかしていたのだ。


「何で、今更、いっぺんに苦情と抗議が来るのよ!?」


今更、言うのかと言えるものまであった。でも、最近のもので、王太子とその婚約者のものを見て、合点がいった。この2人がやると知って泣き寝入りしてはいられないとばかりにしてきたのだろう。


「なんてことなの。2人がやるとわかって、言い始めるなら、ずっと黙ったままでも良かったはずなのに。なんて嫌味な連中かしらね」


ヴェブレン男爵夫人は、殆どが音も葉もない嫌がらせだと思っていた。便乗したと思っていたのだが、そうではなかった。

若い頃にヴェブレン男爵夫人に迷惑をかけられた者たちは、あの女がいるところかと思って面倒に関わりたくないと思った者が多かったのだ。そうでなければ、とっくにしていたことだった。そのうち、娘まで迷惑な目にあったことが、母親たちは我慢ならなくなったのだ。自分のことなら、我慢できた。だが、娘は関係ないのだ。そうしたことを悶々と考えていたところに他の貴族たちが、苦情と抗議をすると知って、やっぱりきちんとしなければと動いたに過ぎなかった。

養子にした子息の名前はエラート・ヴェブレン。他にいなかったのかと言われるが、いなかったのだ。このヴェブレン男爵夫人のことを知っていれば、養子にすらさせなかったかも知れない。いくら厄介払いをするにしても、さらなる厄介を背負うリスクは侵さないだろう。

だが、隣国でヴェブレン男爵家であろうとも跡継ぎになれるとわかって喜んで養子にした夫妻は、それを知らなかったようだ。

つまりは、あの子息にして、この親ありみたいな感じだったようだ。

そして、ヴェブレン男爵家の遠縁に血を感じずにはいられないような感じでもあったようだ。


「お前に婚約者なんていないだろ!」


苦情と抗議の山にヴェブレン男爵は、エラートを怒鳴っていた。だが、怒られている方は……。


「え? いえ、兄が教えてくれたので間違いありません」
「お前の兄が?」
「誂われたのよ」


ヴェブレン男爵夫人は、呆れた声を出した。男の兄弟とは、そういうものだと言わんばかりにしていた。


「そんなわけないです!」
「「……」」


エラートは頑なにそう言い、証拠だと言って手紙を養父母に見せた。それによって、ヴェブレン男爵夫妻は、養子にした兄のダグールとその両親に激怒することになった。


「なんてことなの。こんなことを弟にさせるなんて、意地悪いことをするわ」
「全くだ。あちらに言ってやらねば」


まるで、そちらの非があるのにこちらに来ているとばかりにした。だが、全てをあちらのせいにできる状況ではないのだが、ヴェブレン男爵夫妻は兄弟同士での行き違いのようにして終わらせようと思っていた。

だが、そんなことで終わらせられるような状況ではないことにこの頃は気づいていなかったようだ。

特にヴェブレン男爵夫人は、元公爵令嬢だったこともあり、こういうのを簡単に揉み消せると思っていた。でも、もう、そんなことをしてくれる後ろ盾などいないことをわかっていなかった。

ヴェブレン男爵の方も、いざとなれば妻の家に泣きついて、とんでもない誤解を受けたと泣きつけば何とかなると思っていたようだが、妻の実家が動くことは決してなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。

佐藤 美奈
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。 そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。 バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。 逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

どうせ愛されない子なので、呪われた婚約者のために命を使ってみようと思います

下菊みこと
恋愛
愛されずに育った少女が、唯一優しくしてくれた婚約者のために自分の命をかけて呪いを解こうとするお話。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

佐藤 美奈
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」

佐藤 美奈
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」 アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。 「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」 アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。 気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました

さこの
恋愛
 婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。  そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。  それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。  あくまで架空のゆる設定です。 ホットランキング入りしました。ありがとうございます!! 2021/08/29 *全三十話です。執筆済みです

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

【完結】「お姉様は出かけています。」そう言っていたら、お姉様の婚約者と結婚する事になりました。

まりぃべる
恋愛
「お姉様は…出かけています。」 お姉様の婚約者は、お姉様に会いに屋敷へ来て下さるのですけれど、お姉様は不在なのです。 ある時、お姉様が帰ってきたと思ったら…!? ☆★ 全8話です。もう完成していますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...