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しおりを挟む男爵は、王太子の婚約がそんな風に破棄されたことを知り、それに娘が関わっていることを知って、オリーヴに何があったのかを問い詰めたのは、すぐだった。
それは、王太子と婚約しているミュリエルに対して相応しくない態度だったとして、オリーヴがミュリエルを責め立てたのは間違っていたと謝罪してきたのは、すぐだった。
その中に妹をいじめていたことについては触れていなかったのは、それを言っているのがトレイシーだけで、それを一方的に信じたオリーヴにきちんと調べたのかと聞いて、首を傾げたからと王太子も調べていないとわかり、呆れ返ったようだ。
そもそも、調べたところで、そんな事実はない。意地悪なんてする余裕もないほど、ミュリエルはいつも忙しくしていた。遊び呆けてばかりのトレイシーとは違って、顔を合わせる機会もほとんどなく、伯父がトレイシーの相手をしていたのだ。
それに調べずとも、そんなことする必要などないとミュリエルをよく知る者たちは思っていた。そんな必要もないくらいトレイシーのことを溺愛しているのをみんな知っている。
どこがそんなに可愛いのかと思うほどに可愛がっているのにこんな仕打ちをされたことに周りが怒っているほどなのをオリーヴは、知らなかったのだ。
だからこそ、トレイシーに利用されたようなものだった。
そして、そんなことになったのを聞いた公爵は激怒した。いつ振りになるのか。公爵家で、姉妹の目の前に父がいた。
ミュリエルは、ふと家族揃っているのが、母の葬儀以来なのを思い出してやるせない気持ちになってしまった。
しかも、今回はトレイシーがミュリエルの婚約者を奪った後のことだ。ミュリエルは見たことないほど、父が怒っているのに自分が叱られているわけでもないのに身を小さくしていた。
「ミュリエルの婚約を台無しにするとは信じられん! お前なんて、さっさと追い出しておけばよかった」
父がトレイシーのことを追い出そうとしていたことにミュリエルだけでなく、トレイシーも驚いていた。
なぜ、追い出そうとしていたのが姉妹揃ってわからなかった。いくらやることなすことが酷くても
、そんなトレイシーにそもそも父は最初から関わろうとはしていなかったのだ。
「そんな! 王太子と婚約したのにあんまりです! どうして、いつもお姉様ばかりを贔屓するのよ。私も娘なのに!」
ここで、今までの待遇の差にトレイシーがブチギレていた。
そして、それを擁護するように伯父は、こんなことを言った。
「そうですよ。兄上、トレイシーに対してあんまりです。婚約が破棄になったのは、ミュリエルに問題があったからですよ。それを全てトレイシーのせいにするなんて酷すぎる」
「っ、!?」
伯父は、今回のことを耳にするなり我が家に来ていた。ミュリエルのことを責め立て、トレイシーをかばっていた。まぁ、それはいつものことだが。
それこそ、ミュリエルに問題があったことより、一番の問題を抱えているのは伯父のように思えてならなかった。
それを聞いてミュリエルは、やはり伯父が妹に入れ知恵したのだと思った。こんな風にミュリエルのことを言っていたから、トレイシーもそういう考え方をするようになったのだと思いたかった。
「何があんまりだ! お前が、こいつの父親なのはわかっていたんだ。あいつが、お前とのことを死ぬ前に話してくれていた。この家にいることだけは、許してやったというのに。ミュリエルに問題があったと抜かすのか?! ふざけるな!」
「「「っ!?」」」
それを聞いてミュリエルとトレイシーは、え?と驚いた顔をした。
そこに伯父もいたが、姉妹はそちらは見ていなかった。
「え? 伯父様が、私の……?」
「そんな、言いがかりはやめてください」
伯父は、すぐさま兄である公爵にそう言っていた。
「父子鑑定はしてある。お前が父親だ」
「「っ!?」」
トレイシーだけでなく、伯父もショックな顔をしていた。どうやら知らなかったようだ。
ミュリエルは、今日あった中で一番びっくりなことが起こっていて、目眩がした。
「ミュリエル」
「そんな、お母様が不貞を働いていたなんて」
倒れそうになったミュリエルを支えたのは父だった。ただですら、婚約破棄になったばかりで、可愛いがっていたのが母は同じでも、父親が違うとは思いもしなかった。
通りで伯父が猫可愛がりするわけだと思いつつ、それで驚いているのもおかしいなと思ってしまった。
伯父は、どうやら母に似ているから可愛がっていたというか。珍しい色合いを持って生まれた2人を結婚させるのを渋ったことで、伯父でなく父と結婚することになったのだ。
その前に伯父は、伯母と結婚していたのだが、あちらに子供ができ、公爵夫妻に子供ができてから、どちらの子供も珍しい色合いを引き継ぐことなく生まれたことにやはりそんなので引き離されるのはおかしいと思うようになった頃にミュリエルたちの母の病気がわかって、なおさら本当に好きだった人の子供が欲しくなったようだ。
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