8 / 22
8
しおりを挟むあまりの態度の違いに見たことない令嬢を見ているような奇妙な感覚がミュリエルはしてならなかった。
あれが、トレイシーの本性だったのだ。それに気づかなかったのは、どうやらミュリエルと王太子とオリーヴくらいだったようだ。
通りで使用人たちは、伯父やトレイシーと距離を置かせようとしていたわけだ。そんなことに今更気づいても、ミュリエルの心が癒されることはなかった。
そのせいで、ミュリエルはしばらく寝込むことになった。トレイシーはケロッとしていたというのにおかしな話だ。
伯父とて、出生の秘密を知ってショックを受けていたが、それどころではなかった。
伯父の妻であるミュリエルの伯母は、我が子よりもトレイシーを可愛がっていた理由を自分の子供だと分かっていたからだと思った。まぁ、誰でもそう思うはずだ。
「違う! 知らなかったんだ!」
「……それが信じられるわけがないでしょ。息子まで連れて行って、ミュリエルの相手をパーシヴァルにさせて、自分はトレイシーを甘やかしていたのを知っているのよ。おかしいと思っていたのよ。義姉さんに似ているからって、あんなに休みのたびに会いに行くなんて、何かあると思ったいたのよ」
伯父が、父子鑑定も間違いだと言っていたが、やり直したところで覆ることはなかった。そもそも、そういう関係だったのだ。子供がいるいないに関係なく、不倫していたのに変わりはないことに伯父は気づいていなかった。
そんな証拠となる子供がいなければ、不倫していたこともあちらは死んでいるのだからバレることはないと思っていた。最低な男だった。
その頃には、パーシヴァルを連れて実家に行ってしまっていて、しばらくしてこの2人は離婚した。元より、家のことを夫人に任せっきりで、公爵家に入り浸っていたのだ。こんなことがなくても離婚していてもおかしくはなかった。
息子であるパーシヴァルは、父親に失望して父と一緒にいたくないと言い、家の跡継ぎにもなりたくないとまで言い出したのも、すぐだった。
そんな風に大揉めすることになったが、トレイシーはそんなの我関せずのまま、王太子の婚約者になれたことに浮かれていたのと甘やかしてくれていた人が実父だったとわかり、玉の輿に乗る娘を自慢に思うものと思っていた。
パーシヴァルたちのことなど、トレイシーが気にする素振りもなかった。元より、自分のことばかりなのだ。周りがどうなろうとも気にもしないのが、トレイシーだ。
怒涛の展開となったミュリエルは、オリーヴにも王太子にも、ましてや溺愛していたのにいいように利用して、自分だけが幸せになることに躍起になっている父親違いの妹に会いたくなくて留学をすることにした。
これ以上、傷つきたくなかった。父が、一番傷ついた顔をしていたのも、見たくなかった。あんな風に言うつもりはなかったのだろう。
でも、怒りのあまり言いたくなるのも無理はない。だから、この家にいる時間をずらしていたのだ。ずらした結果、実の娘との時間を持てなかったのだ。
それでも、公爵家にいさせたのは、トレイシーに罪はないと思っていたからかもしれない。それが、姉から婚約者を奪ったことで、やはりと思うことになってしまったようだ。
父がしていたのが、今のミュリエルならよくわかる。ミュリエルも、会いたくはない。だから、留学するのだ。そこが似ているなと思って苦笑してしまった。
それに従兄も、父親が祖父と愛人の子だと知って、どうしているかも会って話すことができる心境ではなかった。
自分のことで手一杯になりすぎて、従兄にも伯母にも心無いことを言ってしまいそうで離れることにした。
それにこの国にこのままいても、学園で王太子とトレイシーが一緒にいるのを平然と見ている余裕も、ミュリエルには残っていなかった。
157
あなたにおすすめの小説
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
【完結】愛くるしい彼女。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。
2023.3.15
HOTランキング35位/24hランキング63位
ありがとうございました!
(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。
婚約解消の理由はあなた
彩柚月
恋愛
王女のレセプタントのオリヴィア。結婚の約束をしていた相手から解消の申し出を受けた理由は、王弟の息子に気に入られているから。
私の人生を壊したのはあなた。
許されると思わないでください。
全18話です。
最後まで書き終わって投稿予約済みです。
【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます
かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。
そこに私の意思なんてなくて。
発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。
貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。
善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。
聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。
————貴方たちに私の声は聞こえていますか?
------------------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
私の方が先に好きになったのに
ツキノトモリ
恋愛
リリカは幼馴染のセザールのことが好き。だが、セザールはリリカの親友のブランディーヌと付き合い始めた。
失恋したが、幼馴染と親友の恋を応援しようとする女の子の話。※連作短編集です
婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる