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しおりを挟むミュリエルが留学してからの学園では、いつの間にか見慣れた光景となっていた。
その前までは違う令嬢が、そうしていた気がするがそれよりも酷いことになっていた。
いや、元々入学してから酷かったから、今更なところもあるが、トレイシーが学園の中をうろちょろしているのが見えて、それを見た令嬢が呆れたように言葉にした。
「また、誰かさんが王太子を探し回っているようね」
それを見ようともせず、そこにいた他の令嬢が、こう言った。
「王太子妃の勉強も、最近はちっとも進んでいないみたいよ」
「それどころか。授業もサボってばかりいるみたいね。授業を邪魔されないって、喜んでいるのを聞いたわ」
「確かにいたらいたで、邪魔なのでしょうね」
元よりサボっていなくても、授業についていけているかも怪しいレベルでしかないトレイシーが、いないことを喜んでいるとは何とも皮肉なことになっている。
どこをやっているのかもわからずに当てられると頓珍漢なことを回答していたようだ。それがなくなったのにホッとしているようだ。
そんなのを王太子は、婚約者に選んだのだ。
何でもできて、王太子の婚約者としてミュリエル以上の令嬢などいないと誰もが思っていたというのに。それを破棄して選ばれたはずの妹が、そんなことをしていた。
逆にトレイシー以上に相応しくない令嬢はいないと思われているというのに何を考えて婚約者に選んだのか。未だに王太子が、どんな考えの末にそんな答えを出したのかがわかった者はいない。
それこそ、公爵家にいた時から、何一つ頑張ってはきていない。いや、頑張っていたのは、その日その日を目一杯遊び呆けることだったようだが、実父に甘やかされていたトレイシーの言葉に踊ろされた王太子にもびっくりだ。
そんなんだから、オリーヴの貴族令嬢として無知なところも許してデレデレしていられたのだろう。王太子を王太子としてではなくて、どこにでもいる子息のように扱うのが良かったようだ。
「あの令嬢があぁしている理由を知ってる? 王太子の婚約者として王太子の側にいないといけないからですって。……馬鹿丸出しよね」
トレイシーのやることなすことで、そんな風に話す人たちは日に日に多くなっていた。
馬鹿みたいだが、トレイシーはそれが王太子の婚約者の務めだと思っているようで、それを本気でしていた。
きっと他のことをやりたくないから、もっともらしいことを言っているが、物凄く間抜けなことをしている自覚がないのは確かだ。
それこそ、前までミュリエルがトレイシーに言われて男爵令嬢に色々していたが、トレイシーが姉に言っていたよりも間抜けに見えず、その通りだと思わせていたのも、ミュリエルがオリーヴに恥をかかせては可哀想だと思っていたからに他ならない。
決して意地悪で責めていたのではないからこそ、トレイシーの今の状況とは全然違ったのだ。
公爵家でも、トレイシーは好きなことしかしてこなかった。実父だった男が、公爵家に入り浸ってトレイシーを甘やかした結果が、これだ。勉強なんてしなくてもいいかのようにしていたツケが、今、現れているのだ。それだけだった。
実父からしたら、出来すぎる令嬢よりできない方が可愛げがあると思っていた。元妻の方ができると思われていて、色々言われていたのも大きかったようだ。
トレイシーは、そんな考えを持っていた人と長く一緒にいたせいで、酷いことになっていたが、王太子を奪うことにしたのは、自分で考えてしたことだ。
ミュリエルを利用したことで、上手く行き過ぎてしまって、幸せになるのが難しいと言われるのを体現しようとしているとは、トレイシーも気づいていなかった。
それにうんざりしているのが、王太子だ。ミュリエルと婚約破棄したのを周りから責められ、よりにもよってなぜ、そちらと婚約したんだと思われ、散々言われていた。自業自得でしかない。
珍しい色合いを持つ特別な令嬢だから婚約者にしたと言えば聞こえがよさそうだが、祖父母の世代はそんなのを婚約者には決して選ばせなかった。
それをジンクスうんねんと言っているのをよく聞いていた両親世代は、やはりそうなったかと思うようになっていた。
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