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しおりを挟む(パーシヴァル視点)
突然のことだった。叔父に呼ばれたかと思えば、養子にしたいと言われたのだ。
最初、聞き間違えたのだと思った。だって、あんなことをした男の息子だ。それに祖父の愛人との間に生まれたのが父だと分かったのだ。
それを公爵家の跡継ぎにしたいからと言われるとは思うわけがない。
だから、同情からなら受けられないと思っていた。それに要らぬことを言う者も現れることになりかねない。祖父のことはバレていなくても、その事実が変わることはない。
私が、本当は公爵の実子なのではないかと言われるのだけは避けたい。そんなことになれば、母上を今以上に悲しませる。
公爵とてわかっているはずだ。タイミングが悪すぎる。なのになぜ、そんな話を呼び出してまでするのかが、私には分からなかった。
「ミュリエルのためなんだ」
「ミュリエルの……?」
なぜ、そこで従妹の名前が出るんだと首を傾げたのは無理もないはずだ。わけがわからない顔をしている私にこんなことを話してくれた。
隣国で国王に見初められたことを教えてくれた。それに驚いたが、ミュリエルなら国王に見初められるのは無理はないとすぐに思えた。
そもそも、元王太子は見る目がなさすぎたのだ。あんなにも婚約してから努力し続けていたのに。それすら見ようとせずにミュリエルに事実確認をすることもなく、きちんと調べもせずに決めつけたのだ。
あちらとの婚約が破棄になったのは、良かったことなのだ。
「この家の跡継ぎは、あいつがいなくなって、自分の婚約も破棄になったから、この家を継ぐのは自分だと思っているんだ。だが、そんなことで断らせたくない」
「隣国の国王陛下は、人柄がよい方ですからね」
「あぁ、若くして国を治められているだけはある」
そんなことを話しても、私は母と相談すると言って即答しなかった。
母とて、ミュリエルのことを話せば、断れとは言えないはずだ。母も、ミュリエルのことをずっと気にかけていた。
それと同じくらい叔父も、私を気にかけてくれていたのだ。実の父にそんな心配は一度もされたことがないが、叔父は違っていた。
「母上。ただいま戻りました」
「お帰りなさい」
叔父と何の話をしてきたのかが気になる顔をしていても、私が口にするまで聞くことはなかった。
だから、何食わぬ顔をして話をした。私が叔父から聞いた話をしばらく思案する素振りすら母は見せることはなかった。
まるで、そうなるのはわかっているかのように見えてならなかった。
「あなたなら、どこの家の養子になっても、養子先に恥をかかせることはないわ」
「母上」
「でも、そうね。公爵は、私とも話したがるでしょうね」
「……」
そう言って、しばらくして話し合いの末に私は公爵家の養子になった。
何を言われても母は、蹴散らせるだけのことをこれまで散々父にされてきたとばかりにしていて、すっかり逞しくなった母を見て、公爵も何とも言えない顔をしていた。
それは、私も同じで同じような顔をしていたに違いない。昔から、ミュリエルとよく似ていて、兄妹だと思われることもあった。父の珍しい色合いを持たずに生まれた私は、叔父に似ていた。
もっと言うと祖母に似ているということになる。そこも、祖父に似ていたら祖母からは疎まれていた可能性があるが、そうならなかったから良かった。
そうなった原因が、公爵の弟である父だと思っていたが、祖父からだったのだ。複雑でしかない。
それに兄の嫁と不倫して、産ませた子供を自分の子供ではないかもしれないからと可愛がっていたのだ。それが、実子だとわかって、可愛くなくなるというのがおかしすぎるのだ。
まぁ、腹違いの妹のことなんて、どうでもいい。あちらは、私にどうこう思われたくないだろう。
そんな私は棚からぼた餅ではないが、ミュリエルのおかげで予期せぬ跡継ぎとなれた。
「ミュリエルには、感謝してもしきれないな」
そんなことを思いつつ、ミュリエルが幸せになることを願わずにはいられなかった。
それなのに腹違いの妹は、どんどん酷くなっていて、頭の痛いことばかりをやらかしていて学園で見かけるたび、恥ずかしくてならなかった。
あれは、父がわがまま放題にさせていたツケだ。
好き勝手させて、勉強させずにいたからあぁなっていることに父はわかっているのやら。
……父のことだ。恥をかかせた娘なんて、ほしくなかったと言うだろう。そういう人だ。
自分は何もしていないのに。私が頑張ってきたことすべてが、自分に似ているからだと言える人だ。
そんな人から離れられて、よかったとしか思えなかった。
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