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しおりを挟む「ヴィリディアン。いいの?」
「ん?」
「あれよ、あれ」
「……」
学園で、ヴィリディアン・ダブラルはのんびりと友達とお茶をしながら過ごしていた。
何なら、声をかけられるまで休日にどこに行くかで白熱していた。ヴィリディアンとしては、新しくできたお菓子屋が2つほどあるらしいから、食べ比べをしたいところだが、そんなことしたら太ると言われていた。
そう言っている令嬢たちは、ヴィリディアンよりもスリムだったりする。ヴィリディアンは決して太っているわけではない。太るとは言わない令嬢が、一番複雑な顔をしているが、体型のことは言わずにおく。
そんなことをしているところで、ヴィリディアンは突然幼なじみのクオーラ・シャルマに声をかけられたのだ。何の前触れもなかったし、それまで全く別の話をしていたこともあり、きょとんとしてクオーラを見て、説明する気がない顔から、ヴィリディアンは何のことかと幼なじみが指差す方をとりあえず見た。
何なら、幼なじみに声をかけられるのは久しぶりな気がしてヴィリディアンは首を傾げたくなっていた。こんなに会わなかったのは、初めてではないかと言うほど、会っていなかったはずだが、そんなこと幼なじみにはどうでもいいようだ。
ヴィリディアンも、どうでもいいところだが、1ヶ月ぶりに会った気がする。もっとだったかもしれない。そういえば、噂であの家の人たち、みんなが食中毒になって大変だったとか言われていた気がする。
幼なじみなため、全く知らないヴィリディアンがあれこれ聞かれたのが、そのくらい前だったはずだ。あれは、いい迷惑だった。
すぐに質の悪い風邪を引いたとクオーラの家が広めたようで、本当のところはわからないままだ。ヴィリディアンは、特に興味なかったから、深入りしなかった。
そんなクオーラが、久しぶりに会ったはずなのにいつも通りすぎて、ヴィリディアンは何に驚けばいいのかがわからなくなっていた。この令嬢の幼なじみも、中々大変だ。
一緒にいたヴィリディアンの友達も気になったのか、クオーラが指差す方向を何気なしにしながら、興味ありありな目で見ていた。
ヴィリディアンは、目はそんなに悪くはないが、良くもない。特に変わったものはないが。何を言いたいのだろうか?全くわからない。
そんなことを思ったのは、ヴィリディアンだけではなかったはずだ。変わった風景は、どこにもなかった。
この学園では、ありきたりな光景しかない。だが、わざわざ視界に入れておきたい光景でもない。そんなのを見ているなら、休日の予定を決めたいところだ。
だが、この幼なじみがいる間はできない。一体、何が言いたいのやら。知りたくないが、ヴィリディアンは言葉を紡ぐことにした。埒が明かないと思ってのことだ。
「……いいって、何のこと?」
「何って……、まぁ、いいわ。あなたが、それでいいなら、何も言わないわ」
「……」
何やら呆れた顔をしてクオーラは、どこかに行ってしまった。クオーラは痩せたというより、やつれたように見える。短期間に異様なダイエットでもしたみたいに見えるが、ヴィリディアンはそのことに触れなかった。
残されたヴィリディアンは、首を傾げるばかりだった。わけがわからない。まぁ、幼なじみの難解さは今に始まったことではないが、今回は特に難問のようだ。
解かないと駄目だろうか?面倒だなとヴィリディアンは思っていると……。
「……今の何?」
「ヴィリディアン。幼なじみなのでしょ? どういう意味なの?」
一部始終を見ていた友達は、ヴィリディアンに聞いてきたがわかるわけがないと思うのだが、幼なじみだと知らないと駄目なようだ。
そんなオプションいつついたのだろうか。他にも幼なじみは、色々と面倒でやめたいと思うことが多すぎて困る。
「わからない。前から、クオーラの思考は複雑怪奇で難解すぎるんだもの」
「確かに。解けたところで、楽しくなさそうよね」
そう言いながらも、気になってしまっていた。お喋りを再開するより、ヴィリディアンたちはクオーラが指差した先にいる子息をもう一度見ることにした。
ちょっとした中毒性でもあるのではなかろうか。クオーラの残した言葉を頭の中で反芻しつつ、ヴィリディアンはため息をつきたくなった。
そこには楽しげに他の令嬢たちとお喋りしている子息が一番目立って存在していた。彼の名前は、ディリッパ。この学園では知らない者が少ないくらい有名だ。そんなのいないのではなかろうかと思うほどに目立っている。
知らなくていいことで、目立っている子息だ。
ふと、思い出したようにぽつりと呟かれた。それは、ヴィリディアンも気づいたことだった。
「あの子息、婚約したばかりよね? あんな風にしてていいのかしらね」
「え? ついに婚約したの?」
「一体、誰と?」
誰も知らなかったようで首を傾げる中で、ヴィリディアンが答えた。思い当たるのは、それしかなかった。でも、先程のこともあり辻褄が合わなくて思考がぐるぐるしていた。
「クオーラ」
「「「え?」」」
ヴィリディアンの言葉にぎょっとして、全員がヴィリディアンを見た。
ちょっと怖い。ヴィリディアンは、何も悪くないはずだが、責められているようで眉を顰めずにはいられなかった。そして、自信が薄れていく。そうだと聞いたと思うが、興味なくて適当に聞いていたから、違ったのかもしれない。
「クオーラがした、はず」
「「「……」」」
それなのになぜ、ヴィリディアンのところに来て、あの子息をどうにかしろみたいに言うのか。ヴィリディアンは、本気で何を言いたいのだろうかと思っていた。
それと同時に面倒なことに巻き込まれた気がしてならなかった。
「でも、さっきの感じだとヴィリディアンに止めさせようとしてましたよね?」
「そう、よね」
「自分の婚約者を幼なじみにどうにかさせるなんて、流石に……」
「だけど、あの人、婚約している令嬢にあーだこーだとその令嬢の婚約者のことをよく言っているわよね?」
「あー、酷い難癖の時あったわね」
「ヴィリディアンが、その令嬢に怒鳴られてたっけ。あんたの幼なじみをどうにかしろって」
「……」
「あれも、酷かったわよね」
そうなのだ。ヴィリディアンは、とばっちりでその令嬢に怒鳴り散らされた。全く関係ないただの幼なじみだと言うのに。
でも、その令嬢は婚約者から八つ当たりをしたと言われて、ヴィリディアンにあとから謝りに来てくれた。
婚約者の子息も一緒になって、頭を下げてくれて、今ではすっかり仲良くなった。滅多にないが、クオーラ関連で仲良くなれたのだ。
まぁ、大概は惚気を聞くことが多いが。幸せそうにしていて、婚約が台無しにならなくて、よかったとは思っている。惚気は程々でいい。
「でも、ヴィリディアンは婚約しているものね。間違えるわけがないわよ」
「……」
それを聞いてヴィリディアンは、首を傾げた。
「ヴィリディアン?」
「……そういえば、幼なじみにしてなかったかも」
「いやいや、してなくとも知ってなきゃ変でしょ!」
「そうよ。みんな、あなたにあれだけ祝福していたじゃない」
「ん~、でも」
ヴィリディアンは、歯切れ悪くその先を言いたくなかった。
「あ、そういえば。具合が悪い時で、あの人、休んでいた時じゃない?」
「「あ、食中毒」」
「質の悪い風邪ってことになってるやつよ」
「……」
ヴィリディアンの友達が食中毒だと思っているのは、クオーラを見てのことだろう。
だが、そっちの正解よりもヴィリディアンは、婚約者のことを変に勘違いしているのではなかろうかと思っていた。
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