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しおりを挟む「団長! 新人二人が偵察から戻りません!」
「あ?」
「っ、」
そんなことを思っているところで、そんなことを言われて空気が一気にピリっとした。殺気立つエドガーに睨まれることになった報告した騎士は、震え上がって腰を抜かしていた。
「どいつだ?」
「ルドヴィクとオーギュストのようです」
「あいつらか」
震え上がった騎士と違い、テオドールはすぐに答えていた。彼は、この騎士団の副団長となって、日は浅いが、彼はエドガーの苛つきで一々震え上がるほどの男ではなかった。見た目は優男で、顔立ちの整ったイケメンで、騎士団でやっていけるのかと思われることが度々あるが、先程から戦闘狂と言っているのは、この男のことだったりする。見た目で、馬鹿にしていると痛い目を見る相手だった。
戦うとなると鬼のように強いのだ。それこそ、害獣を倒す数も桁が違うのだが、それをひけらかすことをしない男で、何より褒美代わりにほっといてほしいと言うような男なため、誤解されているところが多かった。若いながら、副団長を任されるだけの実力はあるのだ。
それこそ、戦闘狂の部分は配属されている騎士団以外で中々広まらず、女嫌いで有名な人物となってしまっていて、見目麗しいのに女に興味ないと思われてあらぬ誤解を囁かれてもいるようだ。それを気にしてもいないようで、実はかなり気にしているのかも知れないことは前にもあった。
女嫌いなだけでなくて、男が好きなのだと言われているのだ。他の騎士団から、副団長になったばかりの頃にそれで地位を得たと嘲笑った騎士たちがいたのだ。命知らずな者がいたものだ。それが、あまりにも酷かったため、エドガーはその騎士団と訓練をすることにした。それもこれも、テオドールは気にしていないと言いながら、私物を飴細工のように壊しまくるのを見かねてのことだ。これは、発散させないと大変なことになるとエドガーは思ってのことだった。それは、いい判断だったと思っている。
テオドール一人で、馬鹿にしていた騎士たちを戦闘不能にし続けたのだ。あれは、同じ騎士団の者たちも震え上がるほどの恐ろしい光景だったが、相手の騎士団の面々の方が怖かったことだろう。テオドールは、害獣に比べたら、あまりにも歯ごたえがなくて全く楽しめるものではなかったようだが。
それこそ、害獣討伐の際は、害獣たちが時折、怯えて若干可哀想になるほどだが、そいつらは知らなかったのだ。それを知らない奴らの心配などしてやるつもりもないが。エドガーは、それを冷めた目で見ていて止める気はなかった。
……というか、中途半端にとめて鬱憤がたまるよりは、発散させた方が安全だと思ってすらいた。
「次は?」
息一つ乱すことなく、涼やかな顔でテオドールはそう言ったことで、もうおしまいにしようなんてあちらは言えず、エドガーもこの際だからと好きにさせていたら、一人で半分以上も戦闘不能にしてしまっていたことに苦笑してしまった。しかも、軽々と暴れているが、あちらの騎士団も中々の猛者揃いのはずだった。きっと害獣を相手にしている方が、まだマシだと思っていたに違いない。
流石に半分も戦闘不能にしてしまっては、あちらの騎士団にも悪いとあまり思ってもいないことで、エドガーは言葉を紡いだ。
前々から、相手の騎士団の団長と反りが合わなかったのだ。和気あいあいなんてやってられるかと思っている面もあった。要するに鬱憤が溜まっていたのは、テオドールだけではなかったのだ。
「て。お前ばっかり楽しむな。他の奴らに回してやれ」
「……そうですね。申し訳ありません。あまりに歯ごたえがないので回しても、仕方がないかと思って片付けてしまおうかと思ってしまいました」
「っ、貴様、よくも」
「このまま、私が終わらせてもいいんですが、流石にそれでは、そちらの騎士団としては困りますよね?」
「っ、」
「私がやらずとも、負けるような者は私の所属している騎士団にはいないと思いますが」
「確かにここで日頃の成果を発揮できないなら、もっと厳しい訓練が必要になるだろうな。口より、騎士として武に長けていなくてはならんだろうからな」
それこそ、副団長を馬鹿にしたことでエドガーたちの騎士団は怒っていたが、テオドールの暴れっぷりにとんでもないところに所属していると思ったようだが、相手の騎士団の面々はテオドール以外なら簡単に勝てると思っているのがありありとわかって、誰もが本気でやった。圧勝もいいところだった。
それ以降、エドガーたちの騎士団を馬鹿にする者たちはいなくなった。同じ騎士団に所属している騎士も、テオドールにしばらく怯えていたが、あれを見たら仕方がない。
そんな男であるテオドールが、エドガーの苛立ち一つで震え上がることなど見たことはなかった。それどころか、久々に本気を出せると喜んでいるようにも思える。この討伐の任務を楽しめるのは、彼くらいだろう。
エドガーは、新人二人のことで思案していた。手柄をあげようとするような奴らではなかったはずだ。
「迷ったか」
「そのようです」
テオドールの言葉にエドガーは眉を顰めずにはいられなかった。新人たちだけで、偵察なんてさせるなと伝えたはずだが、偵察程度は新人の務めだとでも思って率先して新人たちがでかけたのかも知れない。
「すぐに探すぞ」
「はっ。皆を集めます」
日が落ちる。早く見つけなくてはならない。新人二人程度では、あの害獣は倒せないだろう。一対一で倒せるのは、テオドールくらいだ。それでも、テオドールだけに探させて、助けて来いとはエドガーは言わなかった。騎士団は、家族だ。家族は、家族みんなで迎えに行くものだ。誰か一人に押し付けたりしない。そのため、この騎士団は他より団結力が強かった。
そんなことを思っているのは、エドガーだけではなかった。新人二人が戻らないと聞いて、他の騎士たちも大変だと探す準備をし始めたのは、すぐだった。
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