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しおりを挟む「あの、私、お仕事の邪魔ですか?」
「ん? いや、そんなことないよ」
そう言いながらも、ルドヴィクは油断せずに周りを気にしていた。彼は、自分が何しにここに来たのかを完全には忘れていなかった。害獣の討伐は、命がけだと聞いていたのだ。毎年のように怪我人を出し、死者は出ずとも除隊する者をだす程だと聞いていて、彼の周りにも大怪我をして除隊した者がいた。そのため、家族みんなからは騎士団に入ることで揉めに揉めていて、ルドヴィクは討伐命令が出たことを家族に話せないまま来ていた。そんなことをすれば、家族が心配して、騎士団を辞めろと再び騒がれることになると思ってのことだった。それが、怪我したと知られたら騒がれるだろう。何より一般人を守りきれずに逃げ惑ったなんて知られたら、更に色々言われることになるだろう。更には、それが女の子だったならなおさら命がけで守りきれと言うような家族だ。だが、まだ彼は女の子ではなく、男の子だと思っていた。歳の頃も差があるとすら思っていた。
そこにガサッと音がして、一般人を庇うように立っていた。怖くてたまらないが、男の子に怪我なんてさせられない。かつて、自分がしてもらったことを騎士となった自分が、この場を何とかしなくてはと思っていた。
「大丈夫。私が……」
「あ、美味しそう」
「ん?」
ついてるから、心配ないと声をかけるはずだった。でも、少年はこの雰囲気の中でありえないことを口にした気がする。
ルドヴィクは、自分の耳を疑っていた。気のせいだと思いたかった。うん、絶対にそうだ。恐怖で、耳がおかしくなっているだけだ。
「食べ頃なのが増えた」
「……えっと、二匹だから、流石に」
少年が調理していた肉は、どうやら害獣のようだ。しかも大きい二匹だ。流石に危ないと言いたかったが、それより早く仕留める気満々だったことにルドヴィクは何とも言えない顔をし始めていた。
これが、男の子だと思っていたのが、実は女の子だったと気づいて大変だったが、今は同じ年頃ではなくてまだ小さい男の子だと思っているところなのだが、ルドヴィクは生まれて初めての経験をしていた。
ここは、怖がって悲鳴をあげて、怯えるところなのではないだろうか?
いや、抱きついてこなくとも、身の危険を感じるところなのでは?
まぁ、幼い頃の自分は恐怖のあまり声もでなかったが……。
それこそ、お肉だと目を輝かせる少年に害獣たちの方が怯えているようにルドヴィクには見えた。目の錯覚だと思いたい。耳だけでなく目もやられているのだと思いたい。そんなことありえないはずだ。騎士たちでも数人がかりで倒せるか、どうかの害獣だ。
だが、それが今はその辺にいる家畜と変わらないように見えていた。むしろ害獣に逃げろと言ってやりたい気持ちが大きくなっていることにルドヴィクは頭を抱えたくなっていた。
やばい。どうしよう。幻覚が見えているようだ。そうだ。恐怖のせいで、そんなものを見ているんだ。そうに違いない。
ルドヴィクが、そんなことを思っている間にマリーヌは、やる気でじりじりと近づいていた。そのやる気に害獣が、ぷるぷるし始めているのも、幻覚ではなく、現在ただ今のことでしかなかったことを身をもって知るまで、そんなに時間はかからなかった。
ルドヴィクにとっての恐怖体験の始まりだった。
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