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しおりを挟む「ルドヴィク! 無事か?!」
「あ、あぁ、うん。大丈夫だよ。うん、生きてる。五体満足。かすり傷もないよ。というか、私は何もしてないし……」
「は? おい、本当に大丈夫か?」
幼なじみのオーギュストは、ルドヴィクが何とも言えない顔をして、いつもみたいに余裕そうにしていない。ぼんやりと虚空を見つめている姿に害獣から少年を守りながら戦ったと思っていた。
それこそ、ルドヴィクがとんでもないものを目のあたりにするほど、時間はそんなにかかってはいなかったはずだが、短期間の間にテオドールは、マリーヌから手解きを受けるに十分だったようだ。
二人とも、その点では息ぴったりだったようだ。
「テオドールのやつ、何やってんだ?」
なんか、せっせと忙しなく作業をしているようだ。
オーギュストも、エドガーの疑問に不思議に思い首を傾げたくなっていた。他の騎士たちもそうだった。
怖い思いをして、泣いているのか……?いや、でも、あれは……。楽しそうに見えるなとオーギュストは思った。恐怖で、おかしくなったかとも思い始めていた。
「血抜きして、解体してるとこです」
「は?」
「肉が不味くなるそうです」
「……まさか、テオドールのやつ、教えてもらってんのか?」
エドガーの質問にルドヴィクは頷いていた。
幼なじみのぼんやりする感じに察するものがあった。
だが、喜々としてテオドールが手伝っているように見える。あれは、邪魔したら後が大変になるやつだとエドガーは察するのも早かった。
だから、別のことを口にしていた。
「ガキで野宿なんて言うから、男かと思えば、なんだ。女の子じゃねぇか」
「え?」
「あ、やっぱり、そうなんですね。副団長も、そう言ってました」
「は? え? あれ、女なのか?!」
エドガーの言葉にオーギュストだけでなく、他の騎士たちも、びっくりしていた。見た目が、男の子にしか見えないのだ。
それにエドガーが、不満な声を出した。
「何言ってんだ。まんまだろーが。んなのが、こんなとこで一人で野宿してるなんざ。妙だな」
「まぁ、何にせよ。副団長が間に合ったようで、良かったですな」
「それが、害獣を倒したの。女の子の方なんですよね」
「は?」
ルドヴィクの言葉に流石にそれは無理があるとエドガーですら思った。恐怖でおかしくなっているのは、幼なじみかも知れないとオーギュストは心配していた。
それこそ、害獣にではなくて、無害そうな女の子に恐怖を覚えているのだとは思ってもみなかった。
「おいおい、あんな女の子が倒せるわけないだろ」
「そうだぜ。副団長が狩り殺してるとこ見たら、怖くもなるだろうが、流石に……」
「おや? 皆さん、来られてたんですね」
テオドールにしては、反応が遅かった。気配に敏感なところがあったが、夢中になりすぎるとたまにこうなることをエドガーは知っていた。
それに凄く有意義な時間を過ごしたような爽やかな顔をしていた。所々血まみれだが、そぐわない爽やかな笑顔だ。それが、ミスマッチで怖い。
だが、そんなことにビビるエドガーではなかった。
「おぅ。害獣のことなんだが」
「それなら、こちらにいるマリーヌさんが、仕留めました。今は、解体の仕方を教わっていたところです」
「……マジなのか?」
「?」
エドガーだけではない。流石の他の騎士たちも、女の子が仕留めたとテオドールに聞いて、目を見開いて驚かずにはいられなかった。未だにぼんやりしているのは、ルドヴィクだけだ。
「害獣より、正直なところ人間の女の子の方が怖いと思ったの初めてです」
「……」
ルドヴィクの言葉にエドガーは思った。確かにテオドールが害獣を仕留めるより、この虫も殺せなさそうな女の子が仕留めるのを見たら、そうなりそうだと。
だが、気になることがまだある。
「テオドール。お前、仕留めずに何してたんだ?」
「仕留め方を教わっていまして、見学していました。私のやり方では、美味しく食べるのが難しいそうです。言われて、すぐにわかりませんでしたが、仕留めるのを見ていてよくわかりました。私と比べてマリーヌさんの仕留め方は、実に美しかった」
エドガーは、驚かずにはいられなかった。テオドールは戦闘のことで、いや、狩りというべきか。それでも女の子を褒めたのだ。それどころか、女嫌いな男が、名前を何度も呼んでいるのだ。珍しいどころか、見たこともなかった。名前すら呼びたがらないほど、女という生き物を嫌っていたのをエドガーはよく知っていた。
「ふぅ、騎士様。ありがとうございます」
「いえ、私も勉強になりました。マリーヌさん、ご紹介します。私が属する騎士団の団長のエドガーとその騎士団に属する騎士たちです。団長、こちらマリーヌさんです」
「団長様」
マリーヌは慌てて頭を下げていたが、エドガーはそれをすぐに制した。
「こんばんは。お嬢さん、一人で野宿してると聞いたんだが」
「あ、はい。すみません。お仕事の邪魔でしたよね。知らなかったとはいえ、申し訳ありません」
「いや、謝ることはねぇんだが。あー、それ、仕留めたんだろ?」
「あ、そうでした。皆さんも、食べたことないんですよね? 良ければ、料理しますから、食べてみてください。美味しいんですよ」
「……」
まさかと言う顔をする者ばかりだったが、血抜きを完璧にして、解体の手慣れた姿から騎士団の面々は色々と察したようだ。テオドールは、にこにことしていたのも、気になるところだ。マリーヌが話すのを嬉しそうに聞いているのだ。余程、気に入ったのだろう。
ぼーっとするルドヴィクを他の騎士たちが労り始めていた。オーギュストは、それに混乱しながらも、自分が思いもしない恐怖体験をした幼なじみを心配していた。それこそ、彼が残っていたら泣いていたかも知れない。それをオーギュストは恐怖体験をしたからではなくて、頭でも打ったのではないかと思っているようだ。恐怖で、おかしくなっているのなら、もっと大変だ。この先、騎士として致命的になりかねないが、それをもたらしたのが男の子だと思っていた女の子だと思うまい。
エドガーも、同じ心配をしたが、どうもぶつけたというより、衝撃的な展開についていけないと思っているように見えてならなかった。害獣にあって、新人は毎回、放心したりするのも出るが、それとも違うように見えた。
新人のケアもしたいところだが、それよりは彼女の話を詳しく聞きたい方が勝った。
だが、オーギュストのように腹を腹を鳴らす騎士たちが続出してしまい、そんな大合唱の中にエドガーもいて、みんなでマリーヌが作った料理を食べることになった。
その間も、テオドールはマリーヌの側で料理の手伝いに勤しんでいた。興味があるのは、料理よりも、マリーヌにあるように見えてならなかった。
エドガーは、止めることなく、好きにさせていた。いや、あぁなってるのを変に止めて、やりたいことをやらせないでいると扱いづらくなるのだ。それをよく知っているため、放置していた。
それこそ、騎士団内では暗黙のルールのようになっていて、気になっている騎士たちは多かったが、聞ける強者はいなかった。
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